今日から死体と暮らします。

まぐろ

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隣の両親

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「優馬っ…!」

俺の手を掴み、噛み付いてくる優馬を振り払う。優馬はよろけて布団に倒れて動かなくなった。
俺はなぜかゾンビにならなかった。優馬の噛む力が弱かったお陰かもしれない。
安心すると同時に、ハッとして優馬の方を見る。転ばせてしまったから、怪我をしてしまったかもしれない。

「優馬、ごめん大丈夫?」

「う」

いつもなら布団で転んだ時ですら大泣きするのに、今日は少し声を出しただけで、あとは何もなかった。
顔を覗き込むと、優馬のぱっちりと開いた目は、瞳孔が開ききっていた。
優馬の笑顔はもう見られないのかもしれないと思うと悲しくなる。でも、噂によればいつも通り接することでゾンビ化が治ったり、唸るだけのゾンビも話せるように回復したりする事があると聞いたことがある。

そもそも、どうして優馬がこうなったんだろう。この子には両親がいる。でも、両親が制止せずうちに来たと言う事は。
留守番中にゾンビになってしまったんだろう、と予想し、優馬の家に向かう。
インターホンを押しても誰も出ず、家の鍵が開いていた。

「開いてる……あのー!お邪魔しますー!隣の者ですけどー!!」

家の中に入り、リビングに入るなり俺は腰を抜かした。震える手でスマートフォンを操作し、警察に電話をかける。
赤く濡れたカーテンが、太陽の光を映していた。

「うー」

付いてきていたのか、優馬がぴょんぴょんと跳ねながら家に入ってくる。ゾンビというよりはキョンシーのような動きだが。
優馬はリビングの入り口に立ったまま、そこから先へは入ってこなかった。

「ゆ…優馬、心配、してるのか…?俺は、大丈夫だけど、優馬…は……」

優馬の表情は変わらない。でも、優馬を抱きしめてやらないといけない気がした。こうしないと、優馬が壊れてしまうような気がしたからだ。

警察が来るのに時間はかからなかった。俺は家の外で事情を聞かれ、俺が疑われることはなかった。
警察は優馬をちらっと見る。

「そちらのご遺体はどうなさいますか。」

「ゾンビ化って…治るかもしれないんですよね……?だから…治して…面倒みます…この子は…まだ幼いんです…こんな歳で終わらせるなんて嫌ですから…」

大丈夫、と俺の手を握る優馬に笑いかける。優馬は俺の方を向いて無表情のままだったが、少しだけ、手をきゅっと強く握られたような気がした。

「そうですか。ではこちらを。」

警察はメモ帳のように束になったお札を取り出し、1枚優馬の頭に貼り付けた。優馬はう、と声を漏らす。

「その札があると身体が動きやすくなるらしいですよ。理由はわかりませんがね。
まあ、腐らないうちに治るように願ってますね。」

それだけ言って、警察は戻っていった。これから隣の家はいろいろな調査がされるんだろう。
頭に貼られたお札を不思議そうに触る優馬は、ずっと俺のことを見つめていた。
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