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デス・ゲーム2日目 不思議少女ココア
しおりを挟む二日目の朝。
デス・ゲームの悪夢はやはり続いていた。
「はぁ……」
ぐったりとしながら、優笑は支度をして食堂へ向かう。
昨日寮に戻った時間は18時半だった。
17時間しか寮に滞在できるという事は11時半まで滞在できる。
しかし殆どの生徒が同じ状況であれば11時半前に出るのは鉢合わせる危険性が多くなると絹枝は言った。
なので朝食を食べた後に昼食の弁当を受け取って、すぐにあの小屋で落ち合う約束だ。
制服を着てリュックを背負いテレパシーの合図を受け取り玄関を飛び出す。
恐怖心は相変わらずだ。
怖さでキョロキョロしながら走る。
皆でGPSの場所を確認し、バレないような目印を木に付けながら寮へ戻ってきたが、小屋が見つからなかったらどうしようかとの不安もある。
でも昨日よりはマシだ!
みんながいる……!!
今日の天気は曇り空だ。
林の草が少し濡れているように感じるが、そんな事は構わずに走る。
走っていれば、少なくとも追いかけてまで殺そうと思わないような気がした。
それでも道は悪く全力疾走はできない。
今日も倒木や草が生い茂った道を行く。
恐ろしい。
どこで誰に狙われているかわからない。
そういえばマダニなんかに喰われても大丈夫なんだろうか。
そんな不安に襲われる。
「……私達はもう人間じゃないから……マダニなんか関係ないのかな」
自分で走りながら呟いて悲しくなった。
「あっ!?」
何かに引っかかって転んでしまう。
一瞬で凍る心臓。
これは……トラップ!?
「やぁああっ! 死ね!!」
「ひっ!」
また叫び声と共に殺意が優笑に向けられる!
すんでのところで身体を横に回転させ、かわすことができた。
そのまま必死で起き上がる。
女生徒は知らない顔だ。
手にした長針は優笑が転んだ腐葉土に刺さったようだった。
昨日、スズメが殺した姉の妹ではなかった……でもどちらにしても最悪だ。
「ねぇええ! お願いだから、死んでよぉ!」
「い、イヤよ!」
そんなお願いを誰が聞くものか!
でも女生徒は必死に長針を振り回してくる。
優笑も対抗して『出て、出て……! 出ろ!』と祈るが武器は出て来ない。
ブンブン振り回してくる女生徒を前に、後ろへ下がっていく事しかできない。
「あっ……」
小川が背後に迫ってきた。
どうしよう、小川と言っても助走もなしのジャンプでは渡れそうにない。
落ちればそこを狙って刺され喰われてしまう……!
「あたしだって喰われたくないんだよぉ!」
「わ……私だってそうだよ!」
「助ける気持ちで死んでよぉ!」
「そ、そんなの無理……! やめて!」
後ろを気にしながら、女生徒を見る。
何か武器!!
無い!!
あぁ、せっかく助けてもらったのに……此処で終わりなの!?
優笑は心の中で叫んだ。
「もーう~うるさいのやめてほしいの~。やーめやーめやーめっ」
上から声が聞こえてきたかと思うと、襲ってきた女生徒の手が鞭のような物で叩かれた。
「なに……!?」
「やーめっ! 此処ではやめてぇ~」
木の上から大きな枝にぶら下がって降りてきたのは緑色の髪の少女。
背が小さくて小学生のような雰囲気……。
いや、幼いというよりはやはり不思議な妖精といったところか。
「き、きゃああああっ!」
驚きなのか、二人が仲間だと思ったのか女生徒は転びながら走って逃げていく。
小屋とは違う方向で安堵した。
が、すぐに緑の髪の少女ココアを見る。
「……た、助けてくれてありがとう、ご、ございます」
「助けたわけじゃないよぉ……今、罠を作ってたから……」
「わ、罠……?」
まさか人を狩るための?
そう思ったが、ココアが向かったのは小川。
「魚」
「あ、魚を……」
魚を? 何故? という顔を優笑はしてしまう。
「魚、美味しそうだからピッチピッチ」
気付いたココアがそれに答えた。
「で、でも川魚を生で食べたら危険ですよ。寄生虫が……それに生水だって危ないし……」
「……もう吸血鬼なのに~~?」
ココアは目をパチクリさせて聞いてくる。
「た、確かにそうですね……あの本当に助かりました」
「……助けたわけじゃないって言ったけど……助けたような気もしないでもない……不思議……」
不思議は貴女の方だと優笑は思う。
この子も仲間に……とは思うが、勝手な行動をしてはいけない。
それにあの小屋は五人でもういっぱいだ。
でも……。
「じゃあ、魚捕まえるから……バイバイ」
ココアから別れを告げられてしまうとは思わなかった。
「こ、こんなところで危ない……こ、怖くないの……?」
「うん……ココアはココアだから……すきなことする」
釣りをしようとしているのだろうか。
「今度、御礼を必ず……私は天乃優笑です」
「ユエ……ココアだよ」
「ココアちゃん……御礼をするね」
「じゃあどこかで針金見つけたら、ちょうだい。じゃあね~ララアーリラーラーリラリ~」
ココアはツタの先に何かくくりつけたのか、もう優笑を背中に向けて岩に座り込む。
呆気にとられてしまう優笑。
仙人か何か?
でも、此処にずっといるわけにはいかない。
「本当にありがとうございます。どうか無事で……」
背中に御礼を言って、優笑は走る。
さっきの女生徒が仲間を呼びに行く可能性もある。
あぁ、また殺意を向けられてしまった。
自分は誰にでも殺せると思われるような愚図にきっと見えるのだろう。
思い出すとまた震えてしまう。
必死に優楽や絹枝達、仲間の事を考えて優笑は急いだ。
「優笑ちゃん……! ここだよ!」
静かな声で優楽が小屋から少し顔を出して、手招きしてくれた。
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