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アルテミシア(3)
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結局私は、レフィーからなかなかの量のお裾分けをもらってしまった。そちらはちゃんと小皿に取り分けてもらって。
あれも美味しい、これも美味しい。モグモグ食べる。黙々食べる。
「シクル村も湖があるのに、そういえば魚料理ってほとんど食べたことがなかったかも」
最後の小皿、『お魚ステーキ』を手に取ったところで、ようやく私はレフィーに会話を振った。
レフィーの方は既に食べ終わっており、彼は白ワインを飲んでいた。絵になる。生きている観光地である。
「ああ、あの村は湖の魚には手を付けず、そこへ流れ込む川からしか獲っていないようでしたからね。それはなかなか食卓にも上らないでしょう」
「あくまで湖は神様のものだったわけね」
「馬鹿げた話ですが、そういったものを拠り所に生きている人間はシクル村に限らず存在します。自然災害が多い土地にその傾向が顕著ですね」
「神様にでも縋りたい悪環境ってことね」
「……ミア、本当にあの人間に復讐しなくてよかったのですか?」
最後の小皿も後一口になったところで、レフィーが声を潜めて聞いてきた。
シクル村とペーシュの街を対比するあまり、彼に叔父さんの所行を思い出させてしまったようだ。失敗した。
「うん、しなくていい。あのとき言い損ねたけど、私が初め叔父さんだと気付かなかったのは、彼が普段の格好をしていなかったからなのよ。服に限らず生活のほとんどが人任せな人だったから、前までの生活が破綻していたというわけ。だから私が特に何かしなくても、彼が独りになっているだけでもう、大きな罰になっていると思う」
レフィーが言うには、邸に積んであった盗品には大量の小麦粉や野菜があったらしい。一見すると貯め込んでいるだけに思えるが、多分違う。叔父さんはおそらく、誰かが料理を作ってくれるのを待っていたのだと思う。冗談のような話だが、生まれて此の方料理を作ったことがない叔父さんを思えば、あながちその予想は間違っていない気がする。
そんな叔父さんは、村中の非常食で食いつないでいたと思われる。レフィー曰く、玄関ホールには汚れた瓶が多く転がっていたとか。どう考えても瓶詰め野菜の残骸だ。
「独りが罰、ですか。――ああ、言われてみればそういう手もありますね。殺すのは一瞬ですが、その方法ならこの先長くあの罪人を苦しめてくれそうです。あの状況を見るに、元使用人の彼への印象は悪い。人間同士の方が酷いことをしてくれそうです。それなら私はキッパリ手を引きます」
「うん、そうしてもらったら嬉しい」
一部不穏な台詞が聞こえてきたが、最後の「キッパリ手を引く」の言葉だけ拾って、返事する。それ以外の部分は忘れよう、うん。
「レフィー。観光に出る前に、一度泊まる部屋を見ておきたいわ」
やっぱり泊まる部屋は気になってしまう。どうせ帰ってきたら見られるとわかっていても、ソワソワとして落ち着かない。
「いいですよ。ミアが行きたい場所が目的地ですから」
ナチュラルにイケてる返しをしてきたレフィーが、私が最後に赤ワインを飲み干すのを待って、それから席を立つ。
そしてこれまたナチュラルに私の手を取った彼は、部屋へ向かって歩き出した。
……再び私たちが注目の的になったのは、言うまでもない。
あれも美味しい、これも美味しい。モグモグ食べる。黙々食べる。
「シクル村も湖があるのに、そういえば魚料理ってほとんど食べたことがなかったかも」
最後の小皿、『お魚ステーキ』を手に取ったところで、ようやく私はレフィーに会話を振った。
レフィーの方は既に食べ終わっており、彼は白ワインを飲んでいた。絵になる。生きている観光地である。
「ああ、あの村は湖の魚には手を付けず、そこへ流れ込む川からしか獲っていないようでしたからね。それはなかなか食卓にも上らないでしょう」
「あくまで湖は神様のものだったわけね」
「馬鹿げた話ですが、そういったものを拠り所に生きている人間はシクル村に限らず存在します。自然災害が多い土地にその傾向が顕著ですね」
「神様にでも縋りたい悪環境ってことね」
「……ミア、本当にあの人間に復讐しなくてよかったのですか?」
最後の小皿も後一口になったところで、レフィーが声を潜めて聞いてきた。
シクル村とペーシュの街を対比するあまり、彼に叔父さんの所行を思い出させてしまったようだ。失敗した。
「うん、しなくていい。あのとき言い損ねたけど、私が初め叔父さんだと気付かなかったのは、彼が普段の格好をしていなかったからなのよ。服に限らず生活のほとんどが人任せな人だったから、前までの生活が破綻していたというわけ。だから私が特に何かしなくても、彼が独りになっているだけでもう、大きな罰になっていると思う」
レフィーが言うには、邸に積んであった盗品には大量の小麦粉や野菜があったらしい。一見すると貯め込んでいるだけに思えるが、多分違う。叔父さんはおそらく、誰かが料理を作ってくれるのを待っていたのだと思う。冗談のような話だが、生まれて此の方料理を作ったことがない叔父さんを思えば、あながちその予想は間違っていない気がする。
そんな叔父さんは、村中の非常食で食いつないでいたと思われる。レフィー曰く、玄関ホールには汚れた瓶が多く転がっていたとか。どう考えても瓶詰め野菜の残骸だ。
「独りが罰、ですか。――ああ、言われてみればそういう手もありますね。殺すのは一瞬ですが、その方法ならこの先長くあの罪人を苦しめてくれそうです。あの状況を見るに、元使用人の彼への印象は悪い。人間同士の方が酷いことをしてくれそうです。それなら私はキッパリ手を引きます」
「うん、そうしてもらったら嬉しい」
一部不穏な台詞が聞こえてきたが、最後の「キッパリ手を引く」の言葉だけ拾って、返事する。それ以外の部分は忘れよう、うん。
「レフィー。観光に出る前に、一度泊まる部屋を見ておきたいわ」
やっぱり泊まる部屋は気になってしまう。どうせ帰ってきたら見られるとわかっていても、ソワソワとして落ち着かない。
「いいですよ。ミアが行きたい場所が目的地ですから」
ナチュラルにイケてる返しをしてきたレフィーが、私が最後に赤ワインを飲み干すのを待って、それから席を立つ。
そしてこれまたナチュラルに私の手を取った彼は、部屋へ向かって歩き出した。
……再び私たちが注目の的になったのは、言うまでもない。
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