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第一章

お食事係に任命されました。

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    「へぇ。悪くないな」

   ナイフとフォークを優雅に使いこなし、完璧なマナーで食べ進める――なんて事はなく。

    フォークで突き刺した肉を口一杯に頬張り、頬を膨らませる。その様子は優雅さの欠片もないが、少なくともクチャラー等人を不愉快にさせる食べ方はせず、むしろ感情を素直に表に出す。

   「ふむ。不味い血液錠剤もそうだが、保存食にもそろそろ飽きていた所だ。……お前、この家でハウスキーパーとして働くなら、一部屋お前にやろう。どうだ?」
    ……ハウスキーパー。つまり家政婦。要はおさんどん係をやれと、そういう事らしい。

    立場として。この男の使用人の様に扱われるのは少々面白くないが、実際の所、この男に頼らねば衣食住どころか生存すら危ういのが私の現状だ。
    「……良いでしょう」

    だから、私はその提案に頷いた。

   「ああ、俺の部屋の掃除と下着の洗濯だけはしなくて良い。つーか、するな」
    それは良い。部屋の掃除はともかく、パーティーメンバーでもない男の下着なんか見たくもないし。

    取り敢えず、廊下で寝なくて良くなっただけラッキーと思わなくちゃね。
    とにかく今は勉強第一。この世界で生き抜く術を見つけなきゃ。

   食後の片付けを終え、風呂を沸かして私は部屋へと入る。
   ベッドと書き物机があるだけの、簡素すぎる部屋。

   私はベッドにうつぶせに寝転がり、タブレットの画面を見下ろした。
   「寝るのはいつでも出来るし。まず何より言葉を覚えなくちゃ何も出来ないしな」

   そのまま。私は勉強に没頭し――気付けば一睡もしないまま、窓の外が明るくなり始めていたのだった。

   ※    ※    ※

   「――で。クソ親父。コレはどういうこった?」
   「仮にも貴方を預かった身としてはね。大成は無理でも死んで欲しく無かったんですよ」
   「……俺はアンタの評定にまでは響かないと聞いていたんだが?」
   「ええ。たとえ貴方が故意に課題を失敗し、処分されても私は痛くもかゆくもありませんよ、少なくとも上の勝手な評定上はね?    ……ですが、貴方の父としての私はそれでは悲しいんですよ」

    はぁ、とどちらからとなく溜め息の音が漏れた。

   「彼女には色々面倒を解決して貰いましたからね。今後の人生楽勝モードになるよう調整していたのに、うっかり目を離した隙に交通事故で亡くなってしまわれて。冥界に取られる前に慌てて保護したんですが……ね。何しろ何の準備もなくて転生先の斡旋も難しく」
    「で、俺に押し付けた訳か?」
    「ふふふ、彼女、面白いですよ?    彼女なら貴方もどうにかしてくれるでしょう。楽しみにしていますよ」
    「あっ、こら!    その勝手に喋って自分一人勝手に完結する癖やめろって言ってんだろ、消えるな!」

    ……が。その叫びは一瞬遅く。
   後には静かなばかりの部屋でふるふる震える男が一人。

    「あのクソ神、マジで覚えてろよ……!」
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