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アルテミシア(2)
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受付を済ませると、タイミング良く食堂が宿泊者用の時間帯に切り替わった。よって、そのままレフィーと二人、昼食へと向かう。
レフィーとの旅行は大荷物が無い(というか荷物自体無い)ため、いったん部屋へ行く手間もない。慣れた手つきで前客の皿を片付けたホール係に案内され、私たちは窓際の席へと座った。
「わ。湖が近い」
ふと窓の外を見遣って、そこから見えた風景に驚く。
湖を神聖視していたシクル村では、湖は生活圏の外にあった。遠目に見ることはあっても、こんな近くに、ましてや湖を見ながら食事など想像もつかなかった。
ホール係が注文を取りに来るまで窓に張り付いていた私は、慌ててレフィーが頼もうとしていた幾つかを自分用にも頼んだ。
この後、観光に出るだろうし、軽めにしておく。美味しそうな店があったら、そちらも食べたい。というのが本音だったりもする。
「ボート遊び用の区画もあるのね。湖をこれでもかというくらい利用しているなあ」
私が飽きずに湖を行き交う小舟を眺めているうちに、あっという間に料理が運ばれてきた。
客席回転率が良いので、人気メニューは予め作ってあるのかもしれない。
三品、四品……五品。私たちのテーブルの上に、所狭しと料理が並べられていく。料理を載せてきたワゴンが空になったところで、ホール係は「ごゆっくりどうぞ」と下がっていった。
「すごい……これほどの海の幸と山の幸が一堂に会するなんて……!」
「ペーシュは十数年前に、山が豊かな隣の領地と合併したんです。以来、すべての食材を自領で賄っています。食事に関しては、王都にも勝ると思いますよ」
「だからこんなにも新鮮なのね。農業が中心なシクル村でも、こんな輝いた野菜は見たことがなかったわ」
サラダ一つにも感動を覚える。私はふんだんに使われた野菜を全種類網羅するようにして、大皿できたそれを自分用の小皿に取り分けた。
「うーん、美味しい!」
サラダは特にドレッシングの味に左右される料理だと思う。王都にも勝ると言うからには、調味料が豊富な領地なのだろうと予想したが、大当たりだ。前世において「本当にこれ全部必要なの?」というくらい原材料がズラズラ書かれていた市販のドレッシング並みに、材料が使われていると見た。
そんなサラダをしばし楽しんで、次いでホットサンドに手を伸ばす。
パンから具がはみ出しているように盛り付けるのは、どこの世界でも共通なのか。具が零れないように気を付けて一口囓れば、シャキシャキ食感の葉物野菜と甘辛チキンが絶妙なハーモニーを奏でてくれた。
ほっぺたが落ちそうなほど美味しい。あまりの美味しさにそんな古風な表現もしたくなる。ああ、他の店の料理もと欲張らず、ここでもういっぱい頼んでおけばよかった。若干の後悔。
そんなだから、ついついレフィーが食べていたフィッシュパイをじっと見てしまった。ホットサンドがチキンだからと魚料理は頼まなかった、あの瞬間の私が恨めしい。
「はい、ミア。口を開けて下さい。あーん」
「あーん」
私の物欲しげな視線は速攻でレフィーにバレて、優しい彼はフォークに取った一片を私の口に入れてくれた。
って、何の迷いもなく「あーん」をやってしまっていたよ、私! 新婚旅行マジック恐るべし!
「レフィーのフォークを貸して? 次は私がやる……はい、あーん」
「あーん」
ちょぉおおおお。本当に「あーん」って言ってるぅ! 入れてあげたらモグモグしてるぅ!
ノってみてよかった。そうだよ、こんなこと新婚旅行な今を逃して、いつやると言うのだ!
「いいですね、これ。今度、家でもやりましょう」
今じゃなくてもやるんかい!
うーん、でもまあレフィーが可愛かったからやっても……いいかな? 寧ろ家の方が、人目に晒されないし……はい、バカップルです。わかっています。もう見ないで、皆様……。
レフィーとの旅行は大荷物が無い(というか荷物自体無い)ため、いったん部屋へ行く手間もない。慣れた手つきで前客の皿を片付けたホール係に案内され、私たちは窓際の席へと座った。
「わ。湖が近い」
ふと窓の外を見遣って、そこから見えた風景に驚く。
湖を神聖視していたシクル村では、湖は生活圏の外にあった。遠目に見ることはあっても、こんな近くに、ましてや湖を見ながら食事など想像もつかなかった。
ホール係が注文を取りに来るまで窓に張り付いていた私は、慌ててレフィーが頼もうとしていた幾つかを自分用にも頼んだ。
この後、観光に出るだろうし、軽めにしておく。美味しそうな店があったら、そちらも食べたい。というのが本音だったりもする。
「ボート遊び用の区画もあるのね。湖をこれでもかというくらい利用しているなあ」
私が飽きずに湖を行き交う小舟を眺めているうちに、あっという間に料理が運ばれてきた。
客席回転率が良いので、人気メニューは予め作ってあるのかもしれない。
三品、四品……五品。私たちのテーブルの上に、所狭しと料理が並べられていく。料理を載せてきたワゴンが空になったところで、ホール係は「ごゆっくりどうぞ」と下がっていった。
「すごい……これほどの海の幸と山の幸が一堂に会するなんて……!」
「ペーシュは十数年前に、山が豊かな隣の領地と合併したんです。以来、すべての食材を自領で賄っています。食事に関しては、王都にも勝ると思いますよ」
「だからこんなにも新鮮なのね。農業が中心なシクル村でも、こんな輝いた野菜は見たことがなかったわ」
サラダ一つにも感動を覚える。私はふんだんに使われた野菜を全種類網羅するようにして、大皿できたそれを自分用の小皿に取り分けた。
「うーん、美味しい!」
サラダは特にドレッシングの味に左右される料理だと思う。王都にも勝ると言うからには、調味料が豊富な領地なのだろうと予想したが、大当たりだ。前世において「本当にこれ全部必要なの?」というくらい原材料がズラズラ書かれていた市販のドレッシング並みに、材料が使われていると見た。
そんなサラダをしばし楽しんで、次いでホットサンドに手を伸ばす。
パンから具がはみ出しているように盛り付けるのは、どこの世界でも共通なのか。具が零れないように気を付けて一口囓れば、シャキシャキ食感の葉物野菜と甘辛チキンが絶妙なハーモニーを奏でてくれた。
ほっぺたが落ちそうなほど美味しい。あまりの美味しさにそんな古風な表現もしたくなる。ああ、他の店の料理もと欲張らず、ここでもういっぱい頼んでおけばよかった。若干の後悔。
そんなだから、ついついレフィーが食べていたフィッシュパイをじっと見てしまった。ホットサンドがチキンだからと魚料理は頼まなかった、あの瞬間の私が恨めしい。
「はい、ミア。口を開けて下さい。あーん」
「あーん」
私の物欲しげな視線は速攻でレフィーにバレて、優しい彼はフォークに取った一片を私の口に入れてくれた。
って、何の迷いもなく「あーん」をやってしまっていたよ、私! 新婚旅行マジック恐るべし!
「レフィーのフォークを貸して? 次は私がやる……はい、あーん」
「あーん」
ちょぉおおおお。本当に「あーん」って言ってるぅ! 入れてあげたらモグモグしてるぅ!
ノってみてよかった。そうだよ、こんなこと新婚旅行な今を逃して、いつやると言うのだ!
「いいですね、これ。今度、家でもやりましょう」
今じゃなくてもやるんかい!
うーん、でもまあレフィーが可愛かったからやっても……いいかな? 寧ろ家の方が、人目に晒されないし……はい、バカップルです。わかっています。もう見ないで、皆様……。
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