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デス・ゲーム4日目 深夜の待ち合わせ

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 優笑に手紙が届いて、少し経った頃。
 優楽は窓辺にいた。

 少し出窓のようになっている窓辺にネズミがいる事に気付いたのだ。
 
「えぇ、お前達なんでこんなとこいるの~? もしかして追いかけてきた? なんてね……うふふ。あ、パン持っていってあげようと思って持ってきたのあるんだ。可愛い~~シーッ入っておいで……」

 静かにネズミを部屋に招き入れた時。
 体育着姿の優笑が、寮から出ていくのが見えた。

「えっ? 優笑ちゃん……?」

 ◇◇◇

「はぁっはぁ……」

 夜の林ほど恐ろしいものはないだろう。
 真っ暗で何も見えない……はず。
 だが見えるのだ。
 夜目が利く方だとは思っていたが、そんなレベルではない。

 吸血鬼だから?
 恐ろしい変化だ。

 スマホで地図を見ながら、隠れ小屋を目指す。
 運動靴は何度か水溜りに入って、もう濡れてしまった。

 こんな時間に手紙で呼び出されて一人で林の中を走るだなんて馬鹿な事をしているかもしれない。
 でも、いつでも助けられてばかりの自分に生徒会長の絹枝が助けを求めたのだ。
 行かないわけにはいかないと思った。

「はぁ……はぁ……」

 全速力で走って、優笑はやっと小屋についた。
 周りに敵はいないか確認する。
 すぐに小屋のドアが小さく開いた。

「優笑さん……!」

「……会長……!」

 小声で叫ばれ、優笑も少しホッとする。

「早く入って……」

「はい」
 
 小屋の中も嵐で随分濡れてしまっている。

「シーツを持ってきて、敷いたのよ。こっちへ座って」

 真っ白なシーツを泥の上に敷いたらしい。
 高級品のしっかりした布なので何枚かに畳んで座れば泥水は沁みていなかった。

「ごめんなさい……優笑さん……危険な真似をさせて」

「い……いえ」

 驚いた事に絹枝は隣に座った優笑を抱きしめる。
 スラリとしたスタイルにメガネの似合う和風美人。
 そんな絹枝に憧れていた女子はルルだけではなく沢山のファンがいたのだ。

「優笑さん……来てくれてありがとう」

「い、一体何があったんですか……?」

 戸惑いながらも優楽にいつでも抱きしめられている優笑は、絹枝をそのままそっと抱きしめる。
 絹枝も離れることなく、すがるように優笑に抱きつきながら……泣き始めた。

「か、会長……?」

「うっ……うう……ルルさんに……襲われたの……」

「えっ……?」

 予想しなかった言葉に優笑は言葉を失う。

「私を愛しているって言って……私に襲いかかってきたわ……。それを抵抗したら彼女は自分で自殺したの……自分で自分を刺したの!」

「……そ、そんな……」

 絹枝はルルを拒絶した事も、結果絹枝の針が彼女の喉を貫いた事も、嘘をついて捏造した。

「彼女に自分を食べるように言われて……どうすることもできなかったの……うう」

「き、会長は……じゃあ」

「そう、私を慕う後輩を食べて……私はレベル2になったの……ううっ……」

 絹枝にぎゅうっと抱きしめられ、混乱しながらも優笑も抱きしめた。

「か、会長が悪いわけじゃないです……そ、それはもう仕方がない……仕方がないことです」

 突然の報告に、どうしようもなく涙が出てくる。
 ほんの数日……好かれていたとも思えなかったがそれでも仲間だった。
 まさかあれが最後になるとは……。

 別行動をしなければよかったのか……。

「優笑さん……優しいわ……あぁ~ありがとう……」

「い、いえ……私の方がいつも会長に……」

「……会長なんてやめて……絹枝と呼んでほしいの……」

 何度もぎゅ……ぎゅ……と熱く抱きしめられる。

「か、き、きぬえ……さん……?」

 初めての家族以外からの抱擁に優笑は戸惑う。

「優笑さん……私は、ルルさんの想いに……応えられなかったの」

 ルルの『愛』は絹枝を襲い、自殺する程の激情だ。
 彼女の尊敬は伝わってきた。
 でもそこまでとは……優笑には想像できなかった。
 
「あの……あの……それは仕方ない事だと……」

「優笑さん……これがバレて貴女に嫌われてしまったらとずっと考えていたの」

 絹枝の辛そうな、声と息が耳にかかる。

「私に……?」

「貴女を見た時に……私はきっと貴女に惹かれたのかもしれない……」

 離れようと少し身をよじったが、更に抱きしめられてしまう。

「え? それって……」

「あの、貴女が必死にスズメさんを運んでいる時よ。どうしても助けなければ……と思って」

「あ、ありがとうございました……本当に感謝しています……」

「ほんの数日なのに……優笑さん……」

 優笑は戸惑う。
 思っている感情の違いに戸惑う。

「絹枝さん、ごめんなさい……少し苦しくて……」

 そうは言っても、離してくれそうにない。
 一体どうしたと言うんだろうか。

「優笑さん……好き……」

「えっ……?」
 
 ふいに、両頬を長い指先で包まれ温もりが唇に触れた。
 絹枝に口づけをされたのだった。

「お願い……私の傍にいて……優笑……好きよ」

 咄嗟の事で、何が起きたかわからない。
 初めての口づけ……。
 そのままゆっくりと抱きしめられて、絹枝は優笑を寝転がせた。

「私と二人だけの……世界にいきましょう……今だけでも……お願い……」

 何を言っているのか、わからなかった。
 だけど、熱い切ない吐息。
 溢れる涙……。

 真っ暗な小屋のなかで、夜目の利く優笑には自分を押し倒した絹枝の顔がはっきりと見えた。
 また口づけされ、抱きしめられた。

「優笑……」

 優笑……と愛しい名を呼ぶように言うが、違う。

「お願い……傍にいて……私を救って……」

 身体が動かない。
 それは恐怖からくるものだった。
 異常なほどの大きな想いに覆いかぶさられて動けない。

 だけど、そんなものは欲しくはないのだ。

 愛おしむように抱きしめられる。
 唇がまた触れる。

 怖くて動けないのに、絹枝は受け入れたと思ったのだろう。

「助けて……優笑……私を助けて……ずっと二人で助け合いましょう……」

 愛を囁くように、絹枝は言った。
 動けなかった優笑は震える腕をどうにか動かして弾かれたように絹枝を突き飛ばした。

「やめてぇ!!」
 
「優笑……っ!?」

 恐ろしいものから逃れるように、優笑は小屋を飛び出して林の中を走り暗闇の中を消えていく。
 絹枝の声は、優笑には届かない。

 後ろから聞こえた声にも、立ち止まれなかった。
 
 
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