【完結】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛を通り越してストーカーされてます!

一茅苑呼

文字の大きさ
61 / 73
第六章 この心に宿るから

二人の融合──僕は僕を、赦すよ【1】

しおりを挟む


「───まいさん。そろそろ起きた方が、いいよ」

耳元で優しくささやかれて、目を開ける。
はっとしながら、声の主に問う。

「いま、何時?」
「え? ……もう10時になるけど、今日はお仕事お休みだよね?」
「父さんが……」
「お父さんの見送りなら、僕がしたから大丈夫だよ。
まいさんのこと訊かれたから、僕の部屋で寝てるって言ったら涙ぐんでたけど……むしろ、そっちが大丈夫かなぁって感じで───」

頭をかきながら溜息をつく大地を見て、ようやく目が覚めた。

「……ちょっと。あんた何?」
「何って……。イヤだなぁ、まいさん。寝ぼけてるの? おはようの、チューしとく?」

ベッドの上で呆然としていると、かがみこんだ大地が軽くキスしてきた。
……また、入れ替わってる?

そう思って複雑な心境になる私に、大地がにっこりと笑ってみせた。

「ね、まいさん。昨夜……『あいつ』と……したの?」
「えっ……。えーと……」
「じゃあ僕とも、エッチしてくれるよね?」

いつもの大地の笑顔なのに……なんだか、その向こうに静かな怒りを感じて。
私は、何をどう話そうかと、額に手を置いた。

大地が、ふふっと笑う。

「冗談だよ。……なんか、まいさん、すごく疲れているみたいだし……」

ベッドに腰かけて、甘えるように、私の胸に顔を埋めてくる。

「僕は、これで我慢するから……しばらくこのままで、いさせて?」
「……大地……。私のコト、怒ってる?」
「んー……僕が怒っているのは『あいつ』が自分の都合だけで、まいさんとエッチしたこと、かなぁ?」

私は大地を抱えこんだまま、横になった。大地の髪に、指を入れる。

「……そんな、無理やり、とかじゃないわよ? その……承知でこの部屋に来たんだし」

言葉をにごすと、大地は小さく息をつき、上目遣いに私を見た。

「……まいさんは、優しいけど、時々すごく残酷だね。
僕は……『あいつ』をゆるせないのに、まいさんはいとも簡単に『あいつ』を赦してしまうんだね」
「大地……だけど───」
「うん。解ってるよ。……まいさんにとっては『あいつ』も『僕』なんだって。
だから、まいさんが『もう一人の僕』を受け入れてくれたこと……本当は、喜ばなきゃいけないんだろうけど。
……でも、僕は」

言いながら大地は、疲れたように目を閉じた。細く息を吐く。

「やっぱり、寂しいよ……」
「───もう~ッ。なんなのよ、あんた達はッ」

私は大地を放り投げるようにして、起きあがった。
驚いたように、大地が私を見る。

「あんたも……もう一人のあんたも……ヤんなるくらい、根っこの部分はおんなじで。私を困らせることにかけては、天下一品なんだから!
そんなにグズグズ言うなら、もう、いいっ! どっちも相手になんて、してやらないからっ!」

枕を振り上げて、大地に叩きつけてやる。
私を止めようとした大地は、けれども、すぐに抵抗するのをやめて『枕叩きの刑』を受け入れた。

ひとしきり、そうして八つ当たりぎみに大地を叩くと、ふいに物悲しい気分がこみあげてきた。

ずっと……いま、目の前にいる大地に会いたくて。
私に逆らう大地を、拒絶してきたけど。

向き合うことを恐れずに、『二人の大地』を受け入れたとたん……二人の反目しあう心が表面にでてきて、私を苦しめるなんて……皮肉すぎる。

「……私は、あんた達ふたりが、どうしてもお互いを受けれがたいっていうなら……それも、仕方ないって、思う。
いきなり人格が入れ替わったりして驚かされるけど、あんたに振り回されるのなんて、いまに始まったことじゃないし。私は別に、このままでもいっこうに構わないのよ?
あんたも……もう一人のあんたも、好きだし抱きしめてあげたいって、思うから。
でも」

枕をつかんで疲れた指を上げ、私のせいでくしゃくしゃに乱れた大地の髪を直してやる。

「お互いに相手に嫉妬するくらいなら、ひとつになったほうが良いって思わない? 自分で自分に嫉妬するなんて……不毛なこと、この上ないわよ?」
「まいさん……」

大地はしばらく私を見つめていた。突然、ふふっと笑いだす。

「……不思議だな。まいさんにそんな風に言われると、自分の凝り固まった『譲れない一線』なんて、どうでもよくなってしまうよ」
「大地、それじゃあ……」
「うん。あいつを、受け容れる。……ひとつになって、僕は僕を……『赦す』よ」

やわらかな微笑みは、いつもの大地だった。
私の好きな……自分のことより、相手を思いやることができる、大地だった。

「───ごめんね、大地」
「えっ。なに、急に」
「あんたのこと……解ってやれなくて。
私……気づかないうちに、あんたの優しさに甘えてた。初めて会った時も……姉弟じゃないって、解ってからも。
ずっと……ずっとあんたが私を気遣ってくれてたんだって、やっと解った」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上エリートは溺愛がお好き

藤谷藍
恋愛
(旧題:強引社長とフラチな溺愛関係!? ー密通スキャンダルなんてお断り、ですー) 素顔は物凄く若く見えるベイビーフェイスの杉野紗奈は、メガネをかけて化粧をすると有能秘書に早変わり。いわゆる化粧映えのする顔で会社ではバリバリの仕事人間だが、家ではノンビリドライブが趣味の紗奈。妹の身替りとして出席した飲み会で、取引会社の羽泉に偶然会ってしまい、ドッキリ焦るが、化粧をしてない紗奈に彼は全然気付いてないっ! ホッとする紗奈だが、次に会社で偶然出会った不愛想の塊の彼から、何故か挨拶されて挙句にデートまで・・・ 元彼との経験から強引なイケメンは苦手だった紗奈。でも何故か、羽泉からのグイグイ来るアプローチには嫌悪感がわかないし、「もっと、俺に関心を持て!」と迫られ、そんな彼が可愛く見えてしまい・・・ そして、羽泉は実はトンデモなくOOたっぷりなイケメンで・・・ 過去の恋の痛手から、一目惚れしたことに気付いていない、そんな紗奈のシンデレラストーリーです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...