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デス・ゲーム4日目 診察と手紙
しおりを挟むデス・ゲームの休日。
それは優笑以外の少女達の精神も蝕む。
娯楽もなにもない。
目の前には優笑が見たように、化粧品だけ。
昼食に現れた少女達は、皆が美しくなっていた。
時間があるので念入りに化粧をしたのだろう。
だが表情は暗く……淡々と麗奈のお祈りを聞いて、文字通り葬式のように静かに昼食は始まる。
優笑は窓から朝食後の搬出と昼食の搬入の様子を観察した。
確かにトラックに運ばれ食堂に通じる調理室の裏口に運ばれているようだった。
あのトラックを奪って研究所に突っ込む? ……そんな無謀なことを考えてしまう。
昼食は、おにぎり弁当。
可愛い旗が虚しい。
何もしていないから特にお腹は空いていなかった。
午後からは自分の力の使い方の研究をしようと、優笑は思う。
【昼食後、このまま採血をします。片付けを終えたら待っていてください】
まるで感情がなくなってしまったようなテレパシー。
力を増幅させて、テレパシー能力を使わされている彼女。
吸血姫になれば、テレパシーが誰にでも送れるようになるのか……
吸血姫ソフィア、彼女の事をもっと知りたい。
「天乃優笑、こちらへ来なさい」
「はい」
初日に来た白衣の女が、もう一人の白衣の女を連れて食堂に来た。
その後ろからはまた銃を持った兵士のような男達が食堂の四隅と入り口に立つ。
一応、医療用のパーテーションがされた事にホッとする。
採血をされ、喉の確認や、心音を聞くなど一般的な診察を受けた。
「問題ありませんね。怪我はしていませんか?」
「していません」
「月経開始予定日が本日ですが、出血はしていますか?」
「! し、していないです」
突然の質問に驚く。
「そうですか。そうでしょうね」
「……え……」
「いいでしょう。部屋に戻るのは全員終わってからにしますから、椅子に座っていてください」
優笑は椅子に座る。
次は優楽だ。
さっきの女が言った言葉……。
そうだ、吸血鬼に生殖機能など必要ないのだ。
子供を胎内で育てて産むことなど、きっとないのだ。
私達はもう、人間ではない。
全てを奪われた怒り。
こんな事をした先に、世界平和があるって……?
優楽も終わって、優笑の横に座る。
何度か繰り返された時。
「お前、怪しい行動はするな!」
助手の女の叫び声と共に、パーテーションが倒され兵士の男達がすぐにその場に銃を向ける。
倒れていたのは真莉愛だ。
「なんっも! してねぇよ!!」
「誤解を招くような行動は慎んでくださいね。吸血鬼の姫はエレガントでなければ……」
真莉愛が女を襲おうとでもしたのだろうか、地味な助手の女が頬を打ったのか真莉愛の口から血が滲んでいる。
皆が狂犬を刺激しないでくれと思う。
「座って待っていなさい。次」
絹枝も現れたのでホッとしたが、ルルはやはりいない。
明日、状況を聞かなければ。
そのまま診察は終わったが、あの兵士たちの俊敏な動き……そして銃。
あれに勝つのは無理だろうか、優笑はため息をつく。
『ゴキゲンヨウ・吸血鬼ノ姫ニナル幼虫達ヨ~』
そして夕飯にワインと中華ディナーが用意された。
長い長い時間は、ただ少女達を憂鬱にする。
夜の22時過ぎだった。
【暴風雨が去ったため、寮での待機を解除します】
寮内での待機時間は制限されているが、別に夜中に出歩くことは禁止されていない。
とは言っても、嵐の後の夜中に出掛けるものなどいないだろう。
昼間の時間には自分の能力らしい盾を出す能力の練習をした。
鍋の蓋を持っているレベルのような便り無さを優笑は感じるが……それでも役に立たなければと思う。
ソフィアの本も読み進めた。
ソフィアは全く欲がなく、長い年月で吸血鬼としての凶暴さも誇りも失っていたと馬鹿にされたように書いている。
ほとんど有益な情報はないようだった。
「……あれ……?」
いつの間にか部屋の玄関ドアの下に紙が……。
「てがみ……?」
言って自分で口を押さえる。
盗聴はしないと言っていたが、そんなことはわからない。
油断させているだけかもしれないのだ。
慌てて紙の元へ行く。
これは、確かに図書館でメモ用に千切った本の切れ端だ……。
鉛筆もアイライナーなども禁止されているが、血文字で書いてある。
『コンヤ フタリキリデアイタイ コヤ K』
意味することが、優笑にはすぐわかった。
「K……会長……?」
絹枝だ。
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