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第六章
二度目の婚約
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それは、ひどく慣れ親しんだ光景だった。
勿論国が違うのだから、ドレスの流行や会場の端の方に並ぶ料理の種類に違いはある。
しかし、社交に出てくる者の思惑なんて例え国が変われど大差は無いようで。
アルトリートにエスコートされて入場したローゼリアに一斉に注目が集まる。
視線はほぼ四種類程。
人気のブランドの責任者とあって、結婚適齢期かついまだ婚約者の居ない嫁き遅れ予備軍として殺気立っ少女達を除き、大半の女性は私と縁を繋ぎたいと機会を伺っているし、金も稼げる嫁候補を見る結婚適齢期の男性もまあ比較的好意的な視線を向けてくるし、オジサン達は王子に連れられている私がどの派閥につくのかと、政治的な興味を向けてくる。
つまり大半は好意的な視線なのだけど、王子の隣を歩く私への女の嫉妬と、男共の欲に満ちた視線が怖い。
女の嫉妬に関しては、これでも長年王太子の婚約者をしていただけあって慣れたものだが、王太子の婚約者だったからこそ、男のあしらい方には慣れていない。
気持ち悪くて仕方なかった。
「うん、可愛くて有能な奥さん候補に目を付けたいのは分かるけど、ちょっとがっつき過ぎだな、あれは。だからモテないんだって自覚すれば良いのにね」
それを、アルトリートは毒舌をボソッともらして華麗に切り捨てた。
「ほら、まずは陛下に挨拶に行こう」
挨拶の列に誘導され、王様の前に連れ出される。
「うむ、アルトリートよ、息災か?」
「――お陰様で」
「デニア男爵も、素晴らしい功績を上げたと報告を受けているぞ」
「ありがとうございます」
「うむ、皆にも聞いて貰いたいのだがな、この度デニア男爵に荒谷伯爵位を授け、我が息子、第四王子アルトリートを婿に据えようと思う。どうか?」
その言葉は、「どうか?」と問いかけつつ否の答えを許さない、決定事項の伝達だった。
シンと静まり返った会場に、ぱらぱらと拍手の音が満ちていく。
内心の思いはどうあれ、ここで賛同しなければ陛下に翻意ありと見做されかねない。
「後ほど正式に手順を踏み手続きは行うが、アルトリートは近い将来デニア伯爵となる事がここに決定した。我が国肝いりの新事業を任せるのだ、奥方と共に上手くやるのだぞ?」
「――御意」
「挨拶も済んだのだ、婚約者と共に二曲程踊ってくると良い」
陛下に促された私達がダンスホールに上がれば、周囲は遠慮してスペースを開けてくれる。
そして曲が始まる――
「殿下、ダンス上手いですね?」
「これでも王子なんでな。……しかも妹の練習相手も務めさせられたんだ、下手のままじゃ許されなかったのさ」
そうは言うが、冒険者として鍛えた身体がしっかりステップを踏み、優雅にリードしてくれるので、とても踊りやすい。
「そう言うローゼリアも上手いじゃないか?」
「これでも公爵令嬢で王太子の婚約者でしたからね。……彼はダンスが下手っぴぃで、それでも格好良く踊っているよう見せなければいけなかったので、ただ上手いだけでは許されなかったのですよ」
だから、ダンスの上手なアルトリート様がペアなら見せかけではなく本当に上手く踊れて気持ちが良い。
「ダンスが楽しいと、初めて思えましたわ」
「それは良かった」
二曲終わってホールを下がると、私達は今度こそ惜しみない拍手で迎えられるのだった。
勿論国が違うのだから、ドレスの流行や会場の端の方に並ぶ料理の種類に違いはある。
しかし、社交に出てくる者の思惑なんて例え国が変われど大差は無いようで。
アルトリートにエスコートされて入場したローゼリアに一斉に注目が集まる。
視線はほぼ四種類程。
人気のブランドの責任者とあって、結婚適齢期かついまだ婚約者の居ない嫁き遅れ予備軍として殺気立っ少女達を除き、大半の女性は私と縁を繋ぎたいと機会を伺っているし、金も稼げる嫁候補を見る結婚適齢期の男性もまあ比較的好意的な視線を向けてくるし、オジサン達は王子に連れられている私がどの派閥につくのかと、政治的な興味を向けてくる。
つまり大半は好意的な視線なのだけど、王子の隣を歩く私への女の嫉妬と、男共の欲に満ちた視線が怖い。
女の嫉妬に関しては、これでも長年王太子の婚約者をしていただけあって慣れたものだが、王太子の婚約者だったからこそ、男のあしらい方には慣れていない。
気持ち悪くて仕方なかった。
「うん、可愛くて有能な奥さん候補に目を付けたいのは分かるけど、ちょっとがっつき過ぎだな、あれは。だからモテないんだって自覚すれば良いのにね」
それを、アルトリートは毒舌をボソッともらして華麗に切り捨てた。
「ほら、まずは陛下に挨拶に行こう」
挨拶の列に誘導され、王様の前に連れ出される。
「うむ、アルトリートよ、息災か?」
「――お陰様で」
「デニア男爵も、素晴らしい功績を上げたと報告を受けているぞ」
「ありがとうございます」
「うむ、皆にも聞いて貰いたいのだがな、この度デニア男爵に荒谷伯爵位を授け、我が息子、第四王子アルトリートを婿に据えようと思う。どうか?」
その言葉は、「どうか?」と問いかけつつ否の答えを許さない、決定事項の伝達だった。
シンと静まり返った会場に、ぱらぱらと拍手の音が満ちていく。
内心の思いはどうあれ、ここで賛同しなければ陛下に翻意ありと見做されかねない。
「後ほど正式に手順を踏み手続きは行うが、アルトリートは近い将来デニア伯爵となる事がここに決定した。我が国肝いりの新事業を任せるのだ、奥方と共に上手くやるのだぞ?」
「――御意」
「挨拶も済んだのだ、婚約者と共に二曲程踊ってくると良い」
陛下に促された私達がダンスホールに上がれば、周囲は遠慮してスペースを開けてくれる。
そして曲が始まる――
「殿下、ダンス上手いですね?」
「これでも王子なんでな。……しかも妹の練習相手も務めさせられたんだ、下手のままじゃ許されなかったのさ」
そうは言うが、冒険者として鍛えた身体がしっかりステップを踏み、優雅にリードしてくれるので、とても踊りやすい。
「そう言うローゼリアも上手いじゃないか?」
「これでも公爵令嬢で王太子の婚約者でしたからね。……彼はダンスが下手っぴぃで、それでも格好良く踊っているよう見せなければいけなかったので、ただ上手いだけでは許されなかったのですよ」
だから、ダンスの上手なアルトリート様がペアなら見せかけではなく本当に上手く踊れて気持ちが良い。
「ダンスが楽しいと、初めて思えましたわ」
「それは良かった」
二曲終わってホールを下がると、私達は今度こそ惜しみない拍手で迎えられるのだった。
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