【完結】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛を通り越してストーカーされてます!

一茅苑呼

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第五章 絆をつなぐ碧色のマフラー

望むもの全部、あげる【2】

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なぜなら、DNA型の塩基配列(下記資料参考)に、通常、親子関係に見られる一定のパターンの一致が見られず────』

「大地」

もう一度、その名を呼ぶ。呼んで、私は大地を見上げた。淋しそうに、けれど大地は、微笑みながら言った。

「僕たちに、血の繋がりは、なかったんだって。
嬉しい? まいさん。
近親相姦じゃ、なかったんだ」

大地の言葉が、身体をすり抜けていくようだった。

胸に穴があく、と、よく聞くけれど。
私の場合、さっき満たしたばかりの胃袋が、体の中から失われてしまった気がした。

───この空虚さは、なんだろう。
姉弟だと確信していたのに、否定されたことに対する、とまどい? それとも……。

「ねぇ、まいさん。嬉しい? ねぇ、嬉しいって、言ってよ。でないと、僕───」

言いかけた大地の頬を、ひとすじの涙が伝った。

悲しい過去を告白する時ですら見せなかった大地が見せた、初めての涙だった。

ぬぐいもせずに、大地はふふっと笑った。

「僕は、ちっとも嬉しくなんかない。
まいさんと姉弟だと思って育って……それでも、まいさんが好きで。
倫理も社会通念も踏みはずして───母親と同じように、自分の欲望に逆らえなくて。
あなたの心も、身体も、望んだのに。

手に入れても……いつか失う日がくることが解ってしまって……たとえ社会的に許された関係になったとしても、全然、喜べないよ。

───僕はまいさんと、姉弟でいたかった。
姉弟なら……いつかあなたが僕を必要としなくなっても、側に居続けることができる。

でも、他人なら、それで終わりだ。側になんて、いられない」

言いきって、大地は両手で顔を覆った。泣きくずれるのかと、思った。

けれども大地は、わずかの間だけ覆った手をおもむろに下げて、私をじっと見つめた。

「僕はずっと、僕の側にいてくれる人を探していた。
あの人……母親は、違っていた。初めから、なかったような関係だった。

でも、あの日。
まいさんと、初めて向かい合って、自己紹介した時……まいさんとの間に《それ》があると思えて、嬉しかった。

姉弟だから感じられるんだって、思った。だからまいさんも……僕を好きになってくれたんだって、思った。
なのに……姉弟じゃないなんて……。

お願いだよ、まいさん。
せめて、まいさんは喜んで?
嬉しいって、言ってよ。
そうしたら僕も、あきらめられる気がする……」

狂ったように話し続ける大地に、声がかけられなかった。
けれども、大地の漏らした一言が、私の心に火花のような熱い痛みをもたらした。

「───あきらめるって、何を?」
「まいさん……」

「あんたは、何をあきらめるって言うの? ずっと探していたっていう、側にいてくれる人? 私たちが姉弟でなかった事実を、受け入れるってこと? それとも───」

最後の一言を強調するために、大きく息を吸った。挑むように、大地を見据える。

「私を好きだって言ってくれた、想いを?」
「───僕は……」

困惑したように私を見返し、大地は首を振った。のどもとを押さえる。

「僕、は……」
「───私だって、嬉しくなんか、ないわよ」

大地が目を見開く。予想外だったのだろう。
私の言葉は、さらに大地の声を失わせた。

「笑っちゃうわよね。姉弟で恋愛関係にあることに、罪悪感があったはずなのに。
姉弟じゃないって解って、急に……り所を失った気がしたわ。
───私も、大地と同じように考えていたんだと思う。血が繋がっていれば、離れることはないって。
物理的に離れたとしても、血の繋がりという絆で、一生切れない縁ができるって、解ったから。
私も……大地がずっと側にいてくれるって思えて、嬉しかった」

手の中の、私たちが姉弟ではないという証を、大地に突き返す。

「でも、私たちにそれはなかった。少なくとも、姉弟間の絆はね。
私たちはただの……年の離れた、男と、女よ。
相手の言葉ひとつで、絆を感じたり感じなかったりする、不安定な間柄でしかないわ。
そういう関係だと、大地は恋愛できないの? 信じることが、できない?
それならそれで、確かにもう私たちの間には、一片の繋がりも残っちゃいないわ。
あんたはあきらめるって言ったものね。上等よ。お望み通り、言ってあげる」

私は笑った。
大地も、自分自身も、あざけるように。

「大地と姉弟じゃなくて、私、本当に嬉しいわ」

言って、きびすを返す。
来た道を、大地に指し示した。

「私は、一人でも行くわよ。少ないとはいえ、何人かの男と付き合って、別れてきたんだもの。
また繰り返すだけだわ。
また……私を本当に必要としてくれる存在を、探すだけ」

鑑定書を握りしめたまま、大地は身動みじろぎひとつしない。
宙を見据えたまま、私の言葉を聞いていたのかいないのか……なんの反応も示さなかった。

「……先に車に戻っているわ。落ち着いたら、来なさいよ」

手をつないで歩いて来た道を、今度はひとりで歩いて行く。
隣にいて欲しかった存在は、もういない。

大地が『実の姉』としての私しか必要としないのなら、仕方ない。

『母親のような姉』としての私しか望まないのなら、どうしようもない。

『血の繋がり』しか求めていないのなら……───。

そこまで考えて、私はもう、涙をおさえることができなかった。

……大地にとって、恋愛関係を結ぶ相手が近親者でなければ意味がないのだとしたら、私は───。

次から次へとあふれだす涙をそのままにして、駐車場の自分の車へと、急ぎ足で向かう。

大地から死角になる場所に行ったら、涙を拭こうと思った。

その時、大地が駆け寄ってくる足音がして、続けて、ぐいと二の腕を乱暴につかまれた。
振り向かされ、もう一方の二の腕も、つかまれる。

「僕がまいさんを必要だって言ったら、ずっと、一生っ……側にいてくれる!?」
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