異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第三章

25話 思わぬ結末

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静かな夜に足音もなく窓が開いた。

「誰だ!」
「怪しいものではないです!って言ってもこんな時間じゃ怪しまれ
 るかな?」
「そうでしょうね?だって窓から来てるんだし~」
「そうだね。少し話があって来たんです。決して危害を加えるつもり
 はないんです」

言い訳でも言うように話す男女二人の声がする。

「いい、構わん。イジー皇子の件だな?」
「はい。暗殺依頼が出されたままなので、それをなんとかして欲しい
 のです」
「なぜ、そんなに気にするんだ?君には関係のない事だろう?」
「…」

王様の声は懐かしくて、たった数回しか聴いた事などないはずなのに、
耳に残っていた。

月明かりに見える侵入者に王の目が首付けになった。
珍しい銀糸の髪、そして赤い瞳。
まるで亡くなったはずの息子を見ているようだった。

リーさんから何度も聞かされた賢い末の息子。
会いにいく事もできず、7歳で亡くなったとばかり思っていた。

「ケイル…なのか?」
「…!?」

突然名前を呼ばれて戸惑った。
まさか、そんなはずは…ないと。

「あのっ…」
「ケイルなのだろう?生きていたのか…?」
「ち、違います!俺は…」
「よく顔を見せてくれ…うん、確かにケイルだ。生きていたのだな」

すぐに窓際まで来るとケイルの顔を見たくて触れてくる。
こんな反応されるとは思ってもいなかったので、戸惑ってしまう。
もう、亡くなってから年数も経っている。
てっきり忘れているものと思っていた。

「間違いない。生きていて嬉しいぞ。」
「それは…」
「だが、どうしてだ?今までどこにいたんだ?」
「私が偽装して連れて行ったのよ?暗殺しようとした相手の側には置
 いておけないでしょ?」

横にいた女性が言うと、まだ若そうに見える。

「なら、もうここに戻るか?」
「いえ…俺はもう死んだ人間だから。冒険者として生きていきます。だ
 からせめて…イジーだけでも護ってやってほしい」

自分を大事に思うなら、代わりに大事にしてやってほしいと。

裏ギルドから飛び立った鳩を捕まえ、依頼内容と、依頼者の書かれた紙
を差し出した。

そこに書かれていた内容と名前を見て、手が震えるのを見た。

「あとは任せていいですよね?…もう、ここには二度と来ない。…だか
 ら、元気で」
「待ってくれ…ケイルっ!」

その場にはもう、誰もいなかった。
窓が開け放たれていて、涼しい風がカーテンを揺らした。


朝早くに城の中は大騒ぎになっていた。
元王妃のイリーナが王によって呼び出されていたからだった。

もちろん、彼女は依頼が失敗した事など知らない。
久々に呼ばれた事に喜びを感じ、ドレスでおめかしして来ていた。

しかし、着くなりすぐに拘束されて引きずられるように家臣の集まる前
に放り出された。

「これは一体どういった事なの!私を誰だと思っているの!」

王の御前であろう事か王の横に立つフィアの姿を見ると顔を真っ赤にし
て怒鳴り散らした。

「この女狐!そこは本来私が立つ場所だと言う事をわきまえなさい。貴
 方はただの第二婦人に過ぎないのよ!身の程を…」
「黙れ!」

一瞬で、その場が鎮まりかえった。

沈黙の後で王が見せた書類を横の官僚が読み上げる。
それは裏ギルドへ依頼した確固たる証拠だった。
そして、依頼されて来た暗殺者は無様にも自分の仕掛けた罠にハマって
動けなくなっていたところを通報で見に来た警備兵に取り押さえられた。

実に間抜けな暗殺者もあったもんだった。

だが、それも男の発言で銀糸の髪の青年が絡んでいると知った時に、王
の頭には一人の人間が思い当たった。

生きていれば、今年で24歳になるだろう。
確実に王位継承権を持っていたはずだった。

しかし、彼はもう戻る気はないといっていた。
実に惜しい人材かもしれない。

「これは…誰かがはめるためにやった事に決まってるわ!ね~私がこん
 な事をするわけないでしょ?実の息子を二人も殺されたのよ?」
「その犯人ならもう分かっている。だから、言わなかったんだ…」

王の断固たる声に王妃は目を見開いた。

そこにはハイドのサインの書かれた依頼書まであったのだった。

「これで分かったか?」
「…で…でも……ハイドは…」
「それも、分かっておる。が、不問にする事にした。」
「ど…どうして…?」
「わからぬか?わからぬのならもういい。この罪人を連れて行け。処罰
 はおって伝える」
「待って、…待って王様!私の事を愛しているなら…こんな些細な事く
 らい…」

言ってからすぐに口をつぐんだ。

冷たい視線が物語っていたからだ。
何も言えなくなると、そのまま連れて行かれた。

皇子の暗殺を企むなど、重罪だった。
普通なら民衆の前で打首となるところを、寛大な処置が取られ王室の一角
で密かに行われた。

元王妃の遺体はすぐに火葬されて何も残さなかった。

王妃の息子である、ロイドと嫁に行ったアンネには何も伝えなかったが、
兵士達の噂から耳にしたロイドは気が狂ったかのように部屋で自害した
のだった。
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