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3.箱庭
31*.凌辱①
しおりを挟むしばらくして、エットは研究員によって別の部屋へと連れられていた。エレベータを何度か乗り継いだ後に辿り着いたそこは、研究所暮らしが長いエットも初めて足を踏み入れる場所だった。部屋の中は無機質な白一色で統一されており、天井へ設置された無影灯が、うるさいほどに光を撒き散らしている。
『対象X、搬入完了』
機械音声が響くと同時に、エットの背後の扉が静かに閉まった。軽い音に反して、空間が完全に外界から隔絶されたような気がした。ちかちかと眩しい灯りに目を細めながら、エットは部屋の様子を観察した。部屋の中は大きなドーム状になっており、壁は透明なガラスで覆われているが、四方のうち、エットから見て一番離れた位置の壁にはガラスの代わりに鉄製のシャッターが降りていた。部屋の上部には小部屋が仕切られており、研究者たちはそこでエットの様子を観察しているようだ。
『対象Y、搬入開始』
『了解。対象Y、搬入開始』
「え、――?」
無機質なアナウンス。それが何を示しているのか理解した瞬間、エットは顔を青ざめさせた。重々しい機械音と共に、奥のシャッターが開く。そこには、鉄製の檻が置かれていた。大型犬が入るほどの檻に押し込められていたのは、青みがかったくせ毛、髪と同じ三角耳と尾――ノルだ。意識を失っているのか、くたりとしたまま狭い檻へと閉じ込められている。
「約束が違う! ノルには何もしないって言った‼」
思わず、エットは叫んでいた。エットの声を受けてか、ノルの青色の毛に覆われた三角耳がぴくりと動いた。
『約束を違えてなどいない。今日、我々は対象Yには何もしない。そう、なにひとつだ』
「う、……」
「ノル⁉ 大丈夫か⁉」
「あ、エッ、ト……」
「何もされてない? どこも痛くない?」
まだ薬が効いているのか、ノルの反応は鈍かった。しかし、それだけになにかされたのでは、という不安がエットの胸を過った。だからこそ、気づかなかった。ノルの檻の奥。もうひとつ、ノルの押し込められた檻よりも二回りほど大きい檻が床からせり上がってきたことに。そして、その扉が開け放たれたことに。
「ッ、――エット! 逃げろ‼」
「? な、うあッ――⁉」
ピクピクとノルの耳が動き、大きな目が見開かれると同時に、ノルは叫ぶように言った。しかし遅かった。エットがそれの気配に気づいた次の瞬間、エットはそれによって床へと組み伏せられていた。
「う、……」
「エット、エット!」
背中をしたたかに打ち付けて、エットは呻いた。しかし次いでスピーカーから響いた研究員の無機質な声に、意識が引き戻される。
『対象X、捕獲完了。これより対象Xと人工雄四号個体との生殖実験を開始します』
その言葉に、エットは自分を組み敷く相手の姿を見た。それは、初めて見る生き物だった。体格はエットやノルよりも一回り以上大きく、筋肉質で、通常の猫獣人ではありえない体格をしていた。毛の色はほとんど黒に近いが、所々銀灰色との斑になっている。しかし、エットがなにより恐怖を覚えたのは、その瞳だった。銀灰色の瞳は光彩がほとんどなく、瞳孔の開いた目は焦点が定まっていない上、その中心には深い闇が広がっているように見えた。
「やめ、離せ……っ」
「……」
黒い獣は言葉を発しなかった。エットと話す気がないのか、もともと言葉など知らないのかは分からない。しかしエットにそんなことを気にする余裕などなかった。黒い獣は、はあはあと荒い息を吐きながら、エットの検査着をまさぐるようにして掴んだため、エットはびくりと肩を震わせた。
「っ、やめろ! 俺に触るな‼」
反射的に叫んだものの、相手は意に介さない。それどころか、煩わしそうにぐるぐると喉を鳴らすと、力任せに検査着を引き裂いた。薄い生地が裂ける鋭い音が響き、それと同時に布の裂け目から露わになった腹を、獣の腕が撫で上げた。ざらりとした感触に、エットの身体が強張る。
『対象Xに対する人工雄四号個体の発情を確認』
『対象Xは?』
『駄目です。拒否反応を起こしています』
『想定内だな。興奮剤を投与しろ……ああ、それから抵抗しないように筋弛緩剤も混ぜておけ』
『了解。興奮剤・筋弛緩剤、投与開始』
研究者たちの声が響いた後、エットの首筋にちくりとした痛みが走った。続いて、冷たい薬液が血管を巡る感覚に、エットは必死に藻掻いて抵抗する。しかしすぐに薬の効果は現れ、まるで降参するかのように両腕は動かなくなってしまった。
「いやだ、やめ、やめろ……! 触るな‼」
「エット、しっかりしろ‼」
「ノル、駄目だ。見るな……!」
暴れるエットの身体を、黒い獣の腕はいとも容易く押さえ込んだ。ノルの声が耳に届き、抵抗の意を示そうと足をばたつかせるが、すぐに薬の効果が現れ、力が抜け、逆に足の間に陣取られてしまう。
「いやだ……っ、う、ぁ……っ」
「エット、エット……‼」
「う、あ、っ……ノル、お願いだ、見ないで……っ」
もはや動かすのが精一杯の様子で頭を振って抵抗すると、今度は頬へ生温い息がかかって、エットはいよいよノルへ見ないで欲しいと懇願した。しかし、黒い獣はそんなエットをまるで嘲笑うかのように事を進めていく。或いは、自分の番を今まさに奪われようとしているノルに見せつけるかのように。黒い獣の手がエットの腰を撫でたかと思うと、ぐっと膝を掴んで、割り開いていく。
「嫌だ、いや、……ッ」
「エット‼」
弱々しく抵抗の言葉を口にするエットに、そんなエットの名を喉が裂けんばかりに呼ぶノル。ふたりに見せつけるかのように、黒い獣はエットの膝を掴んだまま、ついにその場所を明らかにした。
エットの下半身、検査着を引き裂かれ、なにも守るものがなくなったそこは、外気に晒されてふるりと震えていた。エットは雌型の猫獣人であるため雄の性器を持っていない。代わりにあるのは、つるりとした割れ目だけ。黒い獣は、そこへ鼻面を近づけると匂いを嗅ぐような仕草をした。番を持たない雄猫獣人が、雌猫獣人と交尾をする前に行う行動だ。
「……ゃ、やだ、やだ、……やめて……」
ふうふうと、黒い獣の息が触れ、エットは弱々しく拒絶の意思を示す。それが、何の意味も成さないと分かっていても、そうせずにはいられなかった。
「ぅ、あ……⁉」
突然、ぬちゃ、と粘着質な音が響き、エットの腰がびくりと跳ねた。その原因は明らかだ。恐る恐るエットが視線をやれば、黒い獣の舌先が、エットの無毛の割れ目に這わされていた。
「ひ、っ、いやだ、きもち、わるい……っ」
「エット! やめろ! エットに触れるな‼」
嫌悪感しか湧かない行為に、エットは呻くような声を漏らし、ノルは今までエットが聞いたこともないくらいに声を張り上げた。しかし黒い獣はまるで気にしていない様子で、肉厚の舌をちろちろと動かし続けている。その様は、わざと瀕死の獲物をいたぶるようでもあった。
「うっ、うぅ……っ、うう……」
「エット、エット! 大丈夫か⁉」
「やだ、やだぁ……」
ぐっしょりと入り口を濡らされ、 嫌悪感にエットが呻く。ノルも懸命にエットの様子を気に懸けるが、黒い獣はむしろその様子を楽しんでいるようだった。ぬるぬるとした分厚い舌に舐めまわされ、いつしかすっかり蕩け始めた膣口が愛液を垂らし始める頃には、黒い獣はぐるぐると喉を鳴らしながら、まるで仔猫がミルクでも舐めるかのように丹念にそこに舌を這わせていた。
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