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第7章 記憶の旅路

cys:158 葬列とアネーシャの祈り

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「ううっ、ノーティス……」

 スマート・ミレニアムに戻る中、メティアはうつむき涙を流しながら皆と歩いていた。

 もちろん、他の皆も誰一人口を開かない。
 悔しさと苦しさに覆われた顔を軽くうつむかせ、無言のまま歩いている。
 まるで、葬列のような雰囲気で。

 そんな中で、ようやく口を開いたのはレイだ。
 前を向いて歩きながら静かに告げる。

「メティア、いつまで泣いてるのよ」
「だって……だってレイ……」

 メティアは涙をポロポロ零しながら見上げたが、レイは真っ直ぐ前を向いたまま振り向かない。

「泣いたら戻って来るの? あの人が……!」
「レイ……ううっ……」

 涙が止まらぬメティアの側で、レイはキツい表情のままだ。
 当然だがレイも辛いから。
 メティアとは異なる想いではあるが、だからこそ尚の事辛い。
 けれど、今一滴でも涙を零せば、そこから止まらなくなるのを分かっている。

───だから、私は泣かない。絶対に……!

 そんな二人を哀しそうに見つめたジークは、悔しさに一瞬ギュッと目を閉じた。
 ガサツな雰囲気に隠されているジークの優しい心に、二人の気持ちが痛いほど伝わってくるから。

───くそったれが…

 そして、ジークはその場にピタッと足を止めると、ロウの方にバッと顔を振り向けた。

「ロウっ!」

 その声に皆足を止め振り返った中、ジークは溜まった想いをぶつけゆく。

「お前さんは俺達の軍師だ。だから、あの場でした事に文句を言うつもりはねぇ。けどよ、なんでああしたのか教えてくれねぇか! 俺だって、本当はアイツを連れて帰りたかったからよ……!」

 切なる叫びを受けたロウは、しばし無言のままジークを見つめている。
 ここでの一言が今後ジークを含め、皆の気持を大きく左右する事が分かっているから。
 なので、一瞬で思考を巡らせた後ゆっくりと口を開く。

「取り戻す為だ。彼を……僕らの勇者エデン・ノーティスを」
「ロウ……だったらなんで、いや、これからどうやってアイツを取り戻すんだ。この機会に、大軍連れて奴さんらの所に攻め込むのか?」

 するとロウは、一瞬スッと瞳を閉じてからジークを見つめた。
 その瞳に迷いはない。

「まずは教皇様へ報告する。ありのままを。そこからどう動くかを必ず伝える。無論、その意味も……!」
「ロウ、お前さん……」

 ジーク達が少し不思議そうな顔で見つめる中、皆の間を冷たい風がビュッと吹き抜けた。
 まるで、今後の嵐の前触れかのように……

◆◆◆

 それからしばらくが過ぎた頃、ノーティスはアネーシャを探していた。

「アネーシャーーどこだーー?!」

 あの大惨事の後、犠牲になってしまった人達の弔いが行われたのだが、それまで一緒にいたアネーシャの姿が見当たらないのだ。
 もう日も落ち、澄み切った空には星が煌めいている。

───まさかアネーシャ……!

 不安な気持ちを募らせながら色々な所を探し周っていると、斜め上から白く光る精霊がスッと近寄って来た。

「エレミア!」
「ノーティス、大変じゃったの……」

 いつも陽気で明るいエレミアだが、今は悲しく悲壮な表情を浮かべている。
 光る体がそれと逆なのが、対照的で切ない。
 そんなエレミアを、ノーティスは辛そうな顔で見上げた。

「エレミア、さっきからアネーシャが見当たらないんだ!」
「アネーシャが?」
「あぁ、そうなんだよ。どこにいるのか知らないか? なんか、嫌な予感がするんだ」
「うむ……」

 エレミアは少し目を閉じて考えると、スッと目を開けスー―ッと動き出した。
 エレミアの動いた後ろに、一瞬光の帯が出来ていく。

「こっちじゃ。恐らくな」

 そんなエレミアの後を追って歩いていくと、辿り着いたのは大きな教会だった。

「ここは……!」

 ノーティスは、その教会から立ち昇る厳かな雰囲気に立ち尽くしていたが、ふと横に目をやると、木製の看板に白い文字で書かれている言葉が目に入った。

『絶望した時、アナタは最も真実に近い場所にいる』

 それを見て、この教会の中にアネーシャがいる事を直感したノーティス。

「行こう、エレミア」
「うむっ」

 教会の扉をスッと押して入ると、奥の方に膝をついたまま祈りを捧げているアネーシャの姿が。
 ステンドグラスの窓から差し込む光が、アネーシャを照らしている。
 まるで聖女のように。

「アネーシャ……」

 静かに零したノーティスは、ゆっくり近寄っていく。
 いきなり駆け寄ったりしなかったのは、祈りを捧げるアネーシャの姿が包まれていたからだ。
 この祈りを邪魔してはいけないと感じさせる、神聖なオーラに。
 無論、エレミアも同じ気持ちを感じている。

───精霊以上に神聖じゃな……

 そんな風に感じながら見つめる中、アネーシャは瞳を閉じまま哀しくうつむき、両手を組んだまま祈りを続けている。

「女神レティシア……なぜ、なぜライトをあんな目に……なぜ、私じゃなかったのですか……私は、愛する人をまた失いました……憎しみはいけないのは分かってます……けど、私はもう……」

 アネーシャの全身から、神々しいオーラと共に哀しみが溢れ出ている。

 それはもう、当然だった。
 アネーシャはこれまで、愛と正義の為に自分を犠牲にしてずっと戦ってきた。
 どんなに大変でも、決して泣き言を言わずに。

 なのに、これまでそれが決して報われる事はなく、むしろ悲劇となって返ってくる。

 もちろん、ノーティスはそれを知らないが、祈りを捧げるアネーシャの姿からヒシヒシと伝わってきた。
 これまで、アネーシャがどう生きてきたのかが。

───アネーシャ、キミは……

 ノーティスはアネーシャの下へそっと近寄り切ない瞳で見下ろすと、隣にスッと跪き同じ方向を向いて祈りを捧げ始めた。
 自然とそうしなければいけないと思ったのだ。

 それに気づき、アネーシャはハッ! と、した顔を振り向けた。

「ノーティス! それにエレミア、貴方まで」

 ビックリして思わず立ち上がり、二人の事を見つめているアネーシャ。
 だが、ノーティスはそのまま祈りを続ける。

「アネーシャ、俺もキミと一緒に祈る」
「ノーティス……!」

 アネーシャの瞳に思わず涙がジワッと浮かんだ。
 さっきノーティスが感じたように、アネーシャもノーティスのその姿から感じたから。
 ノーティスの愛と魂を。

 そんな二人を、エレミアは無言のまま見つめている。

 もちろん、アネーシャにとってノーティスは本来敵だ。
 いや、敵以上の仇。
 愛するシドの命を奪った憎むべき仇。
 けれど、記憶を失ったノーティスと一緒に過ごす中でイヤでも分かってしまっていた。

───ノーティス、本当の貴方は優し過ぎる……私は……

 アネーシャは一瞬瞳を閉じ想いを心でギュっと抱きしめると、ノーティスを見つめゆっくり口を開く。

「ノーティス、話があるの」

 その声に跪いたまま振り向いた時、ノーティスの瞳に映ったアネーシャの姿は、まるで天使が懺悔するような哀しい神々しさに満ちていた……
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