かこちゃんの話

けろけろ

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昨日や今日の午後、または明日、もしくは永遠

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 約束。
それは、願い。または、儚さへの抗い。たびたび束縛と同義にもなる。
 約束のいらなかった日々がきっと、誰の過去にもある。
 きっと幼少期のほんの僅かな期間。もしかしたら、一ヶ月とか、一週間とか、数日、たった一日かも。
 何の恐れや憂いがない、完全に宇宙と調和のとれている期間。
 人によっては、その期間を知らないで大人になってしまうのかも。
 とにかく、華子穂はきっこと何の約束もせずに、毎日毎日、庭で「ばったり会って」遊んだ。
「どちらかが来ないかも」なんて、「どっちも考えていない」。
華子穂ときっこは、完全に調和のとれた宇宙のいまや中心となっていた。人知れずに。
 
 梅雨に入る前に、真弓は華子穂と美咲を幼稚園に呼んだ。
 華子穂にとって「外遊び」が園でのこころの拠り所になろうことは分かっていた。
「もりのなか幼稚園」は背中から小山に抱かれ、林に埋もれる自然豊かなところだ。
 かこちゃんも喜んでくれるだろう。真弓はそのことに関して不安はなかった。
 園の敷地で遊んでくれるだけでいい。そう考えていたのに。
 真弓の思いに反し、華子穂は「機嫌が良かった」。
園内での華子穂の相手はすべて美咲に任せるつもりだった。
ちょっと変わった公園に遊びに来たみたいに、園の子どもたちとは別に実咲と華子穂には好きに遊んで、好きに帰ってもらうつもりだったのだ。
それなのに、華子穂は工作遊びをする子どもたちと同じ保育室のなかにいて、特にぐずることもなくブロックで遊んでいる。
 もちろん、「そういうこと」も想定している。日案では華子穂が園舎に(そして保育室にも)入れる時の対応も考えてある。
 そして、真弓はその通りにそらぐみの子どもたちに華子穂を紹介した。華子穂はもちろん、反応してはくれなかったが、計画通りに美咲と掛け合いをして子どもたちが華子穂を受け入れられるよう流れを作った。
 しかし、それらは想定はしていたが、あくまで事象として現実になる可能性はないに等しいと考えていた。
  真弓はプロとして幼稚園教諭の仕事に取り組んだが、何度も実咲にアイコンタクトを送った。
「どういうこと?」と。
 ところが、頼りの美咲も「さあ?」という表情をするのだ。だから、ふたりはしきりに顔を合わせ、戸惑いを共有するしかなかった。

 今日はお母さんと幼稚園に遊びに来た。
広い庭があって、木がたくさんある。真弓ちゃんが働いているところで、だから、かこは特別に遊んでいいのだという。
 保育園に行かなくてもいいとも言うので、来てみた。
 知らない場所は知っている場所よりずっと大きく(宇宙規模で、遥かに)孤独を感じる。
でもそんなとき、(大丈夫?)そう顔を覗き込むきっこの顔とその顔を見たときに胸のなかに広がった「ふあふあ」が蘇る。
 (大丈夫)かこは目を閉じる。
(大丈夫)そう形而上の波動で答える。いまはいないけど、昨日や今日の午後や、明日は側にいるきっこに。
 かこはここにいるけど、ここだけにしかいない訳じゃない。昨日や今日の午後、明日のきっこの側にいる。
 いままでこの世界のすべての場所で分け隔てなく孤独だったように、いまはすべての場所、それにすべての時間きっこと一緒にいる。
 (大丈夫?)
(うん、大丈夫)
 ふあふあ。
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