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一章 聖女、旅に出る
1.聖女、天上議会に出席する
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一度決まれば、アデル少年の行動は早かった。
何がなにやら分からないうちに、俺を風呂に押し込み、妙に豪華な衣装を着せ、髪を結い上げた。
これ全部一人でやっているのだから、騎士というのはアレだ、俺が思ってるより器用……なのか?
「残念ながら、僕はまだ騎使じゃない。騎使見習だ」
「あん? 正式な騎士じゃないってことか」
「天上議会に出るなら、アジール聖教会の組織についても教えないといけないな」
ってことで、アデルくんは有能にも、俺の髪をめちゃくちゃ複雑な形に編みながら、アジール聖教会の全体構成についても講義してくれたのだった。
まあ、半分以上聞き流していたのだが。
「聞いてるのか?」
「あー聞こえてる聞こえてる。続けろよ」
「ならいいが……それで、十九使徒の下には――」
聞こえてはいる。が、頭の中には残ってない。
俺は好き勝手に髪をいじられつつ、全然違うことについて考えていた。
つまり、なぜ、侍女やらお付きの娘やらではなくアデル少年が俺の世話を焼くのかっていう謎について。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
準備万端――とはいかないが、とりあえずできることはやった後。
俺たちは天上議会の議場前まで歩いてきた。
お供は相変わらずアデル少年一人。あちこちで人の気配はするのだが、俺のそばには来てくれない。
幼馴染少年との時間を邪魔しちゃならんという遠慮のためか。はたまた、聖女とやらが近付くのも恐れ多い存在だからなのか。
議場の入り口、巨大な純白の扉の前で、アデル少年がちらりと俺を見る。
「準備はいいか? さっき教えたことはきちんとおぼえたな?」
「ああ、だいじょぶだいじょぶ。ちゃーんとうまいことやってやるから、早く開けろって」
「くそっ、まったく信用できないんだが……」
信用はできないが、他に方法がないという状況に、アデル少年たら自分でいらいらしているらしい。
「そうカリカリしてはダメよ、アデル。わたくし、これくらいは一人でこなせます」
「……おい」
少年が目を見開く。
そのあからさまな驚きの表情に気を良くして、俺はにまりと笑い返した。
「こういう感じなんだろ? もう耳にたこができたぜ」
「…………」
しばらくまじまじと俺を見ていた。
よほどうまくできてたらしい。なんだ、簡単じゃねぇか。
が、フリーズしてしまったアデル少年は俺が顎をしゃくって見せても扉を開けようとしてくれない。
仕方ない。俺は肩をすくめて自分で扉を押した。
見た目よりもはるかに軽い扉が室内へ向けて開く。
向こうに見えるのも、また真っ白な部屋だった。
白い硬質の床の上には、重々しい銀の円卓がましましている。
円卓のこちら側に腰かけていた人物が、俺を見てそれぞれ立ち上がった。
「聖女リュイーゼさま。お元気そうでなによりですな」
扉に最も近い場所に座っていたのは、総白髪のじいさんだった。年は食っているが、立ち上がった動きから見ても身が軽い。体重もそこそこありそうだし、何より緑の目の鋭さが、油断のならなさを語っている。しかも、どう見てもその視線は俺に敵意があるとしか思えない。
事前のアデル情報がなけりゃ、まあ、そういう顔立ちの偏屈な爺さんなんだな、と思わなくも……いや、無理だな。
俺の後ろについて入ってきたアデル少年が「あれが十九使徒の長だ」とぼそりと呟いた。
なるほど。この爺さんが十九使徒の長、第一使徒ルーチェロらしい。
想像してた以上にガチでやばそうな人物だ。
「チェルーロさまも、今日もお若くてなによりですこと」
当てつけを口にしつつ微笑み返すと、ぎらりと緑の目が光った。さすが、武力部門の長は迫力が違う。爺が眉をひそめていると、その向こうから、胡散臭げな片眼鏡の男がひょいと顔を覗かせた。
「こんにちは、リュイーゼさま。相変わらずアデルベルトくんの送り迎えつきですか?」
俺の後ろでアデル少年がぎりりと歯を鳴らした。すぐに、何もなかったかのような無表情に戻ったが。
どうやら、聖女の世話係が幼馴染の少年だけってのは変だという俺の認識は、この世界・この組織でもだいたい通じてるようだ。
ひとまずそこには触れず、俺は微笑みを動かさずにそちらに向き直った。
天上議会に参加するのは、聖女の俺を除外すれば、男が二人、女が一人。さっきの爺がルーチェロならば、残った方は――アデルの補佐がなくとも、片眼鏡の名前は想像がつく。
聖七冠位の長、第一衣冠セルジャック。
「ごきげんよう、ジャッセルクさま。あなたにも早く、一緒にいてくれるお友だちができますよう」
「これは手厳しい」
苦笑した片眼鏡が引っ込んだ。
これでようやく席につける。途中、派手な女がひらひら手を振っているが。アデルの話の通りなら、これが三組織最後の長ということになる。
派手な金髪を高く盛った赤い瞳、胸元のきわどく開いたドレスも相まって、俺の感想としては新宿辺りのガールズバーにいそうだなって思うんだが。
八貨祭祀の長、第一金貨のマドラディだ。
「やっ、リュイーゼちゃん。今日も可愛いじゃん」
「ありがとう、マディラドゥ。あなたのドレスも素敵だわ」
「……マディラド?」
俺の背中で、アデル少年が深いため息をついている。
……あん? 俺、今なんか間違ったっけ?
何がなにやら分からないうちに、俺を風呂に押し込み、妙に豪華な衣装を着せ、髪を結い上げた。
これ全部一人でやっているのだから、騎士というのはアレだ、俺が思ってるより器用……なのか?
「残念ながら、僕はまだ騎使じゃない。騎使見習だ」
「あん? 正式な騎士じゃないってことか」
「天上議会に出るなら、アジール聖教会の組織についても教えないといけないな」
ってことで、アデルくんは有能にも、俺の髪をめちゃくちゃ複雑な形に編みながら、アジール聖教会の全体構成についても講義してくれたのだった。
まあ、半分以上聞き流していたのだが。
「聞いてるのか?」
「あー聞こえてる聞こえてる。続けろよ」
「ならいいが……それで、十九使徒の下には――」
聞こえてはいる。が、頭の中には残ってない。
俺は好き勝手に髪をいじられつつ、全然違うことについて考えていた。
つまり、なぜ、侍女やらお付きの娘やらではなくアデル少年が俺の世話を焼くのかっていう謎について。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
準備万端――とはいかないが、とりあえずできることはやった後。
俺たちは天上議会の議場前まで歩いてきた。
お供は相変わらずアデル少年一人。あちこちで人の気配はするのだが、俺のそばには来てくれない。
幼馴染少年との時間を邪魔しちゃならんという遠慮のためか。はたまた、聖女とやらが近付くのも恐れ多い存在だからなのか。
議場の入り口、巨大な純白の扉の前で、アデル少年がちらりと俺を見る。
「準備はいいか? さっき教えたことはきちんとおぼえたな?」
「ああ、だいじょぶだいじょぶ。ちゃーんとうまいことやってやるから、早く開けろって」
「くそっ、まったく信用できないんだが……」
信用はできないが、他に方法がないという状況に、アデル少年たら自分でいらいらしているらしい。
「そうカリカリしてはダメよ、アデル。わたくし、これくらいは一人でこなせます」
「……おい」
少年が目を見開く。
そのあからさまな驚きの表情に気を良くして、俺はにまりと笑い返した。
「こういう感じなんだろ? もう耳にたこができたぜ」
「…………」
しばらくまじまじと俺を見ていた。
よほどうまくできてたらしい。なんだ、簡単じゃねぇか。
が、フリーズしてしまったアデル少年は俺が顎をしゃくって見せても扉を開けようとしてくれない。
仕方ない。俺は肩をすくめて自分で扉を押した。
見た目よりもはるかに軽い扉が室内へ向けて開く。
向こうに見えるのも、また真っ白な部屋だった。
白い硬質の床の上には、重々しい銀の円卓がましましている。
円卓のこちら側に腰かけていた人物が、俺を見てそれぞれ立ち上がった。
「聖女リュイーゼさま。お元気そうでなによりですな」
扉に最も近い場所に座っていたのは、総白髪のじいさんだった。年は食っているが、立ち上がった動きから見ても身が軽い。体重もそこそこありそうだし、何より緑の目の鋭さが、油断のならなさを語っている。しかも、どう見てもその視線は俺に敵意があるとしか思えない。
事前のアデル情報がなけりゃ、まあ、そういう顔立ちの偏屈な爺さんなんだな、と思わなくも……いや、無理だな。
俺の後ろについて入ってきたアデル少年が「あれが十九使徒の長だ」とぼそりと呟いた。
なるほど。この爺さんが十九使徒の長、第一使徒ルーチェロらしい。
想像してた以上にガチでやばそうな人物だ。
「チェルーロさまも、今日もお若くてなによりですこと」
当てつけを口にしつつ微笑み返すと、ぎらりと緑の目が光った。さすが、武力部門の長は迫力が違う。爺が眉をひそめていると、その向こうから、胡散臭げな片眼鏡の男がひょいと顔を覗かせた。
「こんにちは、リュイーゼさま。相変わらずアデルベルトくんの送り迎えつきですか?」
俺の後ろでアデル少年がぎりりと歯を鳴らした。すぐに、何もなかったかのような無表情に戻ったが。
どうやら、聖女の世話係が幼馴染の少年だけってのは変だという俺の認識は、この世界・この組織でもだいたい通じてるようだ。
ひとまずそこには触れず、俺は微笑みを動かさずにそちらに向き直った。
天上議会に参加するのは、聖女の俺を除外すれば、男が二人、女が一人。さっきの爺がルーチェロならば、残った方は――アデルの補佐がなくとも、片眼鏡の名前は想像がつく。
聖七冠位の長、第一衣冠セルジャック。
「ごきげんよう、ジャッセルクさま。あなたにも早く、一緒にいてくれるお友だちができますよう」
「これは手厳しい」
苦笑した片眼鏡が引っ込んだ。
これでようやく席につける。途中、派手な女がひらひら手を振っているが。アデルの話の通りなら、これが三組織最後の長ということになる。
派手な金髪を高く盛った赤い瞳、胸元のきわどく開いたドレスも相まって、俺の感想としては新宿辺りのガールズバーにいそうだなって思うんだが。
八貨祭祀の長、第一金貨のマドラディだ。
「やっ、リュイーゼちゃん。今日も可愛いじゃん」
「ありがとう、マディラドゥ。あなたのドレスも素敵だわ」
「……マディラド?」
俺の背中で、アデル少年が深いため息をついている。
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