大量失踪事件容疑者センター試験

広虫

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1科目目数学 受験者 水田紀彦

試験開始、試験後

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「試験開始」
という声が流れた。
するとさっきまでどうしてもめくれなかった冊子がめくられるようになっており、中には数学の問題が一問だけ書かれていた。

第1問(必答問題)(配点100)
y=-2x^2+8x-6を曲線cとする。
1<=x<=3での曲線cとx軸で囲まれた部分の面積を求めよ

 水田は正直拍子抜けだった。この空間から出られない、という言葉がこの試験がとても難しいように思わせたが、微分の基礎問題らしい。微分は12月の授業でやっていたし、ある程度は記憶に残っていた。先生の話はあまり聞いていなかったが、問題はそれなりに解けていたはずだ。そして水田は
  -2x^2+8x-6=0
  x^2-4x+3=0
  (x-1)(x-3)=0
という式をスラスラと書くと、いわゆる6分の1公式に当てはめれば終わりであることに気づく。
「えーと、確かこういうのは、-1/6(b-a)^3だから…」そう一人つぶやき、また書き始める。

よってこの面積は、-1/6(3-1)^3
=-4/3

と書いたところで、水田は気がついた。面積が負になっているのはおかしい、と。そこで彼は問題文を改めて見直すと、方程式の二次の係数が負であった。これに気付いた水田は、間違いを見つけたことの安堵とこのまま気づかなかったらどうなっていたか、という恐ろしさの混じった感情のまま、書き直した。

よってこの面積は、-[-1/6(3-1)^3]
=4/3

そこまで書き終わると、問題用紙の下の方に小さく選択肢が書かれていることに気がつく。①-4/3 ②2/3 ③4/3 ④8/3
そこで彼は①の選択肢を見て、先ほどの自分の気づきに改めて感謝しながら、③の下にあるマークを黒く塗り潰した。そうして満足し 感の中で、何回かササッと見直しをする。それが終わるとほぼ同時に、またあの声が流れた。
「試験終了です」
 
机を見るといつのまにか冊子も筆記用具も無くなっていた。特に椅子に座っている理由もなくなり、水田は立ち上がって辺りを見回す。
「それにしても一問しかなくてそれが配点100点なんて一つ計算間違えただけでここで野垂れ死かよ…」
真っ白い空間ではあるが、美しさや綺麗さは感じることがなく、むしろ非現実さを感じ気分が暗くなってくる。
そうしていると声が流れる。
「採点が終了しました」
水田はその声に一瞬ドキッとしながらも、引っ掛けを乗り越えた意識から、どっしりと構え直し、次の言葉を待つ。




「水田紀彦の得点は…0点です。
   これにて本年度試験は終了です。
   無得点だった方、未受験の方はまた来年頑張ってください。」



 その無情な宣告はまたこれまでと変わらぬ抑揚で話された。水田はその声を聞き、暫し呆然としたあと、少し遅い驚愕がやってきた。その事実を受け止められないまま、いつの間にかまた新しい冊子が置かれていることに気づく。そうして足を引きずりながら机のもとに辿り着き、中身を見ると、先ほどの問題の解答が書いてあった。解答を見た水田に今更蘇ってきたのは、部活のフォーメーションを考えながら受けていた数学の授業のかすかな記憶だった。
「今紹介した1/6公式は便利だがな~
一つ注意しなきゃいけないところがある。
それは…2次の係数を掛けることだ。
1/6公式を支える条件でも、たとえば3x^2+6x+9なら、3×-1/2(b-a)^3だからなー」
そんな言葉が蘇ってきた後、彼は泣いた。あの時授業を真面目に受けていて、このことをちゃんと記憶に刻み込んでおいてもっと早くこのことを思い出していれば…
 その思いも虚しく、水田はその何もない空間に閉じ込められ、その何もない空間で過ごすこととなった。
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