もう誰も愛さない

ルー

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退院

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「そんな・・・。でもその通りだね。あの2人が来月また来て何をするのかわからないからね。」

カンナが理解を示す。

「でも、退院には家族の承認が必要だよ。あの妹さんが承認してくれるとは限らないけど・・・。」

アンナが心配そうに言った。

「大丈夫、お父さんだけは私の味方だから。手紙を書けば来てくれるはず。」

アメリアが言うとアンナがつぶやいた。

「そっか。」







自分の病室に戻ったアメリアは机の引き出しから便箋を出し、父ルイに手紙を書き、その日のうちに出した。父ルイが精神病院を訪れたのはそれから3日後のことだった。

「アメリア、お父さんが来てるよ。」

受付係のアニーが呼びに来た。アメリアは玄関に向かい待っていた父ルイに駆け寄った。

「お父さん!」

「アメリア、すまなかった。」

会って早々の謝罪にアメリアは困惑する。

「エリナとリリアがすまなかった。あんな非常識で最低な家族だとは思わなかった。」

「お父さんが悪いわけじゃないでしょ。」

アメリアが言うと父ルイは首を振った。

「いや、違うんだ。本当に悪いのは断れなかった私なんだ。」

「どういうこと?」

アメリアが問い詰めると父ルイは語り始めた。

「私の産まれは貴族だったんだ。カーレシャス侯爵家の三男だった。三男だったからか政略結婚も求められず平民でも誰でも好きな人と結婚してよいと言われていた。ただし侯爵家が持っている爵位は1つだけでそれは次男・・・兄のイルヤの物だったから必然的に私は平民になることが決まっていた。私は領主騎士団に勤めているから町の警備も担当しているんだ。それでよくある定食屋に行っていたんだ。私はそこで働いていたアリスと恋に落ちた。付き合い始めて1年後に結婚して、定食屋の近くに家を買って暮らした。アリスとの間に産まれたのがアメリア、君だ。だからエリナから見たらアメリアは義娘になる。だけどアメリアが産まれてすぐにアリスは産褥熱でこの世を去った。男手1つで育てようかと思ったがさすがに同僚からとめられて仕方なくアリスの従妹のエリナと再婚した。エリナとの間には契約がいくつかあった。1つは白い結婚であること。私はアリス以外は愛せない。アリス以外の女性との間に子供を作ることなんてできなかった。2つ目はアメリアを育て上げること。将来アメリアが幸せになれることを願っていた。3つめはアメリアが成人したら離婚すること。その際に慰謝料として金貨30枚を支払う。私とエリナは共に寝ていない。だがエリナの妊娠が発覚した。産まれてすぐ親子鑑定をしたが私の子ではなかった。だから私はエリナが浮気の末産んだリリアの養育を行わなかった。自分の子ではないのになぜ育てなければならない?だからリリアを育てるのはすべてエリナに任せ私は1銭も出さなかった。食事代や生活するために必要なお金は出したがリリアが成人したら全額返してもらう約束だった。リリアの生活費を出す条件がアメリアが成人し離婚した後一切アメリアに関わらないことだった。エリナが自分の娘であるリリアを優遇しアメリアを貶めていたことはエリナに直接聞いて把握した。恋人の件もすべて。契約は破棄になり今までの生活費を返さなくていい代わりに離婚することになった。」

「り、離婚?お父様に悪いところがあるとは到底思えない。契約を了承したのはあの人だよ。不満あるのなら契約の時に言わないとだめだよ。」

アメリアが言うと父ルイは答えた。

「すでに離婚は成立し、アメリアの親権は私が、リリアの親権はエリナが取得した。」

「そう、なんだ。」

「退院について保護者である私が承認する。紙はありますか?」

ルイはアニーに尋ねた。

「はい、こちらです。」

アニーは書類を手渡す。胸ポケットからペンを取り出したルイは受付の前のカウンターで紙にサインした。

「これでいいですか?」

「はい。大丈夫です。」

確認したアニーがうなづいた。

「院長先生を呼んできます。」

アニーは紙をもって院長のもとに向かった。

「そうだ、アメリア。これからどこに行くんだ?」

「隣国アスラに行って夢だったクッキー屋さんをひらきたいなって思ってる。」

「・・・一緒に行ってもいいか?」

ルイの言葉にアメリアは目を見開いた。

「え?でも、お父さんは騎士だからいけないんじゃ・・・。ま、まさか。」

「ああ、騎士団を辞めてきた。あのままあそこにいたらまた絡まれそうで。嫌だったからな。ちゃんと退団理由に今までに起こったこと全部書いてきたから大丈夫だ。」

「本当に?お父さんもついてきてくれるの?」

「ああ、アメリアが良ければだが。」

ルイの言葉にアメリアは何度も頷いた。

「うん!ついてきてほしい。お父さんがいたら心強いよ。」

「良かった。じゃあ、今日にでも出発するか。」

「いえ、今日は泊っていってください。院長である私が許可します。」

現れたのはこの精神病院の院長リラエルだった。





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