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闇のトンネル
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かこちゃんは家の窓に張り付いている。
まるで迎えを待つかのような、それを確信しているけど、いつになるのか不安だという表情で。
でも、きっと待っているのはお母さんではないのだろう。
「きっこ」。
そういう存在がかこちゃんのお家の庭にはいるらしい。
今日電話をくれた保育士(訪ねてきた人とは別の)が教えてくれた。
ネットで調べた。恐らく「イマジナリーフレンド」というやつだろう。
幼少期には珍しくないらしい。秘密の友だち、他者には見えない想像の存在だ。
そう思うのだが、電話先で保育士は言いにくそうに口篭り、「どういえば私がまともなまま、この考えに至ったのか伝わるか分からないけど」と言い置き、「きっこっていうのは、かこちゃんの家の庭に棲む妖精なんじゃないかって思うの」と、そんなことを言った。
つまり、それがイマジナリーフレンドなのではないか。
幸子は窓に張り付く華子穂の赤いベストを見つめる。
別にその保育士の言い分を否定している訳じゃなし、妖精がいないと思っているわけじゃない。
だけれど、かこちゃんはたくさんの苦痛から身を守ろうと、現実とこころの間にクッションを「でっち上げた」のだ。珍しいことではない。だから、可能性は高い。
でも、どうやらその「友だち」はお家の庭に住んでいるという「設定」らしい。
どうしたものか。
今日のように暴れるようならば、その「友だち」に会えるように図らう必要があるだろうか。
ふくらんでいくのが見える。
世界が変わってしまった。
あんなに何もかもが転がるように、軽やかに進んでくれたのに。
煙ではない。雲だ。生き物のようにかこを追い詰める黒い雲。ただの黒じゃない。もっと怖い黒。色んな濃さの黒が見えて、とても不安になる。
追い詰めるといっても、それはかこの胸のなかからあらわれる。
集中して手や足を這う雲を気持ちの風で跳ね除けているけど、目の前は駄目、もう真っ黒。
だけど、これって、何だかもともと世界はこうだったような気もする。そう華子穂は思う。
まるでオセロのようなもの。黒と黒で挟まれて、白は黒に変わる。白であったことなど消え去って。
電話での妖精での引き継ぎを受けた数日後、私はかこちゃんを十日程前まで帰る場所だったところへと連れていった。
今だってかこちゃんにとって帰る場所には変わりないのだが、そのスパンは毎日ではなく、必ず帰ることができるかはまだ分からない。
悲しいかな、帰る「べき」場所となってしまった。そのためにできることは何でもしたいが、どうしても「自分だけの問題ではない」ことが私と(おそらく)かこちゃんの未来に重い暗雲として垂れ込めている。
それにしても、どうも話が噛み合わないと感じるのは、今朝かこちゃんに「きっこ」というものの話をしたときの彼女の反応だ。保育所で暴れてからというもの無気力状態に陥り、しかも日に日に悪化していくその姿を目のあたりに危急に行動しなくてはと園長に許可は取ったはいいが、かこちゃんにこれといった反応は見えない。
雨立邸(木造平屋で築四十年は優に過ぎているように見える)の庭に車を付け、声を掛けても、ドアを開いてもまるで興味を示さない。
困った。幸子は立ち尽くす。ここに来れば何か解決の兆しが見つかるものだと楽観していたのだ。
「ねぇ、かこちゃん。きっこもかこちゃんを待ってるよ、きっと。ねぇ」
自発的な行動を取らないかこちゃんに交渉的で、どこか嘘を吐いているような後ろめたさを覚えながら「ねぇ」を連呼する。
「ほら、かこちゃん」
暴れられることに恐れを抱きながら、かこちゃんの身体に腕を回し、抱えて車から下ろす。
「ねぇ、かこちゃん、きっこはどこかな?」
口数が多くなるのはこれが優しさであると自分に言い聞かせるためであった。
それでもかこちゃんは無反応であった。
拒絶する様子もなく、ぐったりと頭を私の肩に落とす。そのことに安堵し、そのまま庭へと足を踏み入れる。
かこちゃんのお父さんには話を通してあった。初めのアセスメントではショックと疲れが顔色に現れ、今のかこちゃんに似た無気力状態にあったが、今回電話で話をした時は溌剌とした声で、「そうですか、よろしくお願いします」と言って寄越した。
何の疑いもなく、それが娘のためになるなら会いに行くのが神さまでも同じ返事をするのだろう、そんな普遍さを感じた。
おかしな家族、不安定な人たち。少なからず幸子は訝しんだ。
立ち直るのは悪いことでは決してないのだけれど。
「ねぇ、かこちゃん。きっこはどこかなぁ?一緒に探してみようよ」
努めて明るく声を出す。それが徐々に難しくなっていくのを感じながら。
すると、ぐったりと寄り掛かったかこちゃんの頭からふいに耳元に言葉が漏れる。
「きっこはここにはいないのです」
まるで突然開いた穴に落ちていくような感覚。足下から震えが起こり、それがじわじわと登ってくる。それを完全に自覚しながら登ってくる震えを止められない。「あれが心臓に到達したら死ぬのではないか」そんな怯えを抱き、咄嗟に「来るな」と無為に抵抗の意思を膨らます。もちろん、それは無為であるから次の瞬間には幸子はゆっくりと訪れた死ぬほどの恐怖に心を虚ろにされてしまった。
そんな幸子を気遣ってか首を擡げる華子穂。
「どうかしたのでしょうか。私のもたらす何かが、間違いがあったのでしょうか?」
機械のようであり、しかしそれとは全く正反対である澄み切った星空が鳴っているかのような声。
思わず幸子は華子穂を振り落とした。そして、それからの数秒間、それが酷い行いであることに気付けずにいた。
まるで何も無かったかのように幸子を見つめる華子穂の瞳がそれを更に助長していた。
しばらくして、上体を起こして横たわる華子穂が、自分が地面に投げ飛ばし起き上がれずにいる少女に認識が変わっていくにつれ、今度は幸子は自分のしたことに全く別の恐怖を覚えなくてはいけなかった。
一瞬の葛藤の後、まず周りに誰もいないことを確認していた。何度も、しかし、何度見ても誰かが見ているような感覚は拭えず、それでも誰もいないことは確認できたので、膝と手を地面に突き、かこちゃんに「ごめんね、大丈夫だった、怪我はない?」と呪文のように声を掛ける。
まだ誰かに見られている気がする。きょろきょろと目を皿のようにして辺りを見回す。
それから、自分がした行いが自分の帯びた使命に反する有るまじきことであることに発明のように思い当たって、身体が硬直して動かなくなってしまった。
自分への失望。それが景色のすべてを覆う。
それからふと正気を取り戻すと、その思いは嘘のように姿を変えた。
「なんて可哀相な子だろう」という、この一心に。
母親にも、そして私にもこんなことをされ、この子はあとどれだけ多くの人に今まで傷付けられてきたのだろう。
それは、自分を傷付けたりしない秘密の友だちも欲しくなることだろう。
「かこちゃん。かこちゃんはなぁんにも間違ってないよ。ねぇ、教えて。きっこはどこにいるの?」
あの保育士の言う通りだった。今にしてやっとそう思い至った。
きっこがどれほど現実的で、切実な思いと結びついた存在か。私の現実よりも、もっと巨大なリアリティからなる存在であることを。
だから、きっと探せばどこかにいるのだ。ここにいないなら、別の場所に。
かこちゃんは膝を突いて座った姿勢を取ると「それならば望むことがあります」と改まって言った。
「何?」
違和感は消えない。まるでかこちゃんそのものが妖精のようだ。
「きっこに逢えば、かこは満たされます。いまは欠けています。欠けたかこが欲しいきっこを探すには、あなたが満ちていなければならないでしょう。あなたが欲しいものを手に入れてください。お願いします」
それは途方もない謎かけのように聞こえ、しかし、心のなかではとても単純に響いていた。
「まさか……、かこちゃん、あなた知ってて……
?」
目の前にいる妖精じみた子どもの中にある「闇」の深さを測ろうと大きな目を見つめる。
闇の深さなど分かりはしない。幸子は影などない黒を縁っただけの巨大な扉の前に立っている。果たして、これはただの壁なのか、延々と続く闇のトンネルなのか。
きっと後者であろうことは、幸子には分かっていた気がした。
まるで迎えを待つかのような、それを確信しているけど、いつになるのか不安だという表情で。
でも、きっと待っているのはお母さんではないのだろう。
「きっこ」。
そういう存在がかこちゃんのお家の庭にはいるらしい。
今日電話をくれた保育士(訪ねてきた人とは別の)が教えてくれた。
ネットで調べた。恐らく「イマジナリーフレンド」というやつだろう。
幼少期には珍しくないらしい。秘密の友だち、他者には見えない想像の存在だ。
そう思うのだが、電話先で保育士は言いにくそうに口篭り、「どういえば私がまともなまま、この考えに至ったのか伝わるか分からないけど」と言い置き、「きっこっていうのは、かこちゃんの家の庭に棲む妖精なんじゃないかって思うの」と、そんなことを言った。
つまり、それがイマジナリーフレンドなのではないか。
幸子は窓に張り付く華子穂の赤いベストを見つめる。
別にその保育士の言い分を否定している訳じゃなし、妖精がいないと思っているわけじゃない。
だけれど、かこちゃんはたくさんの苦痛から身を守ろうと、現実とこころの間にクッションを「でっち上げた」のだ。珍しいことではない。だから、可能性は高い。
でも、どうやらその「友だち」はお家の庭に住んでいるという「設定」らしい。
どうしたものか。
今日のように暴れるようならば、その「友だち」に会えるように図らう必要があるだろうか。
ふくらんでいくのが見える。
世界が変わってしまった。
あんなに何もかもが転がるように、軽やかに進んでくれたのに。
煙ではない。雲だ。生き物のようにかこを追い詰める黒い雲。ただの黒じゃない。もっと怖い黒。色んな濃さの黒が見えて、とても不安になる。
追い詰めるといっても、それはかこの胸のなかからあらわれる。
集中して手や足を這う雲を気持ちの風で跳ね除けているけど、目の前は駄目、もう真っ黒。
だけど、これって、何だかもともと世界はこうだったような気もする。そう華子穂は思う。
まるでオセロのようなもの。黒と黒で挟まれて、白は黒に変わる。白であったことなど消え去って。
電話での妖精での引き継ぎを受けた数日後、私はかこちゃんを十日程前まで帰る場所だったところへと連れていった。
今だってかこちゃんにとって帰る場所には変わりないのだが、そのスパンは毎日ではなく、必ず帰ることができるかはまだ分からない。
悲しいかな、帰る「べき」場所となってしまった。そのためにできることは何でもしたいが、どうしても「自分だけの問題ではない」ことが私と(おそらく)かこちゃんの未来に重い暗雲として垂れ込めている。
それにしても、どうも話が噛み合わないと感じるのは、今朝かこちゃんに「きっこ」というものの話をしたときの彼女の反応だ。保育所で暴れてからというもの無気力状態に陥り、しかも日に日に悪化していくその姿を目のあたりに危急に行動しなくてはと園長に許可は取ったはいいが、かこちゃんにこれといった反応は見えない。
雨立邸(木造平屋で築四十年は優に過ぎているように見える)の庭に車を付け、声を掛けても、ドアを開いてもまるで興味を示さない。
困った。幸子は立ち尽くす。ここに来れば何か解決の兆しが見つかるものだと楽観していたのだ。
「ねぇ、かこちゃん。きっこもかこちゃんを待ってるよ、きっと。ねぇ」
自発的な行動を取らないかこちゃんに交渉的で、どこか嘘を吐いているような後ろめたさを覚えながら「ねぇ」を連呼する。
「ほら、かこちゃん」
暴れられることに恐れを抱きながら、かこちゃんの身体に腕を回し、抱えて車から下ろす。
「ねぇ、かこちゃん、きっこはどこかな?」
口数が多くなるのはこれが優しさであると自分に言い聞かせるためであった。
それでもかこちゃんは無反応であった。
拒絶する様子もなく、ぐったりと頭を私の肩に落とす。そのことに安堵し、そのまま庭へと足を踏み入れる。
かこちゃんのお父さんには話を通してあった。初めのアセスメントではショックと疲れが顔色に現れ、今のかこちゃんに似た無気力状態にあったが、今回電話で話をした時は溌剌とした声で、「そうですか、よろしくお願いします」と言って寄越した。
何の疑いもなく、それが娘のためになるなら会いに行くのが神さまでも同じ返事をするのだろう、そんな普遍さを感じた。
おかしな家族、不安定な人たち。少なからず幸子は訝しんだ。
立ち直るのは悪いことでは決してないのだけれど。
「ねぇ、かこちゃん。きっこはどこかなぁ?一緒に探してみようよ」
努めて明るく声を出す。それが徐々に難しくなっていくのを感じながら。
すると、ぐったりと寄り掛かったかこちゃんの頭からふいに耳元に言葉が漏れる。
「きっこはここにはいないのです」
まるで突然開いた穴に落ちていくような感覚。足下から震えが起こり、それがじわじわと登ってくる。それを完全に自覚しながら登ってくる震えを止められない。「あれが心臓に到達したら死ぬのではないか」そんな怯えを抱き、咄嗟に「来るな」と無為に抵抗の意思を膨らます。もちろん、それは無為であるから次の瞬間には幸子はゆっくりと訪れた死ぬほどの恐怖に心を虚ろにされてしまった。
そんな幸子を気遣ってか首を擡げる華子穂。
「どうかしたのでしょうか。私のもたらす何かが、間違いがあったのでしょうか?」
機械のようであり、しかしそれとは全く正反対である澄み切った星空が鳴っているかのような声。
思わず幸子は華子穂を振り落とした。そして、それからの数秒間、それが酷い行いであることに気付けずにいた。
まるで何も無かったかのように幸子を見つめる華子穂の瞳がそれを更に助長していた。
しばらくして、上体を起こして横たわる華子穂が、自分が地面に投げ飛ばし起き上がれずにいる少女に認識が変わっていくにつれ、今度は幸子は自分のしたことに全く別の恐怖を覚えなくてはいけなかった。
一瞬の葛藤の後、まず周りに誰もいないことを確認していた。何度も、しかし、何度見ても誰かが見ているような感覚は拭えず、それでも誰もいないことは確認できたので、膝と手を地面に突き、かこちゃんに「ごめんね、大丈夫だった、怪我はない?」と呪文のように声を掛ける。
まだ誰かに見られている気がする。きょろきょろと目を皿のようにして辺りを見回す。
それから、自分がした行いが自分の帯びた使命に反する有るまじきことであることに発明のように思い当たって、身体が硬直して動かなくなってしまった。
自分への失望。それが景色のすべてを覆う。
それからふと正気を取り戻すと、その思いは嘘のように姿を変えた。
「なんて可哀相な子だろう」という、この一心に。
母親にも、そして私にもこんなことをされ、この子はあとどれだけ多くの人に今まで傷付けられてきたのだろう。
それは、自分を傷付けたりしない秘密の友だちも欲しくなることだろう。
「かこちゃん。かこちゃんはなぁんにも間違ってないよ。ねぇ、教えて。きっこはどこにいるの?」
あの保育士の言う通りだった。今にしてやっとそう思い至った。
きっこがどれほど現実的で、切実な思いと結びついた存在か。私の現実よりも、もっと巨大なリアリティからなる存在であることを。
だから、きっと探せばどこかにいるのだ。ここにいないなら、別の場所に。
かこちゃんは膝を突いて座った姿勢を取ると「それならば望むことがあります」と改まって言った。
「何?」
違和感は消えない。まるでかこちゃんそのものが妖精のようだ。
「きっこに逢えば、かこは満たされます。いまは欠けています。欠けたかこが欲しいきっこを探すには、あなたが満ちていなければならないでしょう。あなたが欲しいものを手に入れてください。お願いします」
それは途方もない謎かけのように聞こえ、しかし、心のなかではとても単純に響いていた。
「まさか……、かこちゃん、あなた知ってて……
?」
目の前にいる妖精じみた子どもの中にある「闇」の深さを測ろうと大きな目を見つめる。
闇の深さなど分かりはしない。幸子は影などない黒を縁っただけの巨大な扉の前に立っている。果たして、これはただの壁なのか、延々と続く闇のトンネルなのか。
きっと後者であろうことは、幸子には分かっていた気がした。
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