62 / 69
アルテミシア(5)
しおりを挟む
「……」
何も言えないまま、私は自分の左手を見下ろした。
幾ら見つめても消えずそこに存在するそれに、どこか他人事のように思っていたのが、じわじわと実感が湧いてくる。
顔を上げ、自分がいる場所を確かめるように周囲を見る。
純白の壁に、金細工が施された壁掛けランプ。絨毯は明るいグレーで、少し毛が長いタイプ。白いソファには金の刺繍がしてあるクッションが載っており、その脇には観葉植物が置かれている……。
眺めていたはずのその舞台に立っていたのは、紛れもなく自分だった。
「『アルテミシア』は百年に一度、地表に現れる幻の宝石と言われています」
「そ、そうなの。その年に当たるなんて、すごい偶然ね!」
意識した途端ドギマギしてしまい、裏返った声が出た。
レフィーの方を見られなくて、何とはなしにまた指輪に目を戻してしまう。
「いえ、次の出現は二十年後でしたので、掘ってきました」
「掘っ……て?」
「出現する場所はわかっていますので、真下に掘れば見つかります。二十年後なら大体、十六メートル掘ればよかったので」
「十六メートル掘って……来たんだ」
それは人型で? それとも羽の生えたアルマジロトカゲが? 前者はシュールだし、後者は可愛い。
「掘るよりも、元通り埋める方が大変でしたね。地層ごとに土質が異なるので、土ごとに置き場を分けて、正しい順序で戻さないといけなかったので」
環境への配慮も忘れない。ただし、二十年後に宝石を探しに来るだろう人間への配慮は無い。
「正解の言葉がわからないので、素直な望みを言います」
「レフィー?」
レフィーが私の前に跪く。
彼がそうしたことで、指輪を見下ろしていた私の目は、彼のそれとかち合った。
私たちの視線の一直線上に、彼が掲げた私の左手があった。
「愛しています、アルテミシア。どうか私に、愛する貴女を可能な限り生き永らえさせる許可を下さい」
「!?」
再び舞台の幕が上がる。しかも、いきなり見せ場から。
大根役者な私は気の利いた台詞を返すどころか、口を半開きのまま動かすこともできない。
かろうじて、
かろうじて、人形のようにぎこちない動きで、私は首をコクンと縦に振った。
「――頷きましたね」
「えっ?」
瞬間、にこっとではなく、にやっとレフィーが笑った気がした。
何も言えないまま、私は自分の左手を見下ろした。
幾ら見つめても消えずそこに存在するそれに、どこか他人事のように思っていたのが、じわじわと実感が湧いてくる。
顔を上げ、自分がいる場所を確かめるように周囲を見る。
純白の壁に、金細工が施された壁掛けランプ。絨毯は明るいグレーで、少し毛が長いタイプ。白いソファには金の刺繍がしてあるクッションが載っており、その脇には観葉植物が置かれている……。
眺めていたはずのその舞台に立っていたのは、紛れもなく自分だった。
「『アルテミシア』は百年に一度、地表に現れる幻の宝石と言われています」
「そ、そうなの。その年に当たるなんて、すごい偶然ね!」
意識した途端ドギマギしてしまい、裏返った声が出た。
レフィーの方を見られなくて、何とはなしにまた指輪に目を戻してしまう。
「いえ、次の出現は二十年後でしたので、掘ってきました」
「掘っ……て?」
「出現する場所はわかっていますので、真下に掘れば見つかります。二十年後なら大体、十六メートル掘ればよかったので」
「十六メートル掘って……来たんだ」
それは人型で? それとも羽の生えたアルマジロトカゲが? 前者はシュールだし、後者は可愛い。
「掘るよりも、元通り埋める方が大変でしたね。地層ごとに土質が異なるので、土ごとに置き場を分けて、正しい順序で戻さないといけなかったので」
環境への配慮も忘れない。ただし、二十年後に宝石を探しに来るだろう人間への配慮は無い。
「正解の言葉がわからないので、素直な望みを言います」
「レフィー?」
レフィーが私の前に跪く。
彼がそうしたことで、指輪を見下ろしていた私の目は、彼のそれとかち合った。
私たちの視線の一直線上に、彼が掲げた私の左手があった。
「愛しています、アルテミシア。どうか私に、愛する貴女を可能な限り生き永らえさせる許可を下さい」
「!?」
再び舞台の幕が上がる。しかも、いきなり見せ場から。
大根役者な私は気の利いた台詞を返すどころか、口を半開きのまま動かすこともできない。
かろうじて、
かろうじて、人形のようにぎこちない動きで、私は首をコクンと縦に振った。
「――頷きましたね」
「えっ?」
瞬間、にこっとではなく、にやっとレフィーが笑った気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜
hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・
OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。
しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。
モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!?
そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・
王子!その愛情はヒロインに向けてっ!
私、モブですから!
果たしてヒロインは、どこに行ったのか!?
そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!?
イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる