大量失踪事件容疑者センター試験

広虫

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1科目目数学 受験者 水田紀彦

試験前

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 2017年12月、日本。世間の高校生達は皆センター試験の襲来を前にして、必死に勉強していた。

 水田紀彦は、中堅私立高校に入り、成績もそれなりで、友人関係も良好。彼女はいないが部活に没頭し、後輩からは慕われていて、それなりの大学に入ってそれなりの職につけたら良いと思っていた。彼の両親は幼い頃に他界し、祖父母の家で暮らしていたが、高校に入ってからは両親が暮らしていた家で一人暮らしをしていた。さすがに高校生が一人暮らしをするとなると、祖父母の援助があるとはいえ生活は厳しく、新聞やテレビ、ましてやゲーム機やスマホなどの娯楽はあるわけもなく、祖父母から借りた古い本を読むのと部活動が彼の娯楽だった。

 そうして彼は高校生活も残すところわずかとなり、冬休みを前に部活も引退したところであった。肌寒い中教室に入ると、クラスの皆は必死に参考書に取り組んでいた。親友の富付も、いつもふざけていた野村も、ファッションの事しか興味がなかったギャルの古月は……その中でもやはり一部のギャル友達とファッションの話をしていたが。ともかく一部を除いて皆真剣に勉強していた。水田はなぜ彼らがそんなに勉強しているのか、それぐらいは彼でも聞いたことがあった。1月にはセンター試験がやってくるのだ。センター試験という名前ではあるが、学生たちが大学に入るためとかに行われる学力調査なんかではない。数年前から現れたある種の怪物と言われているらしい。後輩や部活仲間がたまに話しているのは知っていたが、そこまで突っ込んで聞いてはいなかった。テレビや新聞もスマホもない中で、あまり部活仲間や後輩と部活以外の話をしていても、話題についていけず、部活の話ですら話せなくなることが怖かったのだ。部活以外の世間話が唯一できる、幼馴染だが語彙力が皆無の富付によるとそれはとにかくヤバイらしい。「センター試験とにかくヤバイらしいからな!兄ちゃんにも聞いたんだけどマジヤベーっていってたし、テレビでもこの季節になると言ってんじゃん!アナウンサーとかもヤバイ、ヤバイばっか言ってるぞ」とのことだ。正直よくわからなかったが、富付との会話はいつもこんなもんだ、とスルーしていた。

 時は流れ2017年1月13日。休みということで少し遅めの8時に起床し、日課の軽いストレッチを行ってから朝飯を食べようとしたその時。突然水田は意識を失った。



 昨日夜遅くまで本を読んでいたせいで居眠りをしてしまったのだろうか、目を覚ました水田はまず呑気にもそんなことを考えていた。しかし辺りを見回すと様子がおかしい。家にいたはずなのに周囲は真っ白な空間で、机と椅子、そして机の上に冊子が一つ置いてあるだけだった。水田はひとまず頭の整理が追いつかないまま、なんとなく冊子をめくろうとするが、めくることができない。仕方なく冊子の表紙を見ると、少し大きな文字で

センター試験 
数学① 数学Ⅰ、数学A
試験時間 5分

と書いてあり、その下にそれより小さな文字で幾つか注意書きが書かれていた。

試験開始の合図があるまで、この問題冊子の中を見てはいけません。

などなど、10個くらい書かれた注意書きの下に、目立つ赤文字で、こう書かれていた。

本試験で無得点だった者、もしくは未受験者は、ここから出ることはできない。

それを見た水田は驚いた。驚き、ここから出られないという言葉を繰り返し見返し、その後あたりのただの白い空間を歩き回った。そして、水田はやっと理解した。富付がセンター試験がヤバイヤバイいっていた理由が、そしてクラスの皆が必死にセンター試験に向けて勉強していた理由が。彼は富付の語彙力のなさを呪いながらも、ひとまず自分の置かれた状況を整理し始めた。ここは謎の空間で、机と椅子と一冊子以外には何もない。そして冊子の内容はセンター試験であり、数学と書いてある。そして、この冊子に書いてあるであろう数学の問題が解けなければ俺はずっとここにいることになる、ということだ。そうして水田が状況を整理しながらも、現実を受け入れることはできていない中で、突然女性の声で音声が流れてきた。
「あと五分で試験を開始します。受験される方は着席してください」
その声の抑揚のなさに気味の悪さを感じながらも、頭によぎるのは冊子の表紙の赤文字だった。

本試験で無得点だった者、もしくは未受験者は、ここから出ることはできない。

とりあえず椅子に座り深呼吸をする。そうして少し落ち着くと、水田の中である種の安心感がやってきた。少なくとも小学生以来、学力試験で0点なんて今までとったことはない。これはそういうのとは違うのかもしれないが、中堅私立高校である程度の順位にいたのだから、さすがに0点はないだろう。そう思った。そうして5分くらい経ったか、というところで、先ほどと同じ声で、
「筆記具は鉛筆と消しゴムを提供します」
と流れてきた。するといつの間にか机の上には新品でピカピカの、とはいえもちろん綺麗に削られている鉛筆と同じく新品の消しゴムが置かれていた。水田はこの不思議な空間に30分程度いたこともあってか、そのことを特段疑問には思わなかった。そしてまた同じ声で
「試験開始」
という声が流れた。
するとさっきまでどうしてもめくれなかった冊子がめくられるようになっており、中には数学の問題が一問だけ書かれていた。
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