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第六章 この心に宿るから
二人の融合──僕は僕を、赦すよ【2】
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腕を伸ばして、大地を抱き寄せる。
力いっぱい抱きしめて、その心に響くように告げる。
「ありがとう、大地。……私の好きな、大地。
たとえあんたが消えてしまったとしても……あんたが私を想ってくれた事実だけは、ちゃんと私のなかに残るから。
だから、忘れないで。私があんたを好きなこと。何より誰より、あんたを一番に想っているってことを。
どんな『大地』だって、受け入れてあげる」
どんな大地でも───一度は難しいと思ったその言葉を、いまならはっきりと、口にできる。
私が好きなのは、ここにいる『大地』なんだって。
私より短い年数しか生きていないのに、私より深い傷を負って、なのに、人を思いやれる心をもっている。
私は、その心に、応えたい。応えてあげたい。
「……届いてるよ、まいさん」
透明な声音が、わずかにかすれて響いた。
「『あいつ』にも……きっと」
私は目を閉じた。
……ほら、こうやって、私の心を推し量って、気遣うことができるから。
「ありがとう、大地」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。
今度は、いまここにいる大地のためだけに。
ゆっくりと身を起こして大地の頬に触れ、瞳をのぞきこんだ。
「無理しないでいいって言ったって、あんたはきっと、無理してでも、私の想いに応えてくれるのよね……」
しみじみと告げてしまう。
自分の頬に伸ばされた私の指をつかみ、大地が口を開く。
「まいさんは、思い違いをしているよ。僕は、僕の心の赴くまま、行動してるんだ。
人からすると、やせ我慢して無理しているように見えても……それは、僕が僕であるために『必要な我慢』なんだよ?
第一、まいさんが望むことならどんな無理難題だって叶えたいし叶えることが僕の『幸せ』なんだ。
……ね、ほら、僕にとってそれは『我慢』じゃなくて『幸せ』なんだから……まいさんにだって、それを奪う権利はないはずだよ?」
片目をつむって、いたずらっぽく笑う。
へ理屈だって解っていても、そうやって私をけむに巻いて、自分を通すのが『大地』なんだから、どうしようもない。
傍からみれば滑稽に思えるほど盲目的な想いを、大地は私に向けてくれている。
だからこそ私も、バカみたいに大地を想うしかなくなるんだろう。
「あんたが……『大地』が『大地』で、本当に良かったわ。いまほど、そう思えたことない……」
泣きそうになりながら微笑むと、大地はつかんだ私の指先にキスをした。
「まいさんにそう言ってもらえるのなら、こんな事態になったことも、まんざら悪いことじゃないね。
じゃあ……今度の診療日、榊原先生に僕からお願いするよ───僕達ふたりの、融合を」
私はうなずいた。
……後悔はないのに、ほんの少し寂しい気持ちが、胸を駆け抜けていく。
そんな気持ちが顔にでてしまったのか、大地は私を安心させるように笑ってみせた。
「大丈夫だよ。僕は……『どんな僕』でも、まいさんが大好きで……それだけは絶対に、変わらないから」
「……うん。それだけは、信じてる」
信じたい、という気持ちで相づちをうった私に、大地がふうっと息をついた。
「……反則だよ、まいさん」
何が、と言いかけた私の唇を、大地の唇がふさいだ。
「……頑張って自制してたけど、もう、限界だよ」
唇を離した大地は、言って私を押し倒した。
いとおしげに目を細め、私の髪を指で梳く。
「信じてる、だなんて。まいさん、可愛いすぎるよ……」
言った唇が頬に触れて、優しくて甘い吐息が、耳もとにかかる。
「ね、だから……いいよね……?」
つっ……と、大地の人差し指が私の鎖骨の間を抜けて、下がった。
触れそうで触れない指の行方がせつなくて、思わず大地の首の後ろに腕をまわした。
「……もっと、ちゃんと……あんたの全部で、私に触れて……」
大地はくすぐったそうに身をよじり、私の頭を抱えこみながら頬を傾けた───言葉よりも、身体で伝えられる想いがあると、いわんばかりに。
力いっぱい抱きしめて、その心に響くように告げる。
「ありがとう、大地。……私の好きな、大地。
たとえあんたが消えてしまったとしても……あんたが私を想ってくれた事実だけは、ちゃんと私のなかに残るから。
だから、忘れないで。私があんたを好きなこと。何より誰より、あんたを一番に想っているってことを。
どんな『大地』だって、受け入れてあげる」
どんな大地でも───一度は難しいと思ったその言葉を、いまならはっきりと、口にできる。
私が好きなのは、ここにいる『大地』なんだって。
私より短い年数しか生きていないのに、私より深い傷を負って、なのに、人を思いやれる心をもっている。
私は、その心に、応えたい。応えてあげたい。
「……届いてるよ、まいさん」
透明な声音が、わずかにかすれて響いた。
「『あいつ』にも……きっと」
私は目を閉じた。
……ほら、こうやって、私の心を推し量って、気遣うことができるから。
「ありがとう、大地」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。
今度は、いまここにいる大地のためだけに。
ゆっくりと身を起こして大地の頬に触れ、瞳をのぞきこんだ。
「無理しないでいいって言ったって、あんたはきっと、無理してでも、私の想いに応えてくれるのよね……」
しみじみと告げてしまう。
自分の頬に伸ばされた私の指をつかみ、大地が口を開く。
「まいさんは、思い違いをしているよ。僕は、僕の心の赴くまま、行動してるんだ。
人からすると、やせ我慢して無理しているように見えても……それは、僕が僕であるために『必要な我慢』なんだよ?
第一、まいさんが望むことならどんな無理難題だって叶えたいし叶えることが僕の『幸せ』なんだ。
……ね、ほら、僕にとってそれは『我慢』じゃなくて『幸せ』なんだから……まいさんにだって、それを奪う権利はないはずだよ?」
片目をつむって、いたずらっぽく笑う。
へ理屈だって解っていても、そうやって私をけむに巻いて、自分を通すのが『大地』なんだから、どうしようもない。
傍からみれば滑稽に思えるほど盲目的な想いを、大地は私に向けてくれている。
だからこそ私も、バカみたいに大地を想うしかなくなるんだろう。
「あんたが……『大地』が『大地』で、本当に良かったわ。いまほど、そう思えたことない……」
泣きそうになりながら微笑むと、大地はつかんだ私の指先にキスをした。
「まいさんにそう言ってもらえるのなら、こんな事態になったことも、まんざら悪いことじゃないね。
じゃあ……今度の診療日、榊原先生に僕からお願いするよ───僕達ふたりの、融合を」
私はうなずいた。
……後悔はないのに、ほんの少し寂しい気持ちが、胸を駆け抜けていく。
そんな気持ちが顔にでてしまったのか、大地は私を安心させるように笑ってみせた。
「大丈夫だよ。僕は……『どんな僕』でも、まいさんが大好きで……それだけは絶対に、変わらないから」
「……うん。それだけは、信じてる」
信じたい、という気持ちで相づちをうった私に、大地がふうっと息をついた。
「……反則だよ、まいさん」
何が、と言いかけた私の唇を、大地の唇がふさいだ。
「……頑張って自制してたけど、もう、限界だよ」
唇を離した大地は、言って私を押し倒した。
いとおしげに目を細め、私の髪を指で梳く。
「信じてる、だなんて。まいさん、可愛いすぎるよ……」
言った唇が頬に触れて、優しくて甘い吐息が、耳もとにかかる。
「ね、だから……いいよね……?」
つっ……と、大地の人差し指が私の鎖骨の間を抜けて、下がった。
触れそうで触れない指の行方がせつなくて、思わず大地の首の後ろに腕をまわした。
「……もっと、ちゃんと……あんたの全部で、私に触れて……」
大地はくすぐったそうに身をよじり、私の頭を抱えこみながら頬を傾けた───言葉よりも、身体で伝えられる想いがあると、いわんばかりに。
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