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―― 本編 ――
【四】過去から現在まで(SIDE:景)
しおりを挟む――さて、ことは西暦20XX-約20年前に遡る。
世界規模でシナゴが発見される実に二十三年前、実は密やかにシナゴを発見した国があった。それは、中国である。まだ世界に『肛門型慢性風邪』が出現する遙か昔、宇宙開発を計画していたとある中国の企業・九龍の観測部署は、その日木星の衛星に飛ばしていた民間探査機の映像を見て、呆気にとられていた。
「これは……地球外生命体か?」
「地球に近づいてきているな……」
「細胞を採取してみるか……」
シナゴは、探査機に危害を加える事は無かった。この当時より九龍は独自技術を持っていたので瞬間星間航行を実現し、すぐに採取された物質は、研究室へと運ばれた。
「やはり、生き物のようだな……」
「敵だったらどうする?」
「……倒すしかないだろう」
「どうやって?」
そんな問答の結果、九龍では、対・地球外生命体に特化した人間を生み出す事を内々に決めた。しかしながら、倫理の波が押し寄せているので、公的には遺伝子操作などできない。事情を聞いて迷った九龍の会長は、孫夫婦を見た。結婚したばかりの夫婦が、曾孫を連れてくる日を心待ちにしていた会長は……まだ世界に生を受けていない曾孫が成人した頃、まさに計算上において、地球外生命体が飛来するという知らせを聞き、決断した。
「我が曾孫の遺伝子に、対抗できる力を組み込むこととする!」
こうしてその翌年、九龍の会長の孫夫妻に生まれた曾孫は、男子であった。
孫は中国人、妻は米中ハーフの米国人、生まれた子供は、名前を景と名付けられた。
ダークブロンドの髪で濃い青の瞳をしている景は、すくすくと育った。
この少年……英才教育を施されることになったが、それを超えて高IQを持つ天才児で身体能力もずば抜けていた。見目も麗しく、まるで作り物のようである。結果として彼は――ナルシストに育った。
「世界で一番麗しいのは、私ですね」
笑顔で断言する。
白雪姫の継母よりも清々しい自信家であり、鏡が喋らなくても確信していた。
そんな彼からすると、世界中の老若男女の顔というのは、皆カボチャのようなものであった。シンデレラの乗った馬車以下の価値しかない。景は自分の顔が好きであった。二次成長を迎え、身長は187cmとなり、やはりボディは鍛えなければと言うことで、均整のとれた体つきになる程度に腹筋を割った。色白で腰回りは若干細い。すらりとした体躯で手足が長く、顔は小さい。
さて――シナゴが世に出現し、曾祖父から事情を聞かされた時、景は十九歳であった。
「そうですか」
既に大財閥になっていた九龍の次期後継者としても名高い景は、飛び級で博士課程までを終え、その時は家にいた。既に名義ではいくつもの会社の代表取締役をしていた。
そして世界規模の一斉テストに臨んだ結果、当然のように景もまた、バトルスーツの適合者となった。米中国籍保持者では初めてである。
「当然ですね。私は戦うために生まれてきたのですから」
にこりと、見る者が見たらドヤ顔で言い放った景は、笑顔であった。
誰もを魅了する美形である。
そこからは実戦訓練を始めた。そんなある日、日本人の適合者が現れたという報道が、世界を震撼させた。この時点で、景は二十歳になっていた。データを取り寄せた景は、想像力レベルの数値が己よりもずば抜けているらしき日本人の存在に、ちょっとだけムッとした。景は、繰り返すがナルシストである。世界で一番は、自分であって欲しい。
「私はもっと研鑽を積まなければなりませんね」
独りごちた彼は、それからも訓練に励んだ。母親から日本語は学んでいたが、ただいつか共闘する日があるかもしれないと考え、ネイティブな日本語の知識も身につけようと、時々パラパラと日本語の語学本を捲るなどしていた。
「景様」
それは、二十一歳のある日のことである。
自室にいた景の元に、執事である汀が訪れた。
「なにか?」
「景様のご子息が誕生しました」
「――今、なんて?」
「ですから、景様のご子息が誕生致しました」
「あの……私はカボチャに欲情する性癖がないもので、恥ずべきでは無いとも思うので率直に申し上げますが、童貞です。どうやったら、そんな私に子供が生まれるというのですか?」
「人工授精です」
「……、……なるほど。確かに提供した事はありますが……ふぅん。お相手の、卵子提供者は?」
無表情になった景の問いかけに、汀がこちらもいつもと変わらない無表情で答える。
「日本人女性です。地球防衛隊コードNo.0000001。通称・レンジ頭様です」
「っぶは」
景は咽せた。人前で吹き出すなど、彼にとってはあるまじき事なのだが、二つの衝撃があった。
「待って下さい。レンジ頭の例の人物は、女性だったのですか? 日本人だとしか……」
「そのようです。研究機関が卵子を競りにかけていたので、九龍が全力で競り落としたと聞いております。全ては会長のご意思です」
「曾祖父様の……もう一ついいですか? 彼……ではなくて、ええと、彼女は、その方は、頭部がレンジという奇をてらった風貌でご活躍中なのは存じておりますが、人間の頭部もきちんとお持ちだと言うことでいいのですか?」
「分かりかねます」
汀の声に、押し黙った景は腕を組んだ。
それから目を伏せ、小首を傾げて熟考する。
「……まぁ、レンジである分、カボチャには見えませんし、世界でバトルスーツを着用できた最初の人間と、二人目の私の間の子供であれば、ある程度優秀でしょう。分かりました。親権は誰が?」
「全て九龍で抑えております」
「そうですか。私はそれでは、レンジ頭のNo.1に接触を図ってみます。人工授精とは言え、我々は親となるのですから、いくらでも言いくるめ……その権利が私にはあると言えます」
なお、地球防衛隊というのは、対シナゴのために近年生まれた組織だ。
世界をまたいで組織されている。
このようにして、景は日本へと向かうと決めたのである。
なお、生まれた長男は、茶髪に青い目をしていた。顔立ちは、現在のところ、景に似ているようだと報告があったから、景は見に行った。結果、人生で初めて、自分以外に、カボチャではない人間の顔を認識した気がした。可愛すぎる長男の名前は、遙と名付けた。
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