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12.出発と領都
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ステファノはリアナに話を通すのと同時に、数日後にユーラビアに向かうという馴染みの商人にユリアの同行をお願いしてくれた。商人ドアゴは以前ユリアの治癒を受けたことがあったらしく、その依頼を快諾し、旅の途中でけが人や病人が出たときに治癒をしてくれるなら同行費はいらないと言ってくれた。
「思っていたよりも早い旅立ちでしたが、あなたのおかげで治癒所の仕事は随分と楽になりました。いつでも帰ってきていいですからね」
「そうですね。いつでも私たちは歓迎しますよ」
旅立ちの日。リアナとステファノはそう言って別れを惜しんでくれた。ユリアも2人に涙ぐんだ目でお礼を伝える。ユリアにとっては久しぶりに心落ち着く日々だった。それを与えてくれたのは間違いなくこの2人だ。
「ありがとうございました。必ず、また皆様に会いに来ます」
ケッカ国がユリアを探していないという確証を掴んで状況が落ち着くまでは無理だが、必ずここに帰ってきたいと思った。
ステファノが笑みを浮かべてユリアに封書を手渡してくる。
「これはラビアの神殿長宛のものです。あなたの紹介状でもありますから、ステファノからだと渡してください。ドアゴは必ず真っ先に神殿長の元に挨拶に行くそうですから、それについて行けばいいですよ」
「分かりました。ありがとうございます」
受け取った封書を大事に鞄にしまう。今一度2人の顔を見て別れを告げた。
「では、行ってまいります」
「ええ、気を付けて」
「くれぐれも無理はしないように」
できる限りの笑みを浮かべて、ドアゴが待たせていてくれた馬車に乗り込む。動き出した馬車の窓から見えなくなるまで2人に手を振った。
商隊とともに長い旅路を進む。ミルカ国はケッカ国と違って町同士を繋ぐ街道も安全じゃない。結界がなく魔物が出没するので、常に冒険者たちが商隊を護衛していた。冒険者たちは実力者だったが、時には怪我人が出ることもありユリアの治癒の力は活躍した。
「いやー、今回の旅はとても安全でしたね。けがをしてもすぐ治癒をしてもらえると分かっていたら気持ち的にも余裕が出ていいですよ。ありがとうございました、ユリア様」
「いえ、そんな……。私が旅できるのも皆様が私を守ってくださるからですから」
ユーラビア領の領都ラビアに着いたところで、ユリアはドアゴに感謝された。でも、ユリアを安全に快適にここまで連れてきてくれたのはドアゴだ。旅の間中守ってくれていた冒険者の方々にも感謝しかない。
ユリアはこの旅で初めて本当の魔物というものを見て、その恐ろしさを知った。それとずっと対峙している冒険者には尊敬の念を抱く。ケッカ国のように結界で守られていないところでは、彼らのような冒険者が町や村、そこに住む人々を守っているのだ。
ケッカ国にはほとんど冒険者はいない。結界のおかげで街道に魔物が出ることはなく、旅の安全を守る護衛職は基本的に人間相手の戦いしか想定していない。結界の効果が薄れてきているのなら、そこで暮らす人々の不安は如何ばかりかと思いを馳せてしまった。
だが、もうユリアはケッカ国とは関わりのない人間である。きっと新たな聖女や神官たち、王たちが何とかしているだろうと思って、意識的にその問題から目を逸らした。たとえ彼らがどれほど困り悲しんでいようと、もうユリアには彼らに手を伸ばすつもりはないのだから。
「ここがラビアの神殿ですよ。……治癒所はいつも盛況ですねぇ。ここは辺境の森に近いですから、魔物もよく出没します。領都は防壁で囲まれていますから、中にいる分には安全なんですが、冒険者や外で仕事をする者はどうしてもね……。きっとあなたは大歓迎されますよ」
「そうだといいのですが……」
ドアゴとともにやってきた神殿そばには長蛇の列があった。ベンチやベッドがたくさん並び、多くの患者が治癒の順番を待っているのを見て、ユリアの顔が思わずひきつる。幸いそれほど酷い状態の者はいないが、ここではこんなに患者がいるのが普通なのだろうか。訪れる者を見て一瞬でその重症度を判断し、患者の優先順位を決めて列を整えている治癒所の職員らしき人間も疲れた表情をしている。
少しだけ、ここでちゃんとやっていけるか不安に思った。
「思っていたよりも早い旅立ちでしたが、あなたのおかげで治癒所の仕事は随分と楽になりました。いつでも帰ってきていいですからね」
「そうですね。いつでも私たちは歓迎しますよ」
旅立ちの日。リアナとステファノはそう言って別れを惜しんでくれた。ユリアも2人に涙ぐんだ目でお礼を伝える。ユリアにとっては久しぶりに心落ち着く日々だった。それを与えてくれたのは間違いなくこの2人だ。
「ありがとうございました。必ず、また皆様に会いに来ます」
ケッカ国がユリアを探していないという確証を掴んで状況が落ち着くまでは無理だが、必ずここに帰ってきたいと思った。
ステファノが笑みを浮かべてユリアに封書を手渡してくる。
「これはラビアの神殿長宛のものです。あなたの紹介状でもありますから、ステファノからだと渡してください。ドアゴは必ず真っ先に神殿長の元に挨拶に行くそうですから、それについて行けばいいですよ」
「分かりました。ありがとうございます」
受け取った封書を大事に鞄にしまう。今一度2人の顔を見て別れを告げた。
「では、行ってまいります」
「ええ、気を付けて」
「くれぐれも無理はしないように」
できる限りの笑みを浮かべて、ドアゴが待たせていてくれた馬車に乗り込む。動き出した馬車の窓から見えなくなるまで2人に手を振った。
商隊とともに長い旅路を進む。ミルカ国はケッカ国と違って町同士を繋ぐ街道も安全じゃない。結界がなく魔物が出没するので、常に冒険者たちが商隊を護衛していた。冒険者たちは実力者だったが、時には怪我人が出ることもありユリアの治癒の力は活躍した。
「いやー、今回の旅はとても安全でしたね。けがをしてもすぐ治癒をしてもらえると分かっていたら気持ち的にも余裕が出ていいですよ。ありがとうございました、ユリア様」
「いえ、そんな……。私が旅できるのも皆様が私を守ってくださるからですから」
ユーラビア領の領都ラビアに着いたところで、ユリアはドアゴに感謝された。でも、ユリアを安全に快適にここまで連れてきてくれたのはドアゴだ。旅の間中守ってくれていた冒険者の方々にも感謝しかない。
ユリアはこの旅で初めて本当の魔物というものを見て、その恐ろしさを知った。それとずっと対峙している冒険者には尊敬の念を抱く。ケッカ国のように結界で守られていないところでは、彼らのような冒険者が町や村、そこに住む人々を守っているのだ。
ケッカ国にはほとんど冒険者はいない。結界のおかげで街道に魔物が出ることはなく、旅の安全を守る護衛職は基本的に人間相手の戦いしか想定していない。結界の効果が薄れてきているのなら、そこで暮らす人々の不安は如何ばかりかと思いを馳せてしまった。
だが、もうユリアはケッカ国とは関わりのない人間である。きっと新たな聖女や神官たち、王たちが何とかしているだろうと思って、意識的にその問題から目を逸らした。たとえ彼らがどれほど困り悲しんでいようと、もうユリアには彼らに手を伸ばすつもりはないのだから。
「ここがラビアの神殿ですよ。……治癒所はいつも盛況ですねぇ。ここは辺境の森に近いですから、魔物もよく出没します。領都は防壁で囲まれていますから、中にいる分には安全なんですが、冒険者や外で仕事をする者はどうしてもね……。きっとあなたは大歓迎されますよ」
「そうだといいのですが……」
ドアゴとともにやってきた神殿そばには長蛇の列があった。ベンチやベッドがたくさん並び、多くの患者が治癒の順番を待っているのを見て、ユリアの顔が思わずひきつる。幸いそれほど酷い状態の者はいないが、ここではこんなに患者がいるのが普通なのだろうか。訪れる者を見て一瞬でその重症度を判断し、患者の優先順位を決めて列を整えている治癒所の職員らしき人間も疲れた表情をしている。
少しだけ、ここでちゃんとやっていけるか不安に思った。
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