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本章5 手に入れたもの

触れ合う心と、もう1回

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 私の横にジュリアスが座り、ゆっくり引き寄せられる。
 少しの間をおいて、喜びの表情を見せていたジュリアスの表情が、一瞬で険しいものに変わる。
 

「さて、リディが私を振り回していた事がどうなったのか、納得するまで聞かせてもらうか」
 えっ、もしかしてなんか怒ってる? ジュリアスの事は、振り回して無いのにどうなってるの。その事も気になるけど、それよりも、ちゃんと伝えなきゃいけない。

 きちんと分かってる。魔王の事は、隠したままに出来ないこと。
 この国を守るジュリアスに、全てを見極めてもらわなくてはいけない。
 それに、魔王と約束みたいなものを交わしてしまったし。
 

 500年前の王族がミレー様へ命令したことで、魔王が封印され、この国は魔力を失った。
 長い年月が経ち、魔法の知識が失われたこの時代に、魔王の力が復活してしまった。
 私たちは、これから魔力と魔法に向き合わなきゃいけない。

 
 ジュリアスが私を抱き寄せるように回した腕に、途中何度も力が入っていた。
 私に何か言いたいことは自然と伝わった。それでも、魔王とミレー様の話を、遮ることなく全て聞いてくれた。
 1人では抱えきれない気持ちを、ジュリアスと一緒に分かち合えて、互いの心が通い合ったのを感じる。

 私を甘えさせてくれてありがとうジュリアス。
 ジュリアスの隣は心地良くて、もう、ずっと、離れられそうにない。



****

(SIDE ジュリアス第2王子)

 信じられないことを、次々に伝えてくるリディ。
 危なく、詰め寄って叱責しそうになったのを必死に堪えた。
 レイルと2人で魔王に遭遇して、殺されそうになっただとっ! 無茶し過ぎだ。
 レイルから報告できないと言われた時から、リディが何かやらかしている事は分かっていたが、それにしても、1人で魔王の元へ向かったなど、想像できる訳がない。
 リディのおかげで、魔王と精霊王の力を持つ聖女ミレーが、自分たちの守るべき道を進むことになる。
 それぞれの生活を脅かさなければ、今後も、人と魔族が争うことはないだろう。

 リディは何でもないように話しているが、分かっているのか!? たった1人で、ノマーン王国の危機を回避してきたことを。
 貴女はもう少し、自分の価値を理解すべきだが、これからも自分を顧みず、人々のために動くのだろう。
 そんなリディには感謝しかない。私が出来るのは、自由奔放な貴女が、一生私の傍で笑っていられるように護る事だと心に誓う。
 
 だが、私を虜にした女性は、この先、どこまで私の気持ちを不安にさせるのだろうか。リディの自由さは、私の想像以上だったな。
 本音では、バルコニーでリディへ伝えた言葉も、心に誓った宣言も撤回したいくらいだ。

 こんな危険な彼女を、1人で自由にさせるのは無理だと理解した。
 私が常に同行すると言ったら、クルリが絶対に許さないだろう。
 だからと言って、彼女の傍に他の男が居るなど、私の身が持たない。

 リディの話からも、やはり唯一任せられるのは……。
 だが、偶然立ち寄った建物に聖女ミレーの石像があるような、偶然を引き当てる人物と、リディを一緒にして大丈夫なのだろうか。
 幸せそうな顔をしているリディは、きっと私の心配なんて、気にしてないだろう。

 
****


「どうしたの? ジュリアス?」
「明日、レイルに謝らなければならないな。むしろ礼を言うべきだったのに、酷い誤解をして、言ってはならない言葉を口にした」
「なんで、そんな誤解をしたの?」
「それは、リディが幼馴を選んだと思ったから……、いや、この話は情けないからリディには聞かせられない」
「ん? どういうこと……」
 ジュリアスが言いかけた事が気になったけど、ここまでの話で相当時間がかかって疲れたから、聞くのは、また今度にしよう。

 
「結局、リディ1人で何とかしてしまうなんてな……。リディには適わないな」
「う、ぇえー」
 突然、体を持ち上げられて、ジュリアスの上に乗せられ、言葉にならない変な声が出てしまう。

 
 真直ぐ私を見つめるジュリアス。自然とその瞳を見つめ返す。
 男性らしい手だけど優しい手つきで頬を撫でられる。
 感情を擽られる。
 誰かに触れられることが、こんなに心地良いなんて知らなかった。
 ずっと、触れていて欲しい。この温もりをもっと感じたい……。

 嫌な記憶しかなかった王城だったけど、こんなに幸せな時間と場所が、あるなんて知らなかった。
 ジュリアスの甘い笑顔に、自然と顔が綻ぶ。

 温かくて優しい吐息がかかり、唇に柔らかい感覚が触れる。
 その感覚をもっと感じたくて、無意識に体が動く。

 知らなかった……あんなに恥ずかしかった口づけが、こんなに幸せな気持ちになるなんて。
 名残惜しく互いの唇が離れ、互いの瞳に相手の姿を映す。

 目頭が熱くなって、ジンとする微かな感覚。
 あぁーそうか。私自身が見ないふりをしていたけど、ずっと寂しくて、甘えたかったんだ。
 あなたの事が大好き過ぎて、もう離れられない。

「ジュリアス……」
「何だ? えっ、また、何か間違った……」
「すごく幸せで、嬉しくて……。ねぇ、もう1回したい」

 破顔するジュリアス。
「リディ……。リディがこの部屋に来た時に、宣言したことを撤回したいのだが」
「何の宣言を? そんな駄目よ。守れないことを簡単に口にするなんて、ジュリアスらしくない」

「いや、それは、あの時は大丈夫だと思ったけど、今はちょっと無理な……。うぅークルリめー。この責任は絶対に取ってもらうからな」
「ん? どうしてクルリが出てくるの?」
「それは、こっちの問題だからリディは気にするな。リディが気にするのは、私の事だけでいい……、愛してる」

 
 想いが通じ合ったばかりの恋人同士が、互いに想いを伝えあうように、再び交わした口づけが続いた。
 
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