上 下
36 / 42

36、誇り高き戦士。

しおりを挟む


「試合には負けましたが、勝負に勝ったって所ですかね」

「‥‥‥そう」

「王子にいつでも会いに行けるようになったのは、かなり大きいと思います」

「嫌だからね」

「‥‥‥まだ何も言ってません」

 ご主人様の部屋。
 王宮での死闘を終え無事に帰宅したご主人様と俺は、いつもの【イチャイチャな会話】を実行中です。

 4回戦『ドキドキ、俺のハートに火をつけろ!』は、ご主人様が最下位という結果で幕を閉じた。
 ヒロインリディア嬢が貫禄の1位、次いで雑魚ギャルエリザベスが2位。
 嫌がらせを回避し、奇跡の出場を果たしたおっとりニーナ嬢は3位だった。

 結果だけ見れば、俺達悪役ペアは惨敗である。

 ───だが、ピエール王子は確実にご主人様に好意を持った筈。

 俺の知るストーリーとは大分違うが、王子に気に入られている状態で大会で優勝し、王子と結婚する選択をすればご主人様は処刑されない。
 もし王子がまだご主人様をそこまで気に入ってなかったとしても、ちょこちょこ顔を出して適当に相手をしていれば、勝手に好感度は上がるような気がする。
 この人は化け物級の容姿をお持ちなわけだし‥‥‥。

「行かないわよ」

「‥‥‥そう言わず、明日は学園も休みですし早速顔を出しましょうよ」

 こういうのは早い方がいいに決まってる。

「無理」

「もう、ご主人様は‥‥‥」

 今に始まった事ではないが、相変わらず頑固です。

「明日は人に会いに行くから‥‥‥」

「‥‥‥人に会う?」

 ご主人様が休日にどこかに出かけたりするのを、今まで見たことがなかった。

 ───コレは怪しいな‥‥‥。

 ピエール王子に会いたくないから、咄嗟についた嘘かもしれない。

「どうしても家に遊びに来て欲しいって言われたから、断りきれなかったのよね」

「ご主人様が遊びに誘われた?!」

 ‥‥‥やはり嘘だ。
 眉間に皺を寄せて全く話さないご主人様と、プライベートで遊びたいなんて思う人がいるはずがない。

「何、驚いてんのよ?」

「ご主人様に友達なんていなかったでしょ?」

「私だって頑張れば、友達の1人や2人くらいすぐ作れるんだから」

「‥‥‥あんまり話を広げると後で後悔しますよ?」

「あんたね‥‥‥怒るわよ」

「‥‥‥はい」

 もっと人と話して仲良くした方がいいと言ったのは俺だが、この人にそんな簡単に友達が出来るわけがない。
 
 ───もうこの話はやめよう‥‥‥。

 これ以上この話をしても誰も得をしないんだ。
 明日ピエール王子に会いに行こうなんて、俺がもう言わなければ、この話は終わる。
 また様子を見て次の機会を待つか‥‥‥。
 
「明日はその人と一緒にクッキーを作る予定なんだけど‥‥‥食べたい?」

「‥‥‥?!」

 まだ友達がいる感じで、話を続けるのか?!
 その嘘は本当に自分が悲しくなるだけですよ‥‥‥。

「なんで黙んのよ?」

「いや、なんて言うか‥‥‥」

「あんた‥‥‥もしかして、私が他の人と仲良くするのが‥‥‥嫌なだけじゃないの?」

 ───違います。

「‥‥‥そういうのじゃなくてですね」

「私だってちょっと本気を出せば、色んな人と仲良くなれるんだからね」

 ニヤリと笑い俺の顔を見るご主人様。

 ───‥‥‥駄目だ。

 友達が出来たなんて、嘘をつくご主人様を、やっぱり俺はこれ以上見ていたくない‥‥‥。
 
「‥‥‥ご主人様‥‥‥もう、やめてください‥‥‥」

「あんた、私を独り占め出来なくて悲しいだけなんでしょ?」

「‥‥‥」

「あんたがもっと可愛がってくれてたら、こんな事にならなかったかもね」

「‥‥‥」

「今からでもまだ間に合うかもしれないんだから‥‥‥だ、抱っこ‥‥‥でもしてみなさいよ、このウジ虫。早くしないと、私もっと沢山の人と遊んじゃうんだから」

「もう‥‥‥もう、やめてください!」

「‥‥‥何よ急に」

「もう明日は王子に会いに行かなくていいですから‥‥‥違う話をしましょう‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥お、怒ったの?」
 
「こんな嘘をついても、最後に傷付くのはご主人様自身なんですよ!」

「‥‥‥嘘?」

 友達がいるなんて嘘は、自分を傷付けるだけなんだ‥‥‥。
 きっと後で1人になった時に、ご主人様は物凄い虚無感に襲われる事になるだろう。

「友達がいなくたって‥‥‥皆んなに嫌われていたって‥‥‥誇り高く生きてるご主人様が、俺は本当に大好きなんです!」

「‥‥‥?!」

「そんなご主人様が後で悲しむ姿なんて、俺は見たくないんです!」

「‥‥‥ねえ」

「大丈夫! ご主人様には俺がいます! 友達がいなくたって、俺がいっぱい遊んであげますから!」

「おい‥‥‥コラッ」

「あ、はい」

「なんか色々言ってたけど‥‥‥叩いていい?」

「‥‥‥はい?!」

 なんで?!






「‥‥‥ありえない」

「それ以上言うと、クッキーあげないわよ?」

「それは困ります!」

 ご主人様は嘘をついてなかった。
 どうやら明日会う人物とはニーナ嬢らしい。
 嫌がらせの妨害の為に話し始めたとはいえ、プライベートで会うようになるなんて思いもしなかった。

 ───コレは凄い進歩だ。

「ご主人様に友達が出来るなんて、俺感動してます!」

「‥‥‥あんたね、本当に叩くわよ?」

「はい」

 ‥‥‥睨まれました。

「で‥‥‥あんたも来るんでしょ?」

「いえ、邪魔したくないんでやめときます」
 
「駄目」

 じゃあ初めから聞かんでください‥‥‥。


 こうしてご主人様と俺は、ニーナ嬢の屋敷に遊びに行く事になったのだった。




【王子争奪戦~俺のハートをキャッチしろ杯~】
[総獲得ポイント]

ニーナ・ベル      8点
リディア・アンデルマン 8点
ローズ・ブラッドリィ  5点
エリザベス・ムーア   3点
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

音消

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:724pt お気に入り:0

学校の人気者は陰キャくんが大好き 

BL / 連載中 24h.ポイント:1,498pt お気に入り:29

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,553pt お気に入り:666

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:56,183pt お気に入り:3,467

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

BL / 完結 24h.ポイント:4,604pt お気に入り:1,993

処理中です...