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デス・ゲーム 8日目 礼拝堂で
しおりを挟む「はぁ……っはぁ……」
礼拝堂まで全力疾走してきた優笑。
林の方を振り返る。
かすかに優楽の姿が見え、優笑は手を振った。
間近で見る礼拝堂。
石造りでボロボロになっているが神聖さを感じる。
「優笑さんですね」
中を覗こうとすると、先に聖奈に声をかけられた。
「は、はい……すみません」
「ふふ……緊張されなくても大丈夫ですよ。こちらへ……」
聖奈は祭壇でベールをかぶり、静かに手招きした。
背後からの海風が優しく彼女の髪を揺らし、光が後光のように見えて神々しく感じる。
辺りを見回すが、確かに礼拝堂にいるのは聖奈だけのようだ。
「私だけですよ。息を切らせて走ってきたのですね。お水はありますか?」
「は、はい」
「椅子にかけて楽にしてくださいね……」
ボロボロの椅子だが、言われて腰かける。
にっこりと微笑まれ、優笑も微笑んだ。
そして聖奈も優笑がいる椅子のところまで降りて、隣に座った。
「よく来てくれました……貴女の心の痛みを一緒に解放しましょうね」
「……私の痛みって……」
「……暗い……怖い……助けて……そんな小さな貴女の声が聞こえてきます」
「! す、すごい……どうして……」
優笑の驚いた顔を見ても、聖奈は当然のような顔だ。
「神から授かった力なんでしょうね……」
「わ、私……昔、誘拐された事があったんです……」
「それは辛い目に合いましたね……だから伝わってきたのでしょう」
この人は本当に神の力があるのかもしれない。
優笑はそう思った。
「実はその時に……助けてくれた女性がいて、その人との事を思い出したいんです」
「そうだったのですね……お手伝いができればいいのですが……わかる範囲で、その女性の事を教えてください……あぁ……幼い貴女の泣く姿が見えます」
「あの……実はその女性は……吸血鬼のソフィアという女性なんです」
「……ソフィア……」
一瞬、聖奈が止まる。
「はい……」
「数日前に、その名を真夜中に感じた事があります」
「聖奈さんも……」
「吸血鬼のソフィアは……このデス・ゲーム計画に関係しているのですね」
「そうなんです……」
「……吸血鬼ソフィアに助けられた人間……貴女から……特別なものを感じていました」
「そ、そんな! 私は全然役立たずで……」
「妹の優楽さんとの協力でバーサーカーを倒したのを見ましたよ」
「あ、あれは……優楽がすごいだけで、私は武器も作れないんです」
言ってから、武器が作れない事は隠しておくべきだったと気付く。
しかしシスター聖奈は優しい表情そのままだ。
「……選ばれた人だからでしょう。吸血鬼のソフィアに助けられたのです。きっと意味がありますよ」
「その助けてもらった時にきっと重要な話をしたと思うんです。それを思い出したいんです!」
「そうですね……ではこちらへ……」
大きな祭壇には大きな講演台がある。
祭壇と講演台の間に聖奈は座った。
「此処に座って私の手と手を繋いでください」
「は、はい……」
この講演台の影に隠れてしまうと、優楽達からは死角になってしまう。
少し気になったが、聖奈が先に石の床の上に正座で座っている。
優笑も慌てて、聖奈の前に座った。
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