バージンのままで

秋元智也

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第二十九話

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ー日曜の朝ー

目を覚ますと、着替えと達也の荷物が置かれていて高橋の姿は
なかった。

 達也 「生きてる…はぁ~驚かせやがって…」

拘束具も外されており、自由になっていた。
制服と一緒に置かれていた着替えは高橋の用意したものだった。
夏なのにハイネックの服が置かれ、合わないだろ?と考えたが、
鏡を見て絶句した。
首筋につけられた鬱血を隠す為に用意されたようだった。
薄くはなっているが白い肌には目立ってしまう。
着替えるとそのまま家に帰った。心配されていると思いきや何
事もなく迎えられてしまった。

 達也 「ただいま~あのさ…えっと」
 母親 「あら?早かったわね。高橋くんの家にいたんだって?
     迷惑かけてない?」
 達也 「あ…あぁ、うん」
 母親 「日曜の夕方には帰るって聞いてたから、あんた達仲良
     いのね。今度また連れて来なさい。」
 達也 「あ…うん。」

話はしてあったらしく、小言を言われると事なく自室に戻った。
全身が痛くて服が擦れるだけで痛みが走るくらいだった。
服と一緒に塗り薬と、痛み止めが入っていて、それは貰ってお
いた。
 月曜日は祭日で学校が休みなので家で籠もっていた。
正確には出かけるだけの体力がなかったのだった。
高橋のせいもあり、腰の痛みも尋常じゃないくらい痛いし、そ
れに加えて、傷がいたんでずっと横になっていた。

 達也 「何であんな事言ったんだろ?あーっくそ。」

下から母親の声がして、起き上がった。

 母親 「達也ー。お客さんよー。」

降りて行くと母親と久しげに話しているのは由美子さんだった。

 達也 「あれ?なんで俺の家に?言ったっけ?」
 由美子「えぇ、ちょっと渡すものがあって。部屋に上がって
     もいい?」
 達也 「え…えーっと、うん。」

部屋に二人っきりだと、少し気まずかった。

 達也 「お茶入れてこようか?」
 由美子「大丈夫よ。それよりこれ。」

傷薬の追加だった。

 由美子「塗るの手伝おうか?背中は塗れないでしょ?」
 達也 「あぁ…高橋から聞いたの?」
 由美子「塗って来てくれって。ほらっ…」

上半身を脱ぐと、痛々しい程の痕が残っていた。

 由美子「痛そう…大丈夫なの?」
 達也 「痛いよ。だから寝てたんだけどね…」

苦笑いを浮かべると背中を彼女に向けた。

 由美子「これって潤がやったの?あなたにこんな事…」
 達也 「違う!あいつならこんな事しねーよ。あいつは
     俺が痛がっても嫌がらせっぽい事はするけど、
     絶対に傷を付ける事はしなかった。」
 由美子「そうよね…ねー。私を抱いてみない?私とこれ
     から付き合わない?」

背中に薬を塗り終わると、達也に渡した。
上着が落ちる音がして振り向くとワンピースがするりと床に
落ちた。下着姿の彼女が正面に立つと達也を見上げていた。
一瞬目が眩んで腕を伸ばしかけたが、大きく息を吸うと、
床に落ちたワンピースを彼女に着せると、上着をかけた。

 達也 「もっと、自分を大事にした方がいいよ。本当に
     好きな人ができた時に後悔するよ。」
 由美子「意気地無しなのね。」
 達也 「そうだな…言いたい事は何も言えないからな…」
 由美子「それは潤に対して?」
 達也 「…」

何も言わず、にっこりと微笑んだ。

 由美子「賭けは私の勝ちだと思ったんだけどな~。」
 達也 「賭け…?」
 由美子「そう、潤との賭け。あなたが潤を受け入れるか、
     それとも拒絶して死を選ぶかってやつ。言われ
     たでしょ?潤を殺すか、自分の死か、それとも
     ずっとこのまま囲われる生活を選ぶか…と」
 達也 「…あ!」
 由美子「即決で自分の死を選んだって聞いたわ。実際は
     ただの即効性の睡眠薬なんだけどね。そっちを
     選んだら二度と会わないって賭けよ。ちなみに
     私も本気で誘ったんだけどなぁ~。」
 達也 「えっ!?ご、ごめん。」
 由美子「いいわ。本当にあなたって優しいのね。なんか
     悔しいわ。潤の事好きなんじゃないの?」
 達也 「まさか…冗談だろ?あいつはただの遊び相手が
     欲しかっただけだろ?俺がちょうど目に入った
     から、利用しただけの事で…誰でも…よかった
     んだよな…誰でも…あれ?なんで?」

自分で言ってて涙が出てきた。なぜか?なんて分からなか
ったがただただ、悲しかった。

 由美子「本当に鈍いのね。三浦くん、あなたは潤の事、
     とっくに好きになってたんじゃないの?体の
     関係は二の次でもう、心は…」
 達也 「ちがっ…違う。そんな事ない。あいつはいつも
     弄んでいるだけで…俺の事なんて…言葉なんて
     あてにならない…そんな事ない」
 由美子「私を抱いた時の潤っていつも他所を見ながら抱
     くのよ。失礼しちゃうでしょ?セックスしてる
     相手を見ようともしないの。まるで別人の事を
     思い浮かべてるようにね…あなたはどうだった
     の?」
 達也 「俺は…おれは…あいつと目が合った時は…」

そう、真っ直ぐに達也を見ていた。まるで獰猛な獣のよう
に、食い入る様に見られていた。
触れられたところが熱くて、言葉は雑でぶっきらぼうなの
にすごく優しく触れて来て、いつも撮影とかこつけて高橋
にイかされるのが楽しみで…。

 達也 「そんな…まさか…ありえないだろ?」
 由美子「真っ直ぐ見つめてたんじゃない?あなたを見て
     いる時の潤はどこか違っていたもの。すっごく
     熱い視線を向けてたのよ。こっちが妬けちゃう
     くらいにね。男だからとか思ってる?」
 達也 「…」
 由美子「男だっていいじゃない?最初に屋上であなた達
     を見た時は嫉妬したけど、よく考えてみたら、
     あなた、潤に抱かれてる時すっごく気持ち良さ
     そうにしてた。嫉妬するほどに…」
 達也 「俺が…?でも…」
 由美子「自分の気持ちに素直になるのもいいんじゃない?」
 達也 「俺は…どうしたいんだろう?」
 由美子「自分の気持ちに素直になって。私からはそこまでよ。」

そのまま、帰っていった。

 達也 「自分の気持ちに…か…」
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