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アルテミシア(4)
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湖とは反対の方角には、一体どんな景色が広がっているのか。そればかりを気にしていた私は、完全に失念していた。ペーシュへ来る直前にした、固い決意を。
(ダブルベッド!?)
室内に入って真っ先に目に飛び込んできたソレが、思い出させてくれた。
(そう、そうだ。今日こそはレフィーと『実験』するのよ……!)
戦場(ダブルベッド)を前に、胸に手を当て決意を新たにする。
そのために今日はわざわざ、最高に着脱しにくい対レフィー用の勝負服(首元から足首まで総ボタンかつ総編み上げのシャツワンピース)を着てきたのだ。
そう、今日こそは。新婚旅行という非日常を利用して、勇気を持って彼に伝えるのだ。
……まあまだ昼間なので、心の準備は夜までには頑張る。
「ミア。窓から元伯爵領の山が見えますよ」
一人思考をぐるぐるさせていたところ、私を呼ぶレフィーの声が聞こえた。――まさに問題のダブルベッドのすぐ横から。
けれどその台詞からして、彼の注意は窓の外に向いているようだ。私は駆け足で彼がいる窓辺へと寄った。
「合併したっていう隣の?」
「そうです。近年、国に一度返還された伯爵領は一つしかありません。ミアの両親が領主だった土地です」
「!?」
レフィーが指す山を見る。多種多様な植物が育つ、自然なままの森が広がっていた。
草原も切り開かれた感じはせず、比較的なだらかな場所を選んで家屋が建てられているように見える。人が自然に合わせている、そんな印象を受けた。
話の中だけで知っていた『山ばかりの田舎町』が、そこに在った。
私は、山の向こうにもまだ連なる山を食い入るように見つめて――
「……探してくれたの?」
そこでハッとして、隣のレフィーを見上げた。
私がそうするより先に、彼は私を見ていた。
「ミアの名前から辿れば、難なく見つかりましたよ。バートレットという地方なのですが、アルテミシアという名の宝石はそこでしか産出されません」
「宝石?」
ああ、そうだ。『バートレット』、そんな名前の町だった。レフィーの言葉で、忘れていた記憶が蘇る。
そればかりでなく、彼はバートレットにまつわる新しい話をも、もたらしてくれた。
「自分の名前の由来が宝石だなんて、初めて知ったわ。どんな宝石なんだろう……」
「これです」
「持ってるの!?」
軽い気持ちで口にしたつもりだった私は、レフィーが即答したことにかなり驚いた。
亜空間収納からでなく懐から小箱を取り出した彼に、私は珍しいなと呑気に見ていて――
「…………え?」
だから余計に今何が起きたのか、すぐに状況が飲み込めないでいた。
レフィーが蓋を開けて見せた小箱には、ムーンストーンに似た宝石がついた指輪が収められていた。
宝石は確かに美しい。けれど私を呆然とさせたのは、レフィーが取った行動の方だった。
宝石のついた指輪が、綺麗な小箱に収められていたこと。そしてその小箱の蓋を、レフィーが私に向けて開いてみせたこと。まるでプロポーズシーンの王道のような、それ。
目の前で起こった現実味のないワンシーンに、私は息をするのも忘れて魅入ってしまっていた。
指輪を取り出したレフィーが、空箱をベッドのサイドテーブルに置く。
箱を置いた彼の右手が、私の左手を掬い上げる。そして彼は、彼の手の中にある私の手の薬指に、迷いなく指輪を嵌めた。
(ダブルベッド!?)
室内に入って真っ先に目に飛び込んできたソレが、思い出させてくれた。
(そう、そうだ。今日こそはレフィーと『実験』するのよ……!)
戦場(ダブルベッド)を前に、胸に手を当て決意を新たにする。
そのために今日はわざわざ、最高に着脱しにくい対レフィー用の勝負服(首元から足首まで総ボタンかつ総編み上げのシャツワンピース)を着てきたのだ。
そう、今日こそは。新婚旅行という非日常を利用して、勇気を持って彼に伝えるのだ。
……まあまだ昼間なので、心の準備は夜までには頑張る。
「ミア。窓から元伯爵領の山が見えますよ」
一人思考をぐるぐるさせていたところ、私を呼ぶレフィーの声が聞こえた。――まさに問題のダブルベッドのすぐ横から。
けれどその台詞からして、彼の注意は窓の外に向いているようだ。私は駆け足で彼がいる窓辺へと寄った。
「合併したっていう隣の?」
「そうです。近年、国に一度返還された伯爵領は一つしかありません。ミアの両親が領主だった土地です」
「!?」
レフィーが指す山を見る。多種多様な植物が育つ、自然なままの森が広がっていた。
草原も切り開かれた感じはせず、比較的なだらかな場所を選んで家屋が建てられているように見える。人が自然に合わせている、そんな印象を受けた。
話の中だけで知っていた『山ばかりの田舎町』が、そこに在った。
私は、山の向こうにもまだ連なる山を食い入るように見つめて――
「……探してくれたの?」
そこでハッとして、隣のレフィーを見上げた。
私がそうするより先に、彼は私を見ていた。
「ミアの名前から辿れば、難なく見つかりましたよ。バートレットという地方なのですが、アルテミシアという名の宝石はそこでしか産出されません」
「宝石?」
ああ、そうだ。『バートレット』、そんな名前の町だった。レフィーの言葉で、忘れていた記憶が蘇る。
そればかりでなく、彼はバートレットにまつわる新しい話をも、もたらしてくれた。
「自分の名前の由来が宝石だなんて、初めて知ったわ。どんな宝石なんだろう……」
「これです」
「持ってるの!?」
軽い気持ちで口にしたつもりだった私は、レフィーが即答したことにかなり驚いた。
亜空間収納からでなく懐から小箱を取り出した彼に、私は珍しいなと呑気に見ていて――
「…………え?」
だから余計に今何が起きたのか、すぐに状況が飲み込めないでいた。
レフィーが蓋を開けて見せた小箱には、ムーンストーンに似た宝石がついた指輪が収められていた。
宝石は確かに美しい。けれど私を呆然とさせたのは、レフィーが取った行動の方だった。
宝石のついた指輪が、綺麗な小箱に収められていたこと。そしてその小箱の蓋を、レフィーが私に向けて開いてみせたこと。まるでプロポーズシーンの王道のような、それ。
目の前で起こった現実味のないワンシーンに、私は息をするのも忘れて魅入ってしまっていた。
指輪を取り出したレフィーが、空箱をベッドのサイドテーブルに置く。
箱を置いた彼の右手が、私の左手を掬い上げる。そして彼は、彼の手の中にある私の手の薬指に、迷いなく指輪を嵌めた。
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