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『勇者』の目的(4)
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最後に立ち寄ったのは、シナレフィーさん行きつけの書店。
「おや、シナレフィーさん。いらっしゃい」
入口から程近い本棚の前に立っていた初老の男性が、片手を上げて挨拶してくる。
棚に本を並べていたようなので、店主なのだろう。店主から名前で呼ばれるなんて、『行きつけ』感がある。
「ゼンさん。いつものはありますか?」
「勿論、用意してあるさ。奥まで来てくれ」
「いつもの」で通じるやり取り、常連客ぽい!
ゼンさんの後ろを、シナレフィーさんが付いていく。「いつもの」が気になった私は、さらにその後ろを付いていった。
ミアさんとリリは、その正体を知っているのだろう。「ああ、あれね」という顔で、それぞれ店内に散っていった。
ゼンさんに案内された部屋に入ると、すぐにとある一点に目が行った。
一画を占める本のタワー。本の摩天楼。何だこの、尋常じゃない数の本が積み上げられたスペースは。
そこへ一直線に向かったシナレフィーさん。ですよねー。
医学、経済学、物理学……見事に小難しいタイトルばかりが並ぶ。絵本や生活の知恵みたいな庶民的な本なんて、一冊も見当たらない。
「以前立ち寄った時から、次に来るまでに入荷した本全種類を、取り置いてもらっているんです」
無意識に物言いたげな視線を送ってしまっていたらしい私に、シナレフィーさんが説明してくれる。
「入荷した本、全種類を取り置き……」
それが、「いつもの」。
何という上客。そして、竜の知識欲の本気、なめてました。
「シナレフィーさんのところには、代々お世話になっていてね。お父様やお祖父様はお元気かな?」
ゼンさんが、今日入荷した分をさらに積み上げながら、話を振ってくる。
その『お父様』や『お祖父様』、きっと全員シナレフィーさん本人だと思います……。
「ええ、まあ元気ですよ。それで本ですが、これが買いに来る最後になります。遠い故郷に帰ることになりましたので」
「おや、それは寂しくなる。けれどシナレフィーさん的には、丁度良い時機だったかもなぁ」
「丁度良いとは?」
シナレフィーさんが本の塊を亜空間に投げ入れながら、ゼンさんに聞き返す。
カテゴリごとに紐で結わえてある様子。ゼンさんの心遣いが感じられる。
「間もなく、王都の検問が強化されるそうだ。一日に出入り可能な人数や、移動出来る荷物の量にも制限を掛けるらしい。そうなると当然、入荷する本の量も種類も今よりずっと少なくなる」
「確かに本が無ければ、王都まで来る必要はありませんね」
「だろう。何でも先日、勇者の直系であるカシム様の奥方様が魔王に攫われたとかで、そうなるらしい」
ドキッ
カシムの奥方ではないし、ギルにも攫われたのではなく助けられたのだけど、それはやっぱり私のことだろう。
「宮廷魔術士様が探索蝶を使ったり、冒険者ギルドへも依頼が行っていたりするようだが、未だ見つからないという話だ。カシム様の身に刻まれた婚姻の証が消えない限り、奥方様は生きてはおられるようだが。その奥方様が見つかるか亡くなるかしない内は、人も物も出入りが厳しいままだろうね」
「そうでしたか」
まったく動じず、シナレフィーさんがしれっと返す。
今の話からいって、前庭で食人蔦が食べてくれた探索蝶の探しものは、私で間違いなさそうだ。
「おや、シナレフィーさん。いらっしゃい」
入口から程近い本棚の前に立っていた初老の男性が、片手を上げて挨拶してくる。
棚に本を並べていたようなので、店主なのだろう。店主から名前で呼ばれるなんて、『行きつけ』感がある。
「ゼンさん。いつものはありますか?」
「勿論、用意してあるさ。奥まで来てくれ」
「いつもの」で通じるやり取り、常連客ぽい!
ゼンさんの後ろを、シナレフィーさんが付いていく。「いつもの」が気になった私は、さらにその後ろを付いていった。
ミアさんとリリは、その正体を知っているのだろう。「ああ、あれね」という顔で、それぞれ店内に散っていった。
ゼンさんに案内された部屋に入ると、すぐにとある一点に目が行った。
一画を占める本のタワー。本の摩天楼。何だこの、尋常じゃない数の本が積み上げられたスペースは。
そこへ一直線に向かったシナレフィーさん。ですよねー。
医学、経済学、物理学……見事に小難しいタイトルばかりが並ぶ。絵本や生活の知恵みたいな庶民的な本なんて、一冊も見当たらない。
「以前立ち寄った時から、次に来るまでに入荷した本全種類を、取り置いてもらっているんです」
無意識に物言いたげな視線を送ってしまっていたらしい私に、シナレフィーさんが説明してくれる。
「入荷した本、全種類を取り置き……」
それが、「いつもの」。
何という上客。そして、竜の知識欲の本気、なめてました。
「シナレフィーさんのところには、代々お世話になっていてね。お父様やお祖父様はお元気かな?」
ゼンさんが、今日入荷した分をさらに積み上げながら、話を振ってくる。
その『お父様』や『お祖父様』、きっと全員シナレフィーさん本人だと思います……。
「ええ、まあ元気ですよ。それで本ですが、これが買いに来る最後になります。遠い故郷に帰ることになりましたので」
「おや、それは寂しくなる。けれどシナレフィーさん的には、丁度良い時機だったかもなぁ」
「丁度良いとは?」
シナレフィーさんが本の塊を亜空間に投げ入れながら、ゼンさんに聞き返す。
カテゴリごとに紐で結わえてある様子。ゼンさんの心遣いが感じられる。
「間もなく、王都の検問が強化されるそうだ。一日に出入り可能な人数や、移動出来る荷物の量にも制限を掛けるらしい。そうなると当然、入荷する本の量も種類も今よりずっと少なくなる」
「確かに本が無ければ、王都まで来る必要はありませんね」
「だろう。何でも先日、勇者の直系であるカシム様の奥方様が魔王に攫われたとかで、そうなるらしい」
ドキッ
カシムの奥方ではないし、ギルにも攫われたのではなく助けられたのだけど、それはやっぱり私のことだろう。
「宮廷魔術士様が探索蝶を使ったり、冒険者ギルドへも依頼が行っていたりするようだが、未だ見つからないという話だ。カシム様の身に刻まれた婚姻の証が消えない限り、奥方様は生きてはおられるようだが。その奥方様が見つかるか亡くなるかしない内は、人も物も出入りが厳しいままだろうね」
「そうでしたか」
まったく動じず、シナレフィーさんがしれっと返す。
今の話からいって、前庭で食人蔦が食べてくれた探索蝶の探しものは、私で間違いなさそうだ。
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