今日から死体と暮らします。

まぐろ

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笑って

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少し散歩をした後から、優馬は生前の行動をしようとしているようだった。家の中でも跳ねないように歩いたり、表情を作りたいのか自分の頬をむにむにと揉んでみたり。
可愛いから頬を触ると唸られた。

「う…」

「優馬は頑張ってるなぁ。偉い偉い。」

褒めると満足げに声を出す。優馬の中に感情が戻りつつある。それは嬉しいことだった。
だけど、もとに戻ったら戻ったで言わなきゃいけない事がたくさんある。ゾンビになってしまえば、出来なくなることがいくつかある。
まず、もう優馬は結婚しても子供を残せない。精子の機能がゾンビ化により破壊されているからだ。
生物として重要な機能が失われる。それ以外にも、目の色や髪の色が変わったまま戻らなくなったり、お札を貼っていないと動きづらいまま、ということもあるらしい。

「うーうーうー」

「優馬引っ張りすぎ。痣になっちゃうよ。」

優馬はうまく表情を作れないからか苛立ったように自分の頬を引っ張っている。ゾンビは加減を知らない。このまま放っておいたら自分の頬を引きちぎる事だってある。
俺は優馬の顔をそっとマッサージしてみた。硬い頬を柔らかくするように、手で揉みほぐす。

「む…」

「優馬、俺の真似してみて。」

頬に指をあて、口角が上がるように押し上げる。優馬もこれを見て真似をする。
指を離して、できた!とでも言うように優馬は笑った。

「う」

「おぉ…!!優馬…!笑えた…やったな!」

思わず優馬を抱きしめて喜ぶ。この調子で回復すれば元の優馬に戻るはず。そうしたら優馬とずっと楽しく生活するんだ。

「ぁ…あぃぁぉ…!」

優馬が何か言った。思わず目を見開く。
そうだ、口周りが柔らかくなったから、母音は発音できるんだ。

「ありがとう…?優馬、それを言おうとしてたのか?」

「う!」

優馬が笑ってこくんと頷く。この一言を言うためだけに一生懸命頑張ったのか。嬉しさと安堵で涙が出る。 
よかった。まだ優馬は優馬のままだ。

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