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本章5 手に入れたもの
幼馴染とリディ
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幼馴染が家族で経営している道具屋を、8年ぶりに訪ねた。
父に連れられて来ていたけど、ここが楽し過ぎて、1人でよく遊びに来ていたのよね。
武器や農作業の道具のほかに、貴金属の加工もしている道具屋。
扉を開けて直ぐに、懐かしい顔が目に飛び込んで来た。
「久しぶりーウルク! 元気だった? すっかり大人になって逞しくなったわね」
「おー、リディか? なんだ、随分美人になったな。少しは良いとこのお嬢様らしくなったのか? いや、そーでもないな。相変わらず洒落っ気のない格好してんだな、お前は。もう少し綺麗な恰好したらどうだ」
「相変わらず一言多いわね。この服が一番動きやすいのよ! そんな事より、この石をチョーカーに加工して欲しいの。石は絶対に削らないで、そのまま嵌めるだけにして欲しいんだけど、今すぐ出来る?」
「はぁー、今すぐって! 突然来て相変わらずだな。まあ、既製品のチョーカーに、石を嵌めるだけなら1時間くらいでできるけど、そんなんで良いのか?」
「うん、それで良い。私が身に着ける感じで作ってくれたら嬉しい」
「おっお前が着けるっ!? アクセサリーに目もくれず、鍬や鎌にしか興味なかったのに、変わったな」
「そんなに驚かないでよ。今もアクセサリーに興味はないわよ。だから、アクセサリーの加工なんて、他にお願いできる人がいないから、ウルクに頼みに来たのよ」
「そりゃそうか、その恰好だもんな。じゃあ作業場に行って来るから、ちょっと待ってろ」
「このまま行って、お店は大丈夫なの?」
「直ぐにサリアが戻ってくるからな」
「まぁ。本当に結婚したのね。相変わらず仲が良いのね」
サリアと話していたら、あっという間に時間が過ぎていた。
想像以上に素敵な出来栄えのチョーカーを受け取り、「すごく良い!」と、装飾品に興味のない私でさえ、声を漏らしてしまう。
蔦をモチーフとしたチョーカーに、魔王の瞳が綺麗に映えている。まぁ、あの魔王がどんな反応をするかは、分かんないけどね。
よし、急いでこれをミレー様へ届けなきゃ。
****
[500年前の日記~聖女ミレーの父~]
私は身ごもの妻と一緒に、教会の供えに使う柊を探しに行った時だった。
木に、もたれて座っている男性へ声をかけた。
その男は、自らを精霊王と名乗る馬鹿げた男だった。
私たちが、気のない返事をしても一向に話を止めない男に、正直呆れていた。
牧師である私は、人間ごときに、精霊を視覚で捉えられないことは熟知している。
その男の発言は、もはや精霊を冒涜している。私は、その不届きものに腹を立てていた。
男は、「有り余るほどの時間がありながら、後継者を残すことなく、小さな精霊達に、存分に力を分けながら、気ままに過ごしていた」と宣った。
呆れていた私の事を構うことなく、男は話を続ける。
過剰な力を持つ故、徐々に弱まっていた自分の衰えに気づかなかったと。
男の話は、一向に終わらず、腹立たしかったが、鬼気迫る話し方に、私たちは、その場を離れられずにいた。
男は「突然体を動かせなくなり、初めて力の衰弱を自覚した。急ごしらえで、次代へ王の力を引き継ぐ相手を探している。いざ、森にいる精霊達を探すも、何故か今日は王の前に、精霊達が現れないが、もう限界だ。人間は、寿命が短いから期待はできないが、ここで尽きるより、それに託す」と言って、妻の膨れた腹に断りもなく触れた。
言動も気持ち悪い男が、妻に触れた事で我慢の限界がきた。
私たちは、男から直ぐに逃げ出した。
これは、あの日、日記に書く気もなかった出来事だった。
だが、生まれてきたミレーの力は、人外としか言いようがない。
ミレーは確かに私たちの子である。だが、あの時、あの男が、妻の腹の中の赤子に何かした。
どうしたら、ミレーが持っている力を、森にいる精霊の誰かに返し、精霊王の力を引き渡せるのか?
あの日、あの男の言葉を信じていなかった私には、わからない。
ミレーが精霊王の力を返さずに人間の寿命を終えたら、この国の、精霊の力は弱まってしまう。未来永劫人間とは無縁の力となるだろう。
精霊たちが守っている、森も失われるかもしれない。
精霊王の力が森を癒し、植物と魔物、人間のバランスが取れていたのだ。
森の木々は、精霊によって生き生きと茂っているというのに。
精霊に力を与えている精霊王の力が、この世からなくなれば、森はあっと言う間に魔物に食い荒らされ、枯れてしまう。
私の懺悔は、誰が聞き受けてくれるのか。
愚かな私のせいで、世界を壊してしまう。私の罪は許されるはずがない。
ミレー、お前にどうやってこの事を伝えたら良いのかもわからない。
****
500年前に、バランスが崩れる危機に陥っていた。
だけど、魔王と精霊王、どちらの王も封印されてしまったため、魔物も増えず、小さな精霊達によって森を保っていた……。
500年後の今、魔王だけが復活してしまい、精霊王の力を持つミレー様は封印されたまま。
何としても、ミレー様の封印を解かなきゃ。
父に連れられて来ていたけど、ここが楽し過ぎて、1人でよく遊びに来ていたのよね。
武器や農作業の道具のほかに、貴金属の加工もしている道具屋。
扉を開けて直ぐに、懐かしい顔が目に飛び込んで来た。
「久しぶりーウルク! 元気だった? すっかり大人になって逞しくなったわね」
「おー、リディか? なんだ、随分美人になったな。少しは良いとこのお嬢様らしくなったのか? いや、そーでもないな。相変わらず洒落っ気のない格好してんだな、お前は。もう少し綺麗な恰好したらどうだ」
「相変わらず一言多いわね。この服が一番動きやすいのよ! そんな事より、この石をチョーカーに加工して欲しいの。石は絶対に削らないで、そのまま嵌めるだけにして欲しいんだけど、今すぐ出来る?」
「はぁー、今すぐって! 突然来て相変わらずだな。まあ、既製品のチョーカーに、石を嵌めるだけなら1時間くらいでできるけど、そんなんで良いのか?」
「うん、それで良い。私が身に着ける感じで作ってくれたら嬉しい」
「おっお前が着けるっ!? アクセサリーに目もくれず、鍬や鎌にしか興味なかったのに、変わったな」
「そんなに驚かないでよ。今もアクセサリーに興味はないわよ。だから、アクセサリーの加工なんて、他にお願いできる人がいないから、ウルクに頼みに来たのよ」
「そりゃそうか、その恰好だもんな。じゃあ作業場に行って来るから、ちょっと待ってろ」
「このまま行って、お店は大丈夫なの?」
「直ぐにサリアが戻ってくるからな」
「まぁ。本当に結婚したのね。相変わらず仲が良いのね」
サリアと話していたら、あっという間に時間が過ぎていた。
想像以上に素敵な出来栄えのチョーカーを受け取り、「すごく良い!」と、装飾品に興味のない私でさえ、声を漏らしてしまう。
蔦をモチーフとしたチョーカーに、魔王の瞳が綺麗に映えている。まぁ、あの魔王がどんな反応をするかは、分かんないけどね。
よし、急いでこれをミレー様へ届けなきゃ。
****
[500年前の日記~聖女ミレーの父~]
私は身ごもの妻と一緒に、教会の供えに使う柊を探しに行った時だった。
木に、もたれて座っている男性へ声をかけた。
その男は、自らを精霊王と名乗る馬鹿げた男だった。
私たちが、気のない返事をしても一向に話を止めない男に、正直呆れていた。
牧師である私は、人間ごときに、精霊を視覚で捉えられないことは熟知している。
その男の発言は、もはや精霊を冒涜している。私は、その不届きものに腹を立てていた。
男は、「有り余るほどの時間がありながら、後継者を残すことなく、小さな精霊達に、存分に力を分けながら、気ままに過ごしていた」と宣った。
呆れていた私の事を構うことなく、男は話を続ける。
過剰な力を持つ故、徐々に弱まっていた自分の衰えに気づかなかったと。
男の話は、一向に終わらず、腹立たしかったが、鬼気迫る話し方に、私たちは、その場を離れられずにいた。
男は「突然体を動かせなくなり、初めて力の衰弱を自覚した。急ごしらえで、次代へ王の力を引き継ぐ相手を探している。いざ、森にいる精霊達を探すも、何故か今日は王の前に、精霊達が現れないが、もう限界だ。人間は、寿命が短いから期待はできないが、ここで尽きるより、それに託す」と言って、妻の膨れた腹に断りもなく触れた。
言動も気持ち悪い男が、妻に触れた事で我慢の限界がきた。
私たちは、男から直ぐに逃げ出した。
これは、あの日、日記に書く気もなかった出来事だった。
だが、生まれてきたミレーの力は、人外としか言いようがない。
ミレーは確かに私たちの子である。だが、あの時、あの男が、妻の腹の中の赤子に何かした。
どうしたら、ミレーが持っている力を、森にいる精霊の誰かに返し、精霊王の力を引き渡せるのか?
あの日、あの男の言葉を信じていなかった私には、わからない。
ミレーが精霊王の力を返さずに人間の寿命を終えたら、この国の、精霊の力は弱まってしまう。未来永劫人間とは無縁の力となるだろう。
精霊たちが守っている、森も失われるかもしれない。
精霊王の力が森を癒し、植物と魔物、人間のバランスが取れていたのだ。
森の木々は、精霊によって生き生きと茂っているというのに。
精霊に力を与えている精霊王の力が、この世からなくなれば、森はあっと言う間に魔物に食い荒らされ、枯れてしまう。
私の懺悔は、誰が聞き受けてくれるのか。
愚かな私のせいで、世界を壊してしまう。私の罪は許されるはずがない。
ミレー、お前にどうやってこの事を伝えたら良いのかもわからない。
****
500年前に、バランスが崩れる危機に陥っていた。
だけど、魔王と精霊王、どちらの王も封印されてしまったため、魔物も増えず、小さな精霊達によって森を保っていた……。
500年後の今、魔王だけが復活してしまい、精霊王の力を持つミレー様は封印されたまま。
何としても、ミレー様の封印を解かなきゃ。
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