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第一章

主婦の難敵

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 「何だ、この味。鶏肉なんて普段から食べ慣れてるのに、こんなの初めて食ったぞ」
 「いつも捨てるか犬の餌にしちまう鶏皮がこんなに美味いとは……」
 「うおぉ、エールが美味い!」

 串を片手に盛り上がる男性陣。

 「お団子おいしー」
 「違うよ、これいつものお団子じゃなくてお肉だから美味しいんだよ」
 「それよりこの煮卵、いつもの味の無い固ゆで卵の何倍も美味しい、一個じゃ足りない、もっと食べたい!」

 そこそこ大きい子供達。

 彼らに焼き鳥と煮卵はバカ受けと言ってもいい程売れた。
 特に串一本の値段を、子供の小遣いでも買える値段にしたのが正解だったらしい。

 ……が、だ。

 「こらこら急いで食べない、串が刺さったら危ないでしょう」
 「振り回さない、食べ物で遊ばない!」
 「あー! 服にタレが! ……あー、これすぐに落ちるなら良いんだけど……」

 小さなお子様の面倒を見る奥様方には、味とか以前の問題で苦労をかける結果となっていた。

 シャリーも流石にそんな事にまでは気が回らず、心の中だけでそっと彼女たちに頭を下げた。

 が、男性陣に人気なのは相変わらずで、ひっきりなしに客が来るので、シャリーもフル稼働で焼き鳥を焼いていた。

 値付けも薄利多売を前提にしているので、ありがたいっちゃありがたいのだけど……

 (流石に暑いわ……)

 冬の寒さの中とはいえ、ずっと炭火の前で鶏を焼き続ければ額に汗も浮かんでくる。
 その割に、足元は冷える。

 足元にストーブが欲しい。
 切実に願うが、この寒い時期もあと一月半もすれば終わり、過ごしやすい気候の春が過ぎれば夏が来る。

 この世界の夏は、かつての日本のあの狂ったような暑さに比べればだいぶ穏やかだが、だからと言って涼しいわけじゃない。
 少なくともその季節にはストーブは無用の長物、そんな余計な荷物を積む余裕はこの馬車にはない。

 いずれ、もっとお金を貯めて、もっと良い馬車を作れたらその時は……

 「皮二本とつくね四本、モモ十二ね!」
 「はい、まいどー!」

 手を動かしながら、密かにそんな野望を胸に、シャリーはひたすら焼き鳥と格闘を続け――

 「はい、ありがとうございましたー、今日は完売! 店じまいです! ありがとうございました、明日までここで店やりますんでどうぞご贔屓に!」

 商品が全てはけ、空に満天の星が瞬く頃には体力自慢のロイスですらグロッキーになっていた。

 ……が。

 「ふふふ、くくく、今日の売上見ろよ、凄いぞ。一本の値段がかなり安いからそんなに期待はしてなかったのに……、やっぱシャリーのアイデアは天才的だな!」
 グロッキーながらも売上を数えるロイスがちょっぴり怖かったのは私だけの秘密である。
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