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38、初めてのおつかい。

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「‥‥‥本当に君がそうなのかね?」

「はい、アルフレド様の書状をお持ち致しました」

 俺はアルフレド様と話した後、騎士団の部隊長の屋敷に来ていた。
 騎士団は10からなる部隊に分かれており、今俺の前に座っている筋骨隆々の初老の男性は第五部隊の団長。

 ちなみに、父上の所属する部隊の一番偉い人だったりする‥‥‥。
 
「かなりお若く見えるが‥‥‥書状を確認させてもらっても良ろしいですかな?」

「申し訳ありません。その前に、此方からも幾つか質問などしてもよろしいですか?」

 疑われているのはわかるが、此方も簡単にアルフレド様の書状を見せるわけにはいかない。
 強引に先に読ませろと言うような人物であれば、適当に話して帰るつもりだ。

「ああ、構わんよ」

 ニコリと笑う初老の団長。
 とりあえず第一段階突破だな。

 ───さて‥‥‥。




 
「疑って申し訳なかった。お若いのにしっかしていらっしゃる。アルフレド様が使者に選んだだけの事はありますな」

 俺が手渡した書状を読み、初老の男性は安心したのか、にこやかに椅子に深く腰掛けている。
 筆跡やアルフレド様専用の印で、本物とわかってもらえたようだ。

「ありがとうございます。内容はご確認頂けましたか?」

「このサンス、どこまでもついていくと、お伝えくだされ」

「伝えましょう。後は、檄文の横に署名と捺印をお願いできますか?」

「ほう、血判状‥‥‥あの方も、遂に本気になって頂けたようですな」

「そのようです」

 血判状とは書かれた内容を承諾した証明に、署名と自分の血で捺印を押す書状。
 血の捺印は誓いの強固さを表す為なのだとか。
 今回書かれているのは、アルフレド様の国を憂う気持ちと、国を正すために決起するのでそれに従う者はついて来いという内容。

「全身全霊を持ってお供致しましょう」

 指を噛み切り捺印する騎士団第五部隊団長サンス様。

「ありがとうございます。それでは、あまり長居致しますとお互いにとって宜しくありませんので、そろそろおいとまさせて頂きます。その時が来ましたら、此方から追って連絡させてもらいますので」

「うむ。連絡お待ちしておりますぞ」

 深くお辞儀をし、俺は部屋を後にした。

 ───最早、おつかいレベルだな‥‥‥。

 俺の初めての仕事は、なんて事もなく簡単に終了した。





 サンス様の屋敷の裏口から外に出た俺は、尾行など居ないか周りを警戒しながら次の目的地へ向かう。

 ───近いのは、経理副官のスアレ様か。

 家に居てくれたら楽なんだけど、この時間は多分仕事中だよな‥‥‥。
 先程のサンス様のように、騎士団の人は午前中の訓練などが終わると割と暇な人が多いようだが、経理官の人はまだ王宮にいるような気がする。
 内容が内容だけに、職場に赴いて話すわけにはいかないだろう。

 ───居なければ、とりあえず他をあたる。

 俺は手に持った沢山の名前が書かれた紙に視線を落とした。
 このリストはアルフレド様が長い期間をかけ作成したモノらしく、国を憂い自分の味方になりそうな人物の名前が記入されている。
 ほとんどの人間とは密談を重ね、ある程度話はついているようだ。
 フラフラと何もしてないように周りに思われていたが、これだけの人間と話をつけているとは、やはりあの第二王子は侮れない‥‥‥。

 今回の俺の仕事はその人達の意思確認と共に、血判状への署名をしてもらう事。
 見せて記入を頼むだけなので楽なように感じるが、俺はかなり緊張していたりする。
 血判状もそうだが、このリストも王国側に見られると大変まずいモノ。
 落としたりしようものなら、俺だけじゃなく、全ての人間の首が飛ぶだろう。
 それに、密告する者がこの中にいないとも限らない。
 アルフレド様の檄文を見せる前に、俺自身も人を見定めないと‥‥‥。
 その辺は一任されている。
 こころざしが低そうな人間なら、適当に話して帰るつもりだ。


「‥‥‥アレかな?」

 見えてきたのは、目的の大きな屋敷。

 ───どんどんいくぞ。

 今日は学園から近い人物にある程度接触出来たら、一度学園に戻る予定。
 アルフレド様に報告する為というのもあるが、ウェンディ先輩に内容を話しておきたい。
 おそらく彼女にとっては嬉しい話の筈。
 血判状に名前を記入する人間は、国の役職に就いている偉い人ばかりなのだが、ウェンディ・ノースが血判状に署名してくれるなら、こんなに嬉しい事はないと、アルフレド様にも言われていた。
 
 ───署名してくれるかな‥‥‥。

 一緒に戦えるなら、俺にとってもこんなに心強い人は他にいない。
 
 ちなみに血判状の一番初めに署名されているのは、俺の名前だったりする‥‥‥。
 覚悟は決めているし、裏切るつもりもないので署名するのは構わなかった。
 しかし、誰も知らない士官学校事務クラスのチビが先頭じゃ、いくらなんでもおかしいと拒否したのだが、かなり強引に署名させられている。
 アルフレド様曰く、新たな国の重役になる人間に、俺の名を売っておきたいのだとか‥‥‥。


「さて、気を引き締めていこう」

 そんなこんなで完成した安っぽい血判状を携え、俺は仕事に向かうのだった。
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