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そんなフィーが満足するまで楽しくじゃれ合ったあと、リューイは一息ついて今日はなにをしようかと考える。

「んー……そうだ! 森の奥で美味しそうなパリムの実を見つけたから取ってくるよ!」

パリムの実は子供のこぶしくらいの大きさで、甘酸っぱくて瑞々しい、ツヤのある赤い果実だ。
きっとディーオもフィーも気に入るだろうと考えたリューイは機嫌よさそうに笑って、気合を入れる。

「よ~し、楽しみにしててね?」
「あぁ」
「ふぃー」
「じゃあ、いってきまーす♪」

そう言いながらふたりに手を振って、リューイは鼻歌を歌いながら元気よく森の方へと走っていった。

****

リューイは道にはみ出る草木をかき分けながら、狭い道をどんどん進んでいく。
ひときわ大きな枝をかがんで越えればもうすぐだ。

「おい、しょっと……やっと着いたぁ~!──って、あれ? 先客?」

やっと着いたという喜びもつかの間、目についた人影にリューイはおどろいたように目を瞬かせた。
まさかこんな山奥に、自分以外の人間がいるとは思わなかったのだ。

そんなリューイの声が聞こえたのか、こちらに背を向けていた人物が振り返る。
その人物はスラリとした細身の青年で、軽く波うつ銀色の長髪と金色のタレ目がちな切れ長の瞳が恐ろしいほど美しく、妖しい雰囲気を醸し出していた。

「おや、こんにちは」
「あ…こんにちは」

そんな男に声をかけられ、リューイは少し気圧されながらも挨拶を返した。
男はリューイのその反応を気にしたふうもなくまた話しかける。

「この、パリムの実を採りに来たのかい?」
「う、うん」
「美味しいよなぁ、この実……赤いし、さ」
「そう、だね。甘酸っぱくて美味しいよね」

最初はどもっていたけれど少し会話を続けて慣れてきたのか、リューイは笑顔を浮かべて話しはじめる。
そのことに気づいたのか青年も微笑みかえして話を続けるけれど、次の言葉でリューイの笑顔は固まった。

「でも残念」
「え?」
「ここの実はまだ早いみたいだ」
「そんな……」

せっかくふたりの喜ぶ顔が見たくて取りに来たのに、とリューイの表情が曇る。
そんなリューイを青年は慰めるように軽く頭を撫でたあと、優しく笑って木々のさらに奥を指さす。
それになんだと目を向ければ、青年は大丈夫ともう片方の手をリューイの背中に添えた。

「あちらの奥に、熟したものがあるから行くといい」
「えっ、本当!?」

リューイは青年にうながされるようにポンと背中を押され、行ってくる!と元気よく走り出した。
けれどお礼を言うのを忘れていたと気づいて慌てて青年のほうをふりかえる。

「っと、忘れてた。おしえてくれてありがとう、お兄さ、ん? あれ? いない……」

しかしそこに青年の姿はすでになく、リューイは首を傾げた。
お礼を言えなかったことがリューイの気持ちをモヤっとさせるが、次に会ったときには必ず伝えようと気を取り直す。

「不思議な人だったなぁ~」

リューイは早く会えるといいな、と願いながらパリムの実を取るために青年におしえられた方へ走っていった。

****

リューイがパリムの実を取りに出かけてから数時間後。
実を取りに行っただけにしてはなかなか帰ってこないリューイになぜか不快な気持ちを感じていたディーオは、ゆっくりと近づいてくる覚えのある気配に眉間のシワを薄くした。

しかし、その眉間のシワはすぐにふたたび深くなる。 
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