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12、お嫁に行けない。

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「はじめっ!」

 誰だかわからないオッサンの号令で始まった駆けっこ対決。


 走る速さは基本的に『体力』とボタン連打で決まる。
 俺の体力はこの中ではゴードンと同じ最高値。
 
 ───後はボタンの連打!

 ‥‥‥ボタン連打ってどうやるんだろうな?
 よし! わからん!

 とりあえず必死で足を動かす!



「アルバート、やるじゃねぇか!」

「ひぃ、来た!」

「テメェは人をバケモンみたいに‥‥‥」

 スタートダッシュに成功し、快調に独走していた俺。

 この身体は動きやすかった。
 想像してた以上に走れる。
 多分『体力』28とは、現実世界の元の身体より運動能力が上なのだろう。
 なんなら、かなり運動神経は良い方だと思う。

 だがしかし、独走も束の間。
 機関車に追いつかれ並走されてしまっている。

「ゴードン、後でなんかあげるからココは譲ってくれ!」

「そんな八百長じみた危ない話、衆人環視の中でよく言えるな‥‥‥」

 もちろん2人とも全力疾走中。

「うるさい! 俺はお前を倒し、絶対2位になるんだ!」

「‥‥‥こころざしが低くねぇか?」

 超美麗ネロはまだ俺たちの大分後方にいるが、おそらく何かしらよくわからない力が働きトップに躍り出るはず。
 この機関車には負けられん!

「あっ! あんな所に裸の女子生徒が!」

「んな手に引っかかるか!」


 競り合いぶつかり合いながら、前に進む俺とゴードン。
 やはり運動能力は同じくらい。

 後はボタンの連打勝負だが何をしたらいいのかはわからない。

 ───ただ前を見て走るのみ!


 
「オラァ~~!!」

「ぐぬぬぬ~~!」

 変な奇声をあげながら譲らない2人。
 ゴールまでもう少し。
 気になるネロはまだ後方。
 
 ───コレ、もしかして機関車に勝てれば1着もあるんじゃね?!

 ゲームと違い、別にチュートリアルなんて存在してないから、もしかして超美麗ネロ様が絶対に勝つなんて事はないのか?
 ならば‥‥‥獲れるなら‥‥‥1位を狙う!

 ゴールテープはもう目と鼻の先。
 そこで奇跡が起こる。
 
「うおっ!」

 足をもつれさせ、コースから脱線しそうになっている機関車ゴード◯。

 ───勝った!

 勝利を確信した俺の下腹部に違和感。



 ぷるんっ。



 ───なんか、す~す~するよ?

 そして何かに絡まる足。

 倒れかけたゴードンの手が俺の腰蓑こしみのにヒットし、その頼りない、本当に頼りない紐が切れてずり落ちたようだ。

 絡まる腰蓑に足を取られ、俺もバランスを崩す。

 ───‥‥‥ああ、素っ裸だよ。

 ゆっくりと流れる走馬灯で、何故か小学生の頃に好きだった女の子の顔が頭に浮かんだ。
 名前すら覚えてない‥‥‥。


 目の前に近づいてくる地面が見えた。
 

 ───いったい異世界に来てまで、俺は何やってんだろうな‥‥‥。



 



「‥‥‥すまん。先にゴールするぞ‥‥‥」

 絡まり倒れ込む俺とゴードンを横目に、1着でテープを切ったのは超美麗ネロ。

「2人ともごめん‥‥‥お先に」

 まだ動けない俺とゴードンの横を通り、イケメンレックス君が2着でゴール。

「マジですまねぇアルバート‥‥‥この詫びは絶対にするから‥‥‥」

 立ち上がると観衆に全てを曝け出してしまうため動けない俺を置いて、3着でゴールしたのは機関◯ゴードン。







「こら、ゴードン! 謝罪だ、土下座だ! この辱めどうしてくれようか!」

 破壊された腰蓑で、なんとか大事なところを隠しながら座る俺。

「だから、すまねぇって‥‥‥ワザとじゃねぇんだ‥‥‥」

 俺の元に駆けつけて平謝りのゴードン。

 ワザとじゃない事くらいわかってる。
 多分アレがリディア嬢のチュートリアルパワーだったのだろう。
 
 ───でも‥‥‥絶対に許しませんから!

「その腰蓑よこせ! 俺はこの観衆全員に見られたんだ、ゴードンも素っ裸でグランド1周!」

「それだけは勘弁‥‥‥。そんな事したらエリーが悲しむだろ?」

「なんと言う事でしょう! 俺には悲しむ人が居ないとでも?!」

 ‥‥‥まあ、居ないけど。

「‥‥‥とりあえず、なんか隠すモン取ってくるから少し待ってろアルバート!」

 そう言うとゴードンは観客席に向かって走り出して行った。





 立ち上がるとまた大惨事を起こしてしまう為、グランドの真ん中にポツンと座る俺。

「ああ‥‥‥もうお嫁に行けないや」

 そんな俺の頭上から突然フワリと降ってきた真っ白い柔らかな布。

 ───‥‥‥あ、やばい。

 コレはご主人様が学園の制服を着る時に、いつも肩からかけてるケープじゃありませんか‥‥‥。

「立ちなさい。帰るわよ」

 コチラを向く事なくご主人様。

「あの‥‥‥頑張りはしたんですけど、結果的に最下位になってしまいまして‥‥‥」

「いつまでその醜い姿を晒してる気? 見られたいの? 見せてるの? 見せて喜んでるの?」

「人を露出狂みたいに言わんでください」

 俺はご主人様の肌触りの良いケープを腰に巻き立ち上がった。

「今後、その訳の分からない服を着たら、海の藻屑にするから覚えてなさい」

「‥‥‥いや、腰蓑は好きで着てないから」

「寝言は寝て言え変態」

「あの‥‥‥これから俺は常に裸ですか?」

 遂に最後の砦、腰蓑まで奪われてしまいました。
 明日からどうやって生きていけと言うのか‥‥‥。
 
「帰るわよ」

「‥‥‥はい」




 コツコツと音を響かせ、馬車に向かい歩くご主人様。
 その後ろを、白いスベスベの布を腰に巻きながらコソコソと歩く奴隷。

 正直いつもの腰蓑より布面積は広いが、なんか恥ずかしい‥‥‥。

「あの‥‥‥次から本気出しますんで‥‥‥」

「‥‥‥」

 軽く無視。

 ───‥‥‥怒ってるなぁ~。

 そりゃ怒るか。
 今回俺が最下位だった為、令嬢達の中でローズだけが得点を獲得出来ていないんだ。



「あんたは頑張った」

「え?」

 褒められた?!

「後‥‥‥私が‥‥‥‥‥‥貰ってあげるから」

「‥‥‥何を?」

 後ろを振り向く事なく、先程より速く歩き始めるご主人様。


 なんだかわかんないが、やっぱりこのローズ・ブラッドリィは悪い奴じゃない気がした。




【王子争奪戦~俺のハートをキャッチしろ杯~】
[総獲得ポイント]
リディア・アンデルマン 3点
ニーナ・ベル      2点
エリザベス・ムーア   1点
ローズ・ブラッドリィ  0点
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