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05 蜜月
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◇
お母上は使用人たちを玄関ホールに集めた。
「よく聞いて。今から襲撃があります」
肩に雀を乗せ、女主人はキリリと言った。使用人たちは頷いた。
(良かった。皆で逃げよう)
ブランカは安堵した。しかしメイド風の女性が物騒な事を言い出した。
「敵はいかほどでしょう?」
お母上は首を振った。
「不明です。暗殺ギルドなら、Aランク相当が10人は来るでしょう」
「では殺傷許可を」
「許可します」
メイド達がスカートから武器を取り出した。お爺さんたちもシャキッと腰を伸ばして剣を取った。ブランカは驚愕した。
「チチッ!チチチーッ?!(お母上!逃げないの?!)」
雀の頭を撫でながら、お母上は部屋に戻った。そして動きやすい丈のスカートに着替えた。
「安心なさい。護衛は端から信じてないわ。ウチの使用人は全て戦闘員なのよ」
ええっ。ブランカが呆然としていると、若いメイドが駆け込んできた。
「奥方様っ!敵が庭に侵入!Aランク、数50」
「Aランクが50…厳しいわね」
お母上の顔色が変わった。ブランカはまた本に飛び移り、文字を指した。
「れ・お・さ・ま・よ・ぼ・う・て・が・み」
レオ様呼ぼう。手紙書いて。届ける。
「雀ちゃん…そうね」
お母上はペンを取ると、小さな紙に救援要請を書いた。それを細長く折ってブランカの足に結んだ。玄関ホールから金属を打ち合う音がする。もう敵が入ってきたのだ。
「この先、南へ2千メートルにレオのいる司令部があるわ。さ、この匂いを嗅いで」
お母上がレオナルド王子の寝間着を持って来た。犬じゃないんだけど。
「今朝まで着ていたものよ」
ブランカは仕方なく洗濯物に頭を突っ込んだ。良い匂い。背徳感でクラクラする。でも覚えた。雀はパッと羽ばたき、窓から飛び出した。
◆
レオナルドは食堂に向かう途中だった。異様な気配に身体が反応した。彼は咄嗟に避けた。
「ぎゃっ!!」
隣を歩いていた副官の頭に何かが当たった。衝撃で眼鏡が吹っ飛ぶ。
「大丈夫か?レフ」
「痛たた…何だこりゃ?」
白い鳥が落ちている。レオナルドはそれを拾い上げた。雀だ。目を閉じてぐったりしている。指でつつくと起きた。赤い目と目が合った。
「チッ!チチチッ!」
小さな嘴が脚に結ばれた文を指す。
「レフ」
「はっ!」
副官が器用に結び目を解き、手紙を差し出した。それを読んだレオナルドは踵を返した。速足で歩きながら指示を出す。
「屋敷が襲われた。母が危ない。今何人動かせる?」
「殿下の近衛10人。軍は動かせません。王城内ですので」
レフは眼鏡を直しながらついて来た。レオナルドは怒りでどうにかなりそうだった。
(兄たちの仕業だ。クソ共が!いつか殺す!)
馬に乗ろうとして、掌にいた雀がいないのに気づいた。だが今は時間が無い。
「行くぞ!」
彼は信用できる部下だけを連れて屋敷に向かった。
◆
「母上!ご無事ですか!?」
玄関ホールには暗殺者たちが倒れている。二階で戦う音が聞こえた。レオナルドは階段を駆け上がった。
「母上!」
戦闘メイドと刺客は乱戦となっている。母の姿を探すと、3人の敵に囲まれていた。近づこうにも敵が多い。レオナルドは焦った。すると白い雀が突っ込んで来た。
「チチチッ!チィーッ!」
敵の目をつつく。反撃されると素早く躱し、急降下してまた目を狙う。
「雀ちゃん!後ろよ!」
「チッ!」
見事に母を守っている。お陰で余裕ができた。王子は冷静に敵を屠っていった。部下たちもメイドらと連携し始めた。やがて敵は全て殺すか戦闘不能になった。同時に雀が落下した。母が慌てて受け止めた。
「寝てるわ。疲れたのね」
母は愛おし気に小鳥を撫でた。レオナルドも覗き込んだ。
「この子、蜘蛛ちゃんよね?」
「はい」
ブランカだ。
◆
敵の死体を片づけ終わった頃、王城の警護隊が来た。健在な母を見て青くなっていた。警護を解いた理由を訊いても答えない。レオナルドは殺意を覚えた。
こいつらは何をしようと裁かれない。いっそ殺すか。討ち死にした事にして。剣を抜きかけると、
「チチチッ!」
急にブランカが起きた。警護隊の奴らに飛びかかる。小さな嘴でつつき、鉤爪で引っ掻く。怒り狂っている。レオナルドは呆気に取られた。雀は不忠者らを追い出すと、母の手に戻った。
「良くやったわ!雀ちゃん!」
母は大笑いした。彼の怒りもどこかへ行ってしまった。
◇
影の僕計画は失敗した。ブランカはお母上と王子に可愛がられている。お二人のペットとなってしまった。
「雀ちゃん。お勉強の時間よ」
「チチッ」
昼間はお母上が令嬢教育をしてくれる。カーテシーとかダンスとか。実践はできない。見るだけだ。今日はピアノを教えてもらった。これなら出来そうだ。ブランカは鍵盤を脚で押して音を出した。
夜、仕事から帰った王子に聴かせる。彼は腹を抱えて笑った。
「母上はお前に何を仕込んでるんだか」
では俺も教えてやろう、と大きな手が差し出された。
「ブランカ。お手」
(だから犬じゃないって)
雀は渋々羽を王子の手に乗せた。おかわり、お座りも命じられる。
「良い子だ。そら食え」
王子は手ずから褒美のクッキーをくれた。嬉しい。可愛らしい雀になって良かった。だが幸福は続かなかった。
訓練中にレオナルド王子が倒れたのだ。
お母上は使用人たちを玄関ホールに集めた。
「よく聞いて。今から襲撃があります」
肩に雀を乗せ、女主人はキリリと言った。使用人たちは頷いた。
(良かった。皆で逃げよう)
ブランカは安堵した。しかしメイド風の女性が物騒な事を言い出した。
「敵はいかほどでしょう?」
お母上は首を振った。
「不明です。暗殺ギルドなら、Aランク相当が10人は来るでしょう」
「では殺傷許可を」
「許可します」
メイド達がスカートから武器を取り出した。お爺さんたちもシャキッと腰を伸ばして剣を取った。ブランカは驚愕した。
「チチッ!チチチーッ?!(お母上!逃げないの?!)」
雀の頭を撫でながら、お母上は部屋に戻った。そして動きやすい丈のスカートに着替えた。
「安心なさい。護衛は端から信じてないわ。ウチの使用人は全て戦闘員なのよ」
ええっ。ブランカが呆然としていると、若いメイドが駆け込んできた。
「奥方様っ!敵が庭に侵入!Aランク、数50」
「Aランクが50…厳しいわね」
お母上の顔色が変わった。ブランカはまた本に飛び移り、文字を指した。
「れ・お・さ・ま・よ・ぼ・う・て・が・み」
レオ様呼ぼう。手紙書いて。届ける。
「雀ちゃん…そうね」
お母上はペンを取ると、小さな紙に救援要請を書いた。それを細長く折ってブランカの足に結んだ。玄関ホールから金属を打ち合う音がする。もう敵が入ってきたのだ。
「この先、南へ2千メートルにレオのいる司令部があるわ。さ、この匂いを嗅いで」
お母上がレオナルド王子の寝間着を持って来た。犬じゃないんだけど。
「今朝まで着ていたものよ」
ブランカは仕方なく洗濯物に頭を突っ込んだ。良い匂い。背徳感でクラクラする。でも覚えた。雀はパッと羽ばたき、窓から飛び出した。
◆
レオナルドは食堂に向かう途中だった。異様な気配に身体が反応した。彼は咄嗟に避けた。
「ぎゃっ!!」
隣を歩いていた副官の頭に何かが当たった。衝撃で眼鏡が吹っ飛ぶ。
「大丈夫か?レフ」
「痛たた…何だこりゃ?」
白い鳥が落ちている。レオナルドはそれを拾い上げた。雀だ。目を閉じてぐったりしている。指でつつくと起きた。赤い目と目が合った。
「チッ!チチチッ!」
小さな嘴が脚に結ばれた文を指す。
「レフ」
「はっ!」
副官が器用に結び目を解き、手紙を差し出した。それを読んだレオナルドは踵を返した。速足で歩きながら指示を出す。
「屋敷が襲われた。母が危ない。今何人動かせる?」
「殿下の近衛10人。軍は動かせません。王城内ですので」
レフは眼鏡を直しながらついて来た。レオナルドは怒りでどうにかなりそうだった。
(兄たちの仕業だ。クソ共が!いつか殺す!)
馬に乗ろうとして、掌にいた雀がいないのに気づいた。だが今は時間が無い。
「行くぞ!」
彼は信用できる部下だけを連れて屋敷に向かった。
◆
「母上!ご無事ですか!?」
玄関ホールには暗殺者たちが倒れている。二階で戦う音が聞こえた。レオナルドは階段を駆け上がった。
「母上!」
戦闘メイドと刺客は乱戦となっている。母の姿を探すと、3人の敵に囲まれていた。近づこうにも敵が多い。レオナルドは焦った。すると白い雀が突っ込んで来た。
「チチチッ!チィーッ!」
敵の目をつつく。反撃されると素早く躱し、急降下してまた目を狙う。
「雀ちゃん!後ろよ!」
「チッ!」
見事に母を守っている。お陰で余裕ができた。王子は冷静に敵を屠っていった。部下たちもメイドらと連携し始めた。やがて敵は全て殺すか戦闘不能になった。同時に雀が落下した。母が慌てて受け止めた。
「寝てるわ。疲れたのね」
母は愛おし気に小鳥を撫でた。レオナルドも覗き込んだ。
「この子、蜘蛛ちゃんよね?」
「はい」
ブランカだ。
◆
敵の死体を片づけ終わった頃、王城の警護隊が来た。健在な母を見て青くなっていた。警護を解いた理由を訊いても答えない。レオナルドは殺意を覚えた。
こいつらは何をしようと裁かれない。いっそ殺すか。討ち死にした事にして。剣を抜きかけると、
「チチチッ!」
急にブランカが起きた。警護隊の奴らに飛びかかる。小さな嘴でつつき、鉤爪で引っ掻く。怒り狂っている。レオナルドは呆気に取られた。雀は不忠者らを追い出すと、母の手に戻った。
「良くやったわ!雀ちゃん!」
母は大笑いした。彼の怒りもどこかへ行ってしまった。
◇
影の僕計画は失敗した。ブランカはお母上と王子に可愛がられている。お二人のペットとなってしまった。
「雀ちゃん。お勉強の時間よ」
「チチッ」
昼間はお母上が令嬢教育をしてくれる。カーテシーとかダンスとか。実践はできない。見るだけだ。今日はピアノを教えてもらった。これなら出来そうだ。ブランカは鍵盤を脚で押して音を出した。
夜、仕事から帰った王子に聴かせる。彼は腹を抱えて笑った。
「母上はお前に何を仕込んでるんだか」
では俺も教えてやろう、と大きな手が差し出された。
「ブランカ。お手」
(だから犬じゃないって)
雀は渋々羽を王子の手に乗せた。おかわり、お座りも命じられる。
「良い子だ。そら食え」
王子は手ずから褒美のクッキーをくれた。嬉しい。可愛らしい雀になって良かった。だが幸福は続かなかった。
訓練中にレオナルド王子が倒れたのだ。
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