自分の顔が嫌いなので、頭をレンジにしてもらった。

鳴猫ツミキ

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―― 本編 ――

【三】初の実戦と卵子提供

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 このバトルスーツの靴には、別にロケットみたいなものは付属していないのだが、AM5:00――私を送り出す場に立った高崎博士が、拳を握って力説した。

「飛べるから、大丈夫。想像力で飛べるし、静止もできる。酸素ボンベも不要だよ」

 シナゴの出現した位置を教わりながら、私は頷いた。
 日本海上空に落下している最中のシナゴを、私は今から討伐することになる。

 なんでも目視しなければ、バトルスーツで倍増された想像力とやらは、発動しないのだという。現在私の頭部はレンジであり、本物の頭の方は、傍目からすると胸部のあたりにすっぽりと入り込んでいる状態だ。鏡で確認した限り、非常に体格のいい男性のマネキンが、黒いスーツとコートを羽織っているような胴体となっていた。

「君に世界の命運がかかっているんだ。頑張って」

 その後真面目な顔をした高崎博士に言われ、私は頷いた。頷く動作をすると、レンジの頭の方が揺れた。これも想像力で制御している結果のようだ。

 と――そんなやりとりを経て、私は東京湾上空を目指すことになった。
 どうやって移動したかと言えば、飛行したわけではない。
 空は目視可能なので、まずそこまで瞬間移動し、遠目に見える東京湾の上空へ続いて転移し、と、出現を繰り返した。結果、真正面に本物のシナゴが見えた。2tトラックくらいのサイズだ。

「……」

 私はゆっくりと本物の瞼を閉じた。レンジ頭の方には瞼はない。
 そして瞼の裏側に、昨日散々練習した、シナゴが破裂するイメージを構築し、それが実際に起こったと確信したとき、目を開けた。

 ――バン。

 そんな破裂音がし、黒いドロドロが飛び散った。東京湾へと黒いドロドロが落下していく。俯いてそれを眺めていると、バトルスーツに内蔵されている通信機から『成功です、帰還して下さい』という声が響いてきた。

 疲労感はないが、緊張感が凄くて、白い手袋の下で私は思いっきり手汗をかいていた。
 一息つきながら、基地へと戻る。

「さすがでした、梨野さん」

 職員さんに声をかけられた。あとは休んでいいと言うことになったので、私は部屋へと戻ることとなった。そしてベッドに寝転びながらテレビをつければ、私が行った破壊の映像が、速報として繰り返し流れていた。本当、頭がレンジで良かった。あそこに自分が映っていたらと思うと、焦る。

 この日を境に、私はシナゴ討伐者となったのである。

 シナゴ退治は、慣れてくると楽な仕事――と、思いきや、激しさを増していった。
 理由は一つで、宇宙から落下してくる量がどんどん増えていったからである。
 なのにバトルスーツの適合者は、全然現れない。他国は知らないが、国内にはまだ私だけである。落ちてくるのもほぼほぼ日本になので、私の仕事は多忙を極めた。

 久しぶりに高崎博士と顔を合わせたのは、そんなある日だった。

「あのさ、梨野さん。単刀直入にいうけど、卵子提供をしてもらえないかな」
「はぁ?」
「シナゴとの戦いは今後も続くと予測されるから、遺伝子の解析などをよりじっくりと行おうという計画と共に――……いいにくいけど、君の遺伝子を受け継ぐ子供ならば、才能があるかもしれないという可能性を論ずる人間が多いんだよね」

 無表情で、淡々と高崎博士が言う。
 はっきりいって、私は自分が産む想定はせずに生きてきた。独身のモテない私の遺伝子を後世に残すという概念も、まず子育てをするという能力も、全部欠落状態でこれまで生きてきたので、焦る。焦ったし、仮に子供が生まれたとして、大変な目に遭わせたいとも思わないから、沈黙しない方が無理だった。

「わ、私は育てられませんし……」
「大丈夫。代理母と精子提供者のあてはばっちりあるから、産む必要はおろか、SEXする必要も無い。子供のことは適切に育てるけど、君の希望が無ければ母親だと伝える事もしない」
「……」
「地球の命運がかかっているんだよ」

 私はその言葉に悩んだが……押し切られた。地球の命運と聞いてしまうと、日夜一人で戦っている私としては、つい承諾する以外の選択肢がないような気分になってしまったのである。

 本来の卵子提供には様々な準備がいるそうだったが、特にそれらも気にしないからと頼み込まれ、即日で私は卵子を採取されるに至った。なんだかなぁと思いながら、本当にコレで世界は救われるのだろうかと密やかに悩んだ。

 しかしシナゴは待ってはくれない。
 あくまで多忙な日々の中に、そんな一日もあったな、程度に記憶がすぐに風化していった。私はバトルスーツの扱い方を少しずつ習得していき、今では武器もある程度扱えるまでに成長した。四十代でも成長するのだなと、誕生日を間近に控えた季節には考えた。

 その内に、バトルスーツへの適合者は全然現れなかったが、逆に多くの人間が使用可能な簡易型汎用バトルスーツの開発や、対シナゴ用汎用武器が現れた。米国宇宙防衛隊が主導したと聞いた。私も何度かテストに付き合った。

 またシナゴも、当初のように巨大なものは飛来する頻度が減少し、小型のものが増えてきた。結果として、私で無くともシナゴを討伐可能な世界が来訪した。

「これからは、いざという時はかわらず君にお願いするしか無いけど、いざという時以外は、待機してもらっていいよ。ただ、この基地からは帰すわけにはいかないけど」

 ある日高崎博士に宣言された。隣には久しぶりに見る遠藤さんもいた。

「連絡を取れる状態にしてもらっていたら、出歩いてもらっても構いません」

 遠藤さんの声に、私は頷いた。
 この頃には、眉毛程度は整えていたため、それもありだなと私は思った。
 そんなこんなで私はある意味、お役御免となり――ひきこもり生活の場が自室から基地の一室に変化した以外は、元の通りの平穏な日常が戻ってきたと言える。

 結局食べられなかったズワイガニがどうなったのかは分からないが、これからは何をして過ごそうか。四十一歳の誕生日を迎えた私は、人生も後半分くらいは残っているように思い直し、これからはもう少しアクティブに生きてみようかと考えた。



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