160 / 224
第7章 記憶の旅路
cys:159 クリスタルが照らす女神の記憶
しおりを挟む
「アネーシャ……?」
ノーティスはスッと立ち上がり見つめた。
自分の事を、哀しさと優しさの交叉した瞳で見つめているアネーシャを。
そんなノーティスを見つめたまま、アネーシャは体に一瞬グッと力を込めた。
「ノーティス、お別れよ」
「えっ? な、なんで急にそんな事を」
突然の事に驚き、目を丸くしたノーティス。
瞳の色が一気に悲しみに染まる。
なぜ急に別れを告げられたのか、全く分からない。
また、エレミアは宙に浮きながらそれを哀しく見つめている。
───アネーシャ、お主……
けれど、アネーシャの表情は変わらない。
「貴方は、ここにいちゃいけないの」
「どうしてだよアネーシャ!」
ノーティスが悲壮な顔で見つめる中、アネーシャは無言でスッと背を向けた。
「アネーシャ?」
「着いてきて。全て伝えるから……」
アネーシャはそのまま女神像の前に行くと、女神像を両手でクルッと横に回した。
すると床が、ゴゴゴゴゴッ……という音と共に開き、隠し部屋が現れた。
「これは……!」
目を丸くして立ちすくんでいるノーティスを置いて、アネーシャは何も言わずに部屋に入っていく。
その背を追いかけ、部屋に入るノーティス。
「アネーシャ、ちょっと待てって」
そう零し部屋に入ったノーティスの瞳に映ったのは、石造りの殺風景な部屋の中にある、白く大きなクリスタルだった。
「なっ……!」
身の丈を超える程大きく、滑らかな楕円形のクリスタルが、先端がギザギザのクリスタルに支えられ艶めいている。
「こ、この巨大なクリスタルは一体?!」
「……皮肉な物よね」
「えっ?」
「私達を蹂躙してきた記録が、クリスタルに記録されてるなんて」
「蹂躙?」
ノーティスがそう声を漏らした時、アネーシャはクリスタルに向かいスッと片手を翳し、エレミアに切ない眼差しを向けた。
アネーシャの瞳が、ステンドグラスから差し込む月の光に照らされ揺れる。
「エレミア、お願い」
「アネーシャ、本当に良いのか。こ奴にアレを見せても」
真剣な表情で尋いてきたハルメスに、アネーシャは一瞬間を置き再び決意した。
「かまわないわ」
「……分かった」
エレミアは一瞬瞳を閉じてからそう答えると、アネーシャの周りをクルクルと軽快に飛び回り始めた。
それと共に体からキラキラと零れ落ちる光が、アネーシャを包んでいく。
まるで、星屑に包まれているようだ。
「綺麗だな……」
ノーティスがそう零す中、アネーシャは、その光を手の平からクリスタルに放っていく。
「女神レティシアよ。世界の記録を映し給え」
その詠唱と共に、クリスタルがブワン……ブワン……と光を放ち始めた。
「こ、これは……」
「ノーティス、全て見せてあげるわ。真実の歴史を」
アネーシャが静かにそう告げた時、クリスタルからブワッ!! と大きな光が広がる。
「うわっ!」
ノーティスは片腕で顔の上半分を覆ったが、次の瞬間あまりの事に一瞬声を失った。
今まで殺風景な部屋にいたハズなのに、アネーシャやエレミアと共に、穏やかな日差しが照らす緑豊かな場所に立ってるからだ。
「あっ……こ、ここは……」
呆然とした顔を浮かべているノーティスに、アネーシャは静かに告げる。
「記憶の中よ」
「記憶の?」
「そう。女神レティシアの力を通じ、私達の国トゥーラ・レヴォルトが辿ってきた『女神の記憶』の中」
「女神の記憶……」
そう零し周りをキョロキョロ見渡すと、皆幸せそうな笑顔で暮らしてる光景が目に映る。
決して派手とかではいが、皆も満ち足りた顔だ。
そんな彼らに話しかけようとするノーティスに、アネーシャは軽く首を横に振った。
「ここは記憶の中だから、彼らに触れたり話す事は出来ないわ。ただ、見ることが出来るだけ……」
「そうか……でもアネーシャ、この女神の記憶って一体何なんだ?」
ノーティスは、事態がまだよく分からない。
まあ、でも当然だ。
急に別れを告げられたと思ったら、巨大なクリスタルが現れそこから知らない場所への転移。
しかもそこは女神の記憶の中と、目まぐるしいにも程がある。
なのでアネーシャは、ゆっくりと話をしていく。
「ここは、かつて平和だった頃の記憶よ。みんな、神聖樹ユグドラシルから放たれる神聖な魔力によって、幸せに暮らしていたの」
「ユグドラシル? 神聖樹? 一体どこにそんな物が……」
ノーティスが辺りをキョロキョロ見渡すと、アネーシャはクスッと微笑んだ。
「大きすぎて見えないのかしら。ほら、そこにあるじゃない」
「そこ? ん……」
まさかと思って後ろを向いた時、ノーティスはハッと目を丸くして見上げた。
でも、すぐには認識が出来ない。
ゆっくり見ていくと、ようやくそれが何なのかが分かる。
天を覆うような枝葉と、天を超えるような高く太い幹。
それが山より遥かにきくそびえ立つ、超巨大な神聖樹ユグドラシルだと!
「こ、こ、これが……!」
「そうよノーティス。これがユグドラシル。全ての者に力を与え……そして、魔力クリスタルの悲劇に利用された神聖樹よ」
そう告げたアネーシャの瞳が、怒りと哀しさの光に揺らめいた。
ノーティスはスッと立ち上がり見つめた。
自分の事を、哀しさと優しさの交叉した瞳で見つめているアネーシャを。
そんなノーティスを見つめたまま、アネーシャは体に一瞬グッと力を込めた。
「ノーティス、お別れよ」
「えっ? な、なんで急にそんな事を」
突然の事に驚き、目を丸くしたノーティス。
瞳の色が一気に悲しみに染まる。
なぜ急に別れを告げられたのか、全く分からない。
また、エレミアは宙に浮きながらそれを哀しく見つめている。
───アネーシャ、お主……
けれど、アネーシャの表情は変わらない。
「貴方は、ここにいちゃいけないの」
「どうしてだよアネーシャ!」
ノーティスが悲壮な顔で見つめる中、アネーシャは無言でスッと背を向けた。
「アネーシャ?」
「着いてきて。全て伝えるから……」
アネーシャはそのまま女神像の前に行くと、女神像を両手でクルッと横に回した。
すると床が、ゴゴゴゴゴッ……という音と共に開き、隠し部屋が現れた。
「これは……!」
目を丸くして立ちすくんでいるノーティスを置いて、アネーシャは何も言わずに部屋に入っていく。
その背を追いかけ、部屋に入るノーティス。
「アネーシャ、ちょっと待てって」
そう零し部屋に入ったノーティスの瞳に映ったのは、石造りの殺風景な部屋の中にある、白く大きなクリスタルだった。
「なっ……!」
身の丈を超える程大きく、滑らかな楕円形のクリスタルが、先端がギザギザのクリスタルに支えられ艶めいている。
「こ、この巨大なクリスタルは一体?!」
「……皮肉な物よね」
「えっ?」
「私達を蹂躙してきた記録が、クリスタルに記録されてるなんて」
「蹂躙?」
ノーティスがそう声を漏らした時、アネーシャはクリスタルに向かいスッと片手を翳し、エレミアに切ない眼差しを向けた。
アネーシャの瞳が、ステンドグラスから差し込む月の光に照らされ揺れる。
「エレミア、お願い」
「アネーシャ、本当に良いのか。こ奴にアレを見せても」
真剣な表情で尋いてきたハルメスに、アネーシャは一瞬間を置き再び決意した。
「かまわないわ」
「……分かった」
エレミアは一瞬瞳を閉じてからそう答えると、アネーシャの周りをクルクルと軽快に飛び回り始めた。
それと共に体からキラキラと零れ落ちる光が、アネーシャを包んでいく。
まるで、星屑に包まれているようだ。
「綺麗だな……」
ノーティスがそう零す中、アネーシャは、その光を手の平からクリスタルに放っていく。
「女神レティシアよ。世界の記録を映し給え」
その詠唱と共に、クリスタルがブワン……ブワン……と光を放ち始めた。
「こ、これは……」
「ノーティス、全て見せてあげるわ。真実の歴史を」
アネーシャが静かにそう告げた時、クリスタルからブワッ!! と大きな光が広がる。
「うわっ!」
ノーティスは片腕で顔の上半分を覆ったが、次の瞬間あまりの事に一瞬声を失った。
今まで殺風景な部屋にいたハズなのに、アネーシャやエレミアと共に、穏やかな日差しが照らす緑豊かな場所に立ってるからだ。
「あっ……こ、ここは……」
呆然とした顔を浮かべているノーティスに、アネーシャは静かに告げる。
「記憶の中よ」
「記憶の?」
「そう。女神レティシアの力を通じ、私達の国トゥーラ・レヴォルトが辿ってきた『女神の記憶』の中」
「女神の記憶……」
そう零し周りをキョロキョロ見渡すと、皆幸せそうな笑顔で暮らしてる光景が目に映る。
決して派手とかではいが、皆も満ち足りた顔だ。
そんな彼らに話しかけようとするノーティスに、アネーシャは軽く首を横に振った。
「ここは記憶の中だから、彼らに触れたり話す事は出来ないわ。ただ、見ることが出来るだけ……」
「そうか……でもアネーシャ、この女神の記憶って一体何なんだ?」
ノーティスは、事態がまだよく分からない。
まあ、でも当然だ。
急に別れを告げられたと思ったら、巨大なクリスタルが現れそこから知らない場所への転移。
しかもそこは女神の記憶の中と、目まぐるしいにも程がある。
なのでアネーシャは、ゆっくりと話をしていく。
「ここは、かつて平和だった頃の記憶よ。みんな、神聖樹ユグドラシルから放たれる神聖な魔力によって、幸せに暮らしていたの」
「ユグドラシル? 神聖樹? 一体どこにそんな物が……」
ノーティスが辺りをキョロキョロ見渡すと、アネーシャはクスッと微笑んだ。
「大きすぎて見えないのかしら。ほら、そこにあるじゃない」
「そこ? ん……」
まさかと思って後ろを向いた時、ノーティスはハッと目を丸くして見上げた。
でも、すぐには認識が出来ない。
ゆっくり見ていくと、ようやくそれが何なのかが分かる。
天を覆うような枝葉と、天を超えるような高く太い幹。
それが山より遥かにきくそびえ立つ、超巨大な神聖樹ユグドラシルだと!
「こ、こ、これが……!」
「そうよノーティス。これがユグドラシル。全ての者に力を与え……そして、魔力クリスタルの悲劇に利用された神聖樹よ」
そう告げたアネーシャの瞳が、怒りと哀しさの光に揺らめいた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
366
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる