溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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 夕食は「一応」つつがなく終了した。

 確かにお部屋食だったのだけれど、無表情のままお怒り中のオルギールの気迫というかオーラがすさまじく、当たり前のようにお部屋には三人分の食事が準備されたのだ。二人きりではなく。
オーディアル公は若干不満げだったけれど、とりあえず紳士的に現状を受け入れていた。

 食事が終わり、給仕を下がらせ、軽いお酒や(このひとたちにとっては水替わりだ)お茶を(下戸の私用)を頂いているときだった。

 「・・・昼食のあと、アルバから早馬が着いた」

 オーディアル公は、淡々と言った。明日の天気を語るみたいに。

 早馬。・・・部屋割り変更のために無駄に使われるのは論外として、通常はそれなりに重要、かつ火急の案件のためのものだ。
 私は少し緊張して無意識に背筋を伸ばした。
 公爵はそんな私に目を向けながら、長い腕を伸ばし、卓上の私の手をそっと握る。
 まったく、常に、私の手に触れる機会を逃さないひとだ。
 けれど、今はそんなこと気にならない。私に向けられた空色の瞳はとても穏やかなもので、おそらく私の緊張を感じ取って、気遣ってくれてのものだと、感じるからだ。
 その証拠に、にぎにぎしたりぺろっとしたりはする気配がない。
 オルギールは不愉快そうだけれど、今は看過するつもりのようだ。

 「いい話だ、姫。・・・レオンからの知らせで」
 「レオン様から」

 朝、別れたばかりなのに。何の知らせだろう?

 「ウルブスフェルの良港。その沖合の島に‘海の民’の拠点があるのは知っていような」
 「・・・それはもう」

 存じ上げておりますとも。勉強しましたから。

 私は苦々しく頷いた。
 ウルブスフェルの所業が明るみに出るまでに時間を要したのは、ひとつには、この「海の民」の裏切り行為にある。
 グラディウスは王制ではない上、柔軟な思考、統治を是としているため、他国のありようにも寛容だ。絶対王政、独裁、議会制立憲君主政、等々。秩序ある交流さえできればそれでよし、としている。そんな中、「海の民」はウルブスフェル沖合の大きな島において、海運業や流通を商う自由民だったのだが、長年、良好な関係を保っていた彼らが、グラディウスではなく、ウルブスフェルのギルド長と組んで、武器流通の数量操作をしたことが、事を重大にさせてしまった要因の一つといえる。
今回、あくまで「グラディウス直轄領」であるウルブスフェルの権威を奪還することが戦の大義だけれど、どれだけ一気呵成に事を進めても、一定数、海へ逃れる者達がいることが予測されていて、港湾区域にどれほどの兵を割くか、ということも何度も話し合いがもたれていたのだ。

 その、海の民がどうしたというのだろう。

 「------水面下での折衝がまとまったらしい。今回の我らの戦を、海の民は‘静観する’とな」
 「・・・静観、ですか」

 曖昧な表現だけれど、その意味は?

 「海側へ逃げる者を、救助しない。常に行き交う定期船も止める。島への上陸もできないよう、島周辺の海上は封鎖する、と」
 「・・・それはまた」

 私は唖然とした。なんとまあ変わり身の早い。

 「兵を出さないだけで、グラディウスに味方すると言ってるようなものですね」
 「そのとおりだ、姫」
 「彼らの条件は?」

 オルギールは冷静に指摘した。
 確かに。利のために、長年のグラディウスとの友誼を無視してギルド長と組んだのだ。この折衝も、対価なくまとまったとは思われない。
 けれど公爵は、

 「それは、今知る必要はあるまい」

 と、あっさりと言った。

 「俺も詳しくは知らない。重要なのは、今回の件で、海からの攻撃は当然のこと、‘戦犯’どもが海へ逃げる可能性はほぼなくなった、という点だ。・・・だから、姫君。いや、トゥーラ准将」

 卓上で、きゅ、と手を握られたが、珍しく(といっては失礼だが)色めいたものではない。向けられた瞳には、初めてみる・・・鋭い、好戦的にさえ見る光が浮かんでいる。
 火竜の君ったら。ちょっと、いやだいぶ素敵、、、と思考が逸れかけたのを慌てて軌道修正して、私も真面目に、公爵の瞳を見返す。
 公爵はニヤリ、と笑んで、ひとことひとこと、私に言い聞かせるようにゆっくりと言った。

 「・・・存分に、暴れるがいい、准将。海側の心配をせずに、な」
 「承知致しました、閣下」

 私は頷いた。たしかに、この意味は大きい。早馬を飛ばすわけだ。
 でもそういえば。

 「------閣下、思いついたのですけれど」
 「どうした?」 
 「以前、外交努力をしているから、それがうまくゆけば、私の奇襲は不要ではないかとおっしゃいましたけれど」
 「このことだ、姫」

 あっと言う間に姫呼びに戻ってしまった。
 ・・・夜襲訓練のときだ。レオン様とオーディアル公が軽い言い争いになりそうだったのだ。

 「開戦前に、間に合ってよかった。多少、戦いやすくなるだろう」
 「仰せの通り。・・・ありがとうございます、閣下」

 なんと、黙って聞いていたオルギールが横合いから頭を下げた。
 これには、公爵も瞠目する。

 「なんだなんだオルギール、気味が悪い。・・・礼には及ばん、愛しい姫君のためだ」
 「せっかく良き知らせを下さいましたのに。最後の一言は蛇足でございましょう」
 「お前のためではないからな。本当のことを言ったまでだ」
 「本当のことでも、あえて口にはなさらぬほうが、品位を保つことが出来ようかと」
 「その程度の品位などいらん。愛しい姫を愛しいと言える機会は逃さない」
 
 勝手にやってくれ、と私は思った。ついでに言うなら、手も放してほしい。
 この人たちは、優しいのだけれど、基本、俺様なのでお願い事があったらしっかり口にしなくてはならない(口にしても、スルーされることも多々ある)。私ははっきりと、

 「お手をお放し下さいませ、閣下」

 と、まずは述べた。
 二人は次元の低い言い合いをやめて、こちらへ向き直る。

 「良いお話をお聞かせくださいまして、ありがとうございました。必ずや、ご期待以上の働きをお目にかけましょう。・・・で、閣下、早く手をお放し下さい」
 「・・・・・・」

 ここまでストレートに言うと、本来は生真面目なオーディアル公は無視できなかったらしい。意外にもおとなしく手を解放してくれた。------ただ、ちょっとだけ眉を下げて「そんなにお嫌か」と呟いているのが聞こえたので、気が咎めてしまったけれど。

 公爵は優雅に銀杯をあおって残った葡萄酒を喉に流し込むと、ようやく立ち上がって「そろそろ休むとするか」と言った。

 一番広い、公爵にあてがわれた部屋の「居間」で食事をしたので、私も自室に帰るべく、続いて立ちあがる。そして、オルギールも。
 やっと、お開き、おやすみなさい、の雰囲気だ。
 自然な感じでそれぞれ解散できるかな、ああよかった、と、安堵しかけた私に。

 「姫。・・・部屋まで俺がお送りしよう」

 懲りないオーディアル公から傍迷惑なお声がけを頂いた。

 不要です。部屋はお隣です。それに、いろいろな意味でかえって危険かと。
 ・・・っと、言わないとわからないのか、と公爵をジト目で睨んだら、

 「私がお送りしますので閣下はお休み下さい」

 オルギールはさらに傍迷惑なことを言い放ち、公爵を言葉で追い払った。
 そのまま、互いに静かに睨み合っている。ようにしか見えない。

 この隙に、ひとりで退室してもいいでしょうか。
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