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第五章 絆をつなぐ碧色のマフラー
望むもの全部、あげる【3】
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勢いに任せて言ったようで、私の顔を見た大地は、驚いたように言葉をつまらせた。
「……泣いて……いたの……?」
「うっさいわね!」
両腕をつかまれて思うように涙をぬぐえずにいる自分が、恥ずかしいやら情けないやらで、八つ当たりぎみに大地に怒鳴った。
ふっ……と、目もとを和らげて、大地が言った。
「なんでだろ……この前は、まいさんの泣き顔を見て、すごく苦しかったのに……今日は、すごく嬉しい。
……あと、笑える」
「人の顔見て、笑ってるんじゃないわよ、バカ! 手、離しなさいよ!」
「ヤダ。まいさんが、僕のさっきの質問にうなずいてくれるまで、離さない」
「信じらんない! ずっとこのまま情けない顔を私にさらさせるつもり!? サイテーな男ね、あんたっ……───」
見事に唇をふさがれて、あんまりにも悔しくて、その舌噛み切ってやろうかと思ったのに。
身体の方が、心よりずっと素直で、大地のくちづけに応えてしまう。
ややして離れた唇が、私の両方の目じりに軽く触れていった。
「……ねぇ、ずっと、一緒にいてよ……」
吐息と共に、耳元で告げられる。返事の代わりに大地の首の後ろへと腕をまわし、その身体を引き寄せた。
抱えた想いを、大地の心と身体に、伝えるために。
「……大地。これだけは、覚えておいて。
私たちは、確かに血の繋がりはなかった。でも私は、あんたが望むもの全部、あんたにあげる。
姉として母として女として……私が与えられるだろう役割を、全部。
あんたが望んでも、どうしても手に入れられなかったもの、すべてを」
くすっと大地が笑う。背中にまわされた腕と手に、力がこめられる。
「そんなこと言っていいの? 僕は欲張りだから、本当に全部、まいさんに望むよ? その時になって嫌だって言っても、僕、聞かないからね?」
「いいわよ。大地が本当に、望むなら」
ゆっくりと、大地が私から身体を離した。
「ねぇ、逆に僕が訊いてもいい? まいさんは、僕に、どうして欲しい? 教えて?」
一瞬考えてから、口を開く。
「大地は、大地の望むような大人になって。夢とか希望とか……未来を、ちゃんと描いてね。
私のことは、そういったものの片隅にでも、おいといてくれると、嬉しい」
「うーん。難しいね」
言って、大地は天をあおぐ。
ふうっ……と息をついて、私を見下ろした。
「僕の中心は、まいさんだから。それですべてに対して動きだせる気がするし。それじゃ、駄目?」
「ダメ。嬉しいけど、ダメ。
大地が何かに夢中になって、私のことを忘れたりする時があったら、すごく寂しいけど……ダメだと思う」
「寂しいのに、ダメなんだ?」
「………………他の女に夢中になったら、イヤ」
大地は噴きだした。ふたたび、私を抱きしめる。
「やっと本音が聞けた気がする。……うん、解った」
ところでさ、と、大地が口調をガラリと変えた。
「言いにくいけど……さっきから何人かの従業員の人達に、けっこう見られてたみたい……」
────────────
─────────────
────やっと、自分がどこにいたのかを、思いだしマシタ。
「……泣いて……いたの……?」
「うっさいわね!」
両腕をつかまれて思うように涙をぬぐえずにいる自分が、恥ずかしいやら情けないやらで、八つ当たりぎみに大地に怒鳴った。
ふっ……と、目もとを和らげて、大地が言った。
「なんでだろ……この前は、まいさんの泣き顔を見て、すごく苦しかったのに……今日は、すごく嬉しい。
……あと、笑える」
「人の顔見て、笑ってるんじゃないわよ、バカ! 手、離しなさいよ!」
「ヤダ。まいさんが、僕のさっきの質問にうなずいてくれるまで、離さない」
「信じらんない! ずっとこのまま情けない顔を私にさらさせるつもり!? サイテーな男ね、あんたっ……───」
見事に唇をふさがれて、あんまりにも悔しくて、その舌噛み切ってやろうかと思ったのに。
身体の方が、心よりずっと素直で、大地のくちづけに応えてしまう。
ややして離れた唇が、私の両方の目じりに軽く触れていった。
「……ねぇ、ずっと、一緒にいてよ……」
吐息と共に、耳元で告げられる。返事の代わりに大地の首の後ろへと腕をまわし、その身体を引き寄せた。
抱えた想いを、大地の心と身体に、伝えるために。
「……大地。これだけは、覚えておいて。
私たちは、確かに血の繋がりはなかった。でも私は、あんたが望むもの全部、あんたにあげる。
姉として母として女として……私が与えられるだろう役割を、全部。
あんたが望んでも、どうしても手に入れられなかったもの、すべてを」
くすっと大地が笑う。背中にまわされた腕と手に、力がこめられる。
「そんなこと言っていいの? 僕は欲張りだから、本当に全部、まいさんに望むよ? その時になって嫌だって言っても、僕、聞かないからね?」
「いいわよ。大地が本当に、望むなら」
ゆっくりと、大地が私から身体を離した。
「ねぇ、逆に僕が訊いてもいい? まいさんは、僕に、どうして欲しい? 教えて?」
一瞬考えてから、口を開く。
「大地は、大地の望むような大人になって。夢とか希望とか……未来を、ちゃんと描いてね。
私のことは、そういったものの片隅にでも、おいといてくれると、嬉しい」
「うーん。難しいね」
言って、大地は天をあおぐ。
ふうっ……と息をついて、私を見下ろした。
「僕の中心は、まいさんだから。それですべてに対して動きだせる気がするし。それじゃ、駄目?」
「ダメ。嬉しいけど、ダメ。
大地が何かに夢中になって、私のことを忘れたりする時があったら、すごく寂しいけど……ダメだと思う」
「寂しいのに、ダメなんだ?」
「………………他の女に夢中になったら、イヤ」
大地は噴きだした。ふたたび、私を抱きしめる。
「やっと本音が聞けた気がする。……うん、解った」
ところでさ、と、大地が口調をガラリと変えた。
「言いにくいけど……さっきから何人かの従業員の人達に、けっこう見られてたみたい……」
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────やっと、自分がどこにいたのかを、思いだしマシタ。
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