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1.出会い
6.診療所にて③
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かつて、この星では大きな災害があった。『焔の雨』と呼ばれる隕石群が降り注ぎ、地上はまたたく間に荒廃した。そんな大地を癒やすため、人類の中でも卓越した能力を持つ者だけを結集し、研究施設がいくつも立ち上げられた。それが第六恒常実験区を含む研究施設都市だ。ムルクホルムが地上に築き上げられた貧民窟なら、研究施設都市は天上の街だ。地上と天上は空間エレベーターによって繋がっているが、地上から天上へは上層の許可がないと出入りすることはできない。逆もまた然りだ。
数ある研究区域の中で、第六恒常実験区はいわくのある場所だった。それはこの星の生態系に大きく関係している。というのも、この星には大きく分けて二つの種族が存在している。ひとつは人口の大多数を占める、ファロのような人間、そしてもうひとつが人口の約二割程度であるノルのような猫獣人だ。猫獣人はその名の通り、猫をルーツとし、人間のような姿形に猫の耳と尻尾、それから高い知能と長い寿命を持つ。かつては緑と共に生きていたが、その見目麗しさと物珍しさによって、心ない人間に愛玩用として乱獲された結果、元々繁殖力に乏しい猫獣人たちは一気にその数を減らした。加えて、この星を襲った厄災。猫獣人は絶滅こそ免れたものの、今や猫獣人と言えばそれだけで保護対象であり、第六恒常実験区と言えば、保護された猫獣人たちが収容される施設だった。最も、それが本当に『保護』なのかは誰も知らない。帰ってきた前例がないからだ。
ノルとファロの緊張した面持ちを察知したのか、赤毛の猫は不安そうに二人を見やった。それに答えたのは、ファロの方だった。
「赤毛の坊や。お前さん、自分の居た場所の名前を知ってるかい?」
「ううん……でも、」
「でも?」
「そこにいるニンゲンはみんな、『箱庭』って言ってた」
「『箱庭』とは、また随分と大仰だね。で? そこでは何をしていたか、あんたは知っているのかい?」
ファロの問いかけに、赤毛の猫はぎくりと身を強ばらせた。カップを持つ手がカタカタと震えている。緑色の瞳が縋るようにノルの方を向いたが、ノルは無視した。
「……俺は、」
しばし逡巡した後、赤毛の猫は恐る恐るといったように口を開いた。
「聞いただけ……俺はまだ小さいから『そのとき』じゃないって……でも、あそこにいたニンゲンは猫獣人を『増やす』、って言ってた。これが猫獣人のためなんだって……」
「ふん。大方、上層部による繁殖実験場ってところかね」
「……反吐が出るな」
吐き捨てるように言ったノルに、赤毛の猫は怯えたようにびくりと体を震わせた。そんな様子を見て、ファロが鷹揚に口を開く。
「坊や、あまり怖がらせるもんじゃないよ。そっちの坊や、あと少しだけ聞かせておくれ。坊やはその『箱庭』とやらからはどうやって脱出したんだい?」
「……助けてもらった」
「助けられた? 誰に」
「……ん」
赤毛の猫の眼差しがゆるゆると揺らぎ、それからやがて止まった。緑色の瞳は間違いなく、ノルを見つめていた。
数ある研究区域の中で、第六恒常実験区はいわくのある場所だった。それはこの星の生態系に大きく関係している。というのも、この星には大きく分けて二つの種族が存在している。ひとつは人口の大多数を占める、ファロのような人間、そしてもうひとつが人口の約二割程度であるノルのような猫獣人だ。猫獣人はその名の通り、猫をルーツとし、人間のような姿形に猫の耳と尻尾、それから高い知能と長い寿命を持つ。かつては緑と共に生きていたが、その見目麗しさと物珍しさによって、心ない人間に愛玩用として乱獲された結果、元々繁殖力に乏しい猫獣人たちは一気にその数を減らした。加えて、この星を襲った厄災。猫獣人は絶滅こそ免れたものの、今や猫獣人と言えばそれだけで保護対象であり、第六恒常実験区と言えば、保護された猫獣人たちが収容される施設だった。最も、それが本当に『保護』なのかは誰も知らない。帰ってきた前例がないからだ。
ノルとファロの緊張した面持ちを察知したのか、赤毛の猫は不安そうに二人を見やった。それに答えたのは、ファロの方だった。
「赤毛の坊や。お前さん、自分の居た場所の名前を知ってるかい?」
「ううん……でも、」
「でも?」
「そこにいるニンゲンはみんな、『箱庭』って言ってた」
「『箱庭』とは、また随分と大仰だね。で? そこでは何をしていたか、あんたは知っているのかい?」
ファロの問いかけに、赤毛の猫はぎくりと身を強ばらせた。カップを持つ手がカタカタと震えている。緑色の瞳が縋るようにノルの方を向いたが、ノルは無視した。
「……俺は、」
しばし逡巡した後、赤毛の猫は恐る恐るといったように口を開いた。
「聞いただけ……俺はまだ小さいから『そのとき』じゃないって……でも、あそこにいたニンゲンは猫獣人を『増やす』、って言ってた。これが猫獣人のためなんだって……」
「ふん。大方、上層部による繁殖実験場ってところかね」
「……反吐が出るな」
吐き捨てるように言ったノルに、赤毛の猫は怯えたようにびくりと体を震わせた。そんな様子を見て、ファロが鷹揚に口を開く。
「坊や、あまり怖がらせるもんじゃないよ。そっちの坊や、あと少しだけ聞かせておくれ。坊やはその『箱庭』とやらからはどうやって脱出したんだい?」
「……助けてもらった」
「助けられた? 誰に」
「……ん」
赤毛の猫の眼差しがゆるゆると揺らぎ、それからやがて止まった。緑色の瞳は間違いなく、ノルを見つめていた。
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