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1.出会い
9.エット
しおりを挟む「……エット」
ふう、とため息をひとつ吐いてから、ノルは呟くように言った。
「えっと?」
「ノルは古い言葉で『ゼロ』を意味する……エットは『一』、『ノル』の次……『隣』という意味だ」
ノルとしては、ただこの赤毛の猫が隣に座っているから思いついただけだったが、赤毛の猫――エットは緑色の瞳を見開くと、花が綻ぶような笑顔になった。
「俺、エットがいい! ありがとう、ノル‼」
そう言うと、エットは機嫌良く尻尾をふるふると震わせた。その様子にローシャは満足そうに微笑んだ。
「よかったね、坊や」
「うん!」
エット、エットと赤毛の猫はまるで手のひらに収めた大切なものを確かめるように何度も口の中でその響きを確かめている。そうしているうちに料理が運ばれてくる。塩漬け肉と豆の煮込み、魚の燻製と果物にパンとスープ、そして水飴と芋のパイ――湯気を立てて運ばれてくるそれらは食欲をそそる匂いを立てており、急に朝から何も食べていないことを思い出した。
「さあ、遠慮なく食べな」
「……いただきます」
「いただきます?」
「そうだ。食事の前にする挨拶だ……忘れるな」
「うん! イタダキマス‼」
ノルがスプーンを手に取り、食事を始めると、見よう見まねでエットも真似をして食事に手をつけ始めた。しかし、スプーンの握り方が上手くいかないのか、その手つきは辿々しい。
「溢れてる」
「……ごめんなさい」
ノルの指摘に、エットの耳がへにょ、と力なく垂れた。仕方ない、とノルはため息を吐くと、エットの傍に寄るとスプーンを握る指先を握り込んで正しい持ち方に直してやる。
「こうだ。分かるか」
「……こう?」
「違う。もう一度やってみろ」
エットはされるがまま、時折頷きながらも懸命にノルの言葉に耳を傾けているようだった。まだ少々怪しいが、それでも先ほどよりは『らしく』なっている。
「しばらくそのままやってみろ」
「わかった」
ぷるぷると震えるスプーンを口元に運び、ついにエットがぱくりとスプーンの中身を頬張る。途端、エットの白い頬に僅かに紅が差した。どうやら気に入ったらしい。
「美味いかい?」
「食べたことないあじ……でも、うん……おいしい!」
そう言うと、エットは懸命に肉と豆の煮込みを口にし始めた。もぐもぐと咀嚼する度に緑の瞳に輝きが増していくのが分かる。あっという間に皿の上のものを平らげてしまった。その様子をノルがじっと見つめていると、ふと視線が交差した。ノルの皿の中身が減っていないことに気づいたのだろう。「食べないのか?」とエットは首を傾げた。
「いや。食べる」
「坊や。こっちもお食べ。魚はともかく新鮮な果物なんか、ここ以外じゃ食べられないよ」
「うん! イタダキマス‼」
「……一度言えば十分だ」
「そうなのか?」
「ああ」
楽しそうに食事をするエットを尻目に、ノルも自分の食事を再開させつつ、ローシャへエットと出会った経緯を掻い摘まんで話した。ローシャはというと、自分は食事を摂らず、時折ボーイが持ってきた酒を飲みながら、煙管を吹かしつつノルの話に耳を傾けていた。ノルが食事を終え、エットはしっかりデザートの水飴と芋のパイを平らげてから、ローシャはおもむろに口を開いた。
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