忌み子王子とワガママ姫

ワガママ姫の困惑

   一体、どうなっているの·····？

   今、私の目の前にいるのは私が姿絵で見た黒髪黒目の国宝級のイケメンではなく、奇妙な仮面を被った白髪の青年だった。

   私はその事に思わず眉を寄せてしまう。するとそれをどうとったのか、今の今まで固まっていた目の前の青年は慌てたように挨拶をした。


「っ、！  ·····我が国へようこそ、アナベル姫。  私は、君の婚約者になるシリウス・ロウ・アスランだ。こちらこそ、これからよろしく頼む」

「！」

   えっ·····、この方が、シリウス様なの！ ？
   確かに声は凄くカッコイイけど·····
   黒髪黒目の国宝級のイケメンはどこに·····！
   私は思わず、素で驚いてしまった。

   えーと、私、もしかして早まったのかしら·····？

   嫌な冷や汗がスーッと落ちる。

   た、確かに、実際にあったことなんてないのに、姿絵だけで容姿を決めつけるのは良くなかったわ。うん。··········。

   チラリとシリウス様の事を上から下まで見下ろす。

   洋服はダボダボだし、センスも悪い。いや、この世界では良いのか·····。それにしても、黒髪黒目というのは嘘だったのね·····。

   前世での国宝級の美貌に釣られて婚約した。それが、蓋を開けたらまさかの、勘違いだったパターン？

   い、いやいやいや、一旦、落ち着きましょう！

   黒髪黒目出ないのは残念だけれど、仮面の下はそれなりな整っているのかも知れないわ·····。


「あの、シリウス様·····？」

「はい、なんでしょう」

「どうして、仮面をつけているのですか·····？」

   今、私の顔は引きつっているだろう。
   でもそれは、シリウス様のつけている仮面が悪い。どう見ても笑わせに来ているし、趣味が悪い。

「··········似合っていませんか？」

   しばしの沈黙の後、シリウス様がポツリそう呟いた。その声があまりに弱々しかったので、私は慌てて弁解する。

「い、いえ！  そんな事は·····。ただ、これから婚約者になるんですから、·····婚約者の顔も知らないようでは、これから、上手くやって行けるか不安なのです」

   （だから、仮面の下を見せて下さい！）

   私はニコリと笑みを貼り付けて、シリウス様を見た。

「うっ·····」

   シリウス様は一瞬口ごもると、ボソボソと喋りだした。

「不安にさせてしまい、す、すみません·····。でも、今は無理です。  ·····少しだけ、あ、あまり長くは待たせないようにしますので、その·····、待っていてくれませんか·····？」

「···············分かりました」

「！  ありがとうございます、アナベル姫」


   正直、どうして見せてくれないのかは分からない。でも、もしかしたらやっぱり、仮面の下は前世で言うイケメンで、この世界ではブサイクだから隠したがっているのかもしれない·····。


   と、それにしても·····。


   ···············。
   一瞬だった。
   それは、ほんの一瞬。
    でも、確かに見えた気がした。

   この、目の前の王子様の頭に、大きな犬の耳が！

   その事に思わず固まってしまった私。もう一度見えないかとじーっと見つめるも、その後は何も見えなかった。