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18.ハロウィンの夜の文化祭
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「……どういう意味だ?」
含みのある視線に気付いたレイが、真っ直ぐノエルを見据える。二人は暫く無言で見つめ合っていた。そのただならぬ空気感に、リックが割って入ろうと口を開く。だが、声をかけるよりも先に教室の扉が開いた。
「みなさん、お久しぶりです。此処から貴方がたの顔つきを見るに……、全員元気そうですね。誰ひとり欠けることなく登校してきたこと、嬉しく思います。早速ですが、このクラスの提出物管理は私が務めますので、呼ばれた生徒から前へ持って来てください」
教室に入ってきたのは、金髪の髪をベレッタで纏めた社会科の女性教師だった。レイが編入して来たとき、リックにローブを渡すように指示した先生である。
この学校には担任という概念がないため、学期始まりのホームルームや課題の収集などは、そのときそのときで教師が変わる。今日は社会科の先生のようで、教室がピリついた緊張感に包まれていた。厳しいと評判の先生だからだ。
名前を呼ばれた者から順番に課題を教卓の上に提出し、それと引き換えにプリントを渡される。この時期に渡されるプリントと言えばひとつだ。このあと、すぐホームルームになるのだが、そこで議題に上がる内容でもある。
生徒が次々と呼ばれ、リック、ノエル、最後にレイが呼ばれ、それぞれ同じ内容が書かれたプリントを渡された。レイは初めてだろうから、プリントの文字を読み、首を傾げている。
「今年も、十月三十一日はウェルズ校を挙げての文化祭です。クラスごとに出し物の申請を行ってください。また、部活ごとに出し物をする場合も忘れず今月末までに申請を出すこと。また、最後の仮装パーティーへの参加は自由としますが、特別事情がない限りは参加すること。それでは、あとはクラス内でよく話し合うように」
女性教師は必要なことを話すだけ話すと、提出物をカゴいっぱいに詰めて教室を出ていった。今日のビッグイベントは課題の提出と、文化祭に向けての話し合いだ。すぐに教室がざわつき、そこかしこで出し物を何にするかの話し合いが始まった。
「文化祭……というのは、なんだ?」
「あぁ、レイは初めてだったよな。この学校には毎年、ハロウィンの日に文化祭があるんだ」
「ウェルズの二大イベントのうちのひとつだよ」
「二大……? ということは、もうひとつあるのか」
「もうひとつは冬のプロムだよ。クリスマス・イブに毎年、プロムがあるんだ」
「実質、仮装パーティーのときもプロムとほぼ同じだけどね」
ハロウィンの夜も生徒が思い思いに仮装をして、ダンスパーティーに参加する。クリスマス・イブのプロムはもっとフォーマルなもので、こちらはほぼ全員強制参加だ。
本来、プロムは学年の最後に卒業イベントを兼ねて行うもの。だが、学年末だと進学や就職などで忙しいため、この学校では年内にプロムをやってしまう。就職組、外部進学組、内部進学組の三クラスが揃うタイミングが年内しかないからだ。
特に、就職組や外部進学組は行き先が決まると、卒業を待たずに退寮する者も多い。おまけに、年明けは登校日数も減るため、諸々の事情から毎年ハロウィンの文化祭とクリスマス・イブにダンスパーティーが開かれていた。
「その、プロムっていうのはなんだ?」
「そこからかよ……。プロムっていうのは、俗に言うダンスパーティーだ」
「うちのプロムはちょっと変わってて、男女のカップルじゃないと参加できない、みたいな決まりはないよ。ただし、ダンスを申し込むときは花を渡す」
「花……?」
「もう少ししたら各寮部屋に配られるんだけどよ。赤い薔薇の造花を踊りたいヤツに渡すんだ。で、受け取ってもらえたらダンスに参加できるって感じ」
「きっとレイくん、いろんな人から花を渡されるんじゃない?」
レイが女生徒から大量に赤い薔薇の造花を渡されるところを騒々して、リックはうげぇと顔を顰める。
レイは顔だけはいいから、ノエルの言う通りたくさん誘われるだろう。
基本的にプロムの会場内に入るのは自由だ。そこが普通のプロムとは違う。ただし、ダンスに参加するためには花を贈り合う必要がある。そして、ダンスに誘うのはよっぽどのことがない限り男女のペアであることが多い。というより、同性のペアで踊っているところを見たことがない。最後の最後にバカ騒ぎしながら会場の端を占拠して、友達同士で自由に踊っているようなグループもあるが、基本的に薔薇の花を渡すのは男女間であることが暗黙のルールだ。
だからというわけではないが、この時期になると熾烈な争いが繰り広げられる。今年はレイがいるため、誰の花を受け取るのか、また誰に花を渡すのかで一悶着あるだろう。
性格クソ野郎かつ人ですらないこの男が異性にモテているところを見るのは、正直気に食わなかった。
「あまり興味がないな」
「まぁまぁ、きっと楽しいよ」
「それはノエルだからだろ……。お前、めちゃくちゃ渡されてたじゃん」
「そうだったっけ?」
「とぼけんなよ」
ノエルはこれでもモテる方だ。一方のリックは踊ってるノエルを眺めるポジションで、終始料理をつまみながら、壁の花を決め込んでいたが。
「リックも渡されてなかった?」
「あー……まぁ、何本か渡されたけど、余ったからって言われたぞ?」
「それ……絶対、ガチなヤツだと思うけどね」
ノエルが呆れ交じりのため息をつく。
リックはあまり女子と交流しない。だが、成績もよく、スポーツも割とできる方だ。見目も整っていないわけではない。しかしながら、普段から異性と交流しない分、取っ付きにくさがあるのか、面と向かって寄ってくる女子はいなかった。そのため、リック自身はモテていないと思っている節がある。
そう冷静にノエルは分析するも、それを本人に言うつもりはなかった。
「ま、そのときが来たら考えりゃいい。問題は仮装用の衣装集めと、クラスの出し物だな」
「今年はどうなるだろうねぇ」
一応、クラス委員長なるものが存在している。委員長は、ある程度、場が温まったところで教卓の前に出ると、生徒から意見を聞き出していた。
カフェ、お化け屋敷、映画の上映会、などの意見を黒板に書き連ね、最後は多数決を取ることになる。今年はあっさりとカフェに決まった。
レイがいるから、とびきり綺麗な衣装を着せて、執事喫茶にしようという魂胆らしい。当の本人はカフェすらも興味がないのか、なんでもいいと了承していた。
「そんなあっさり決めていいのかよ?」
「別に。なんでもいい」
「あっそ。つーか、お前が給仕するとこ、想像つかねぇ」
「なんだと?」
「だって、ずっと仏頂面じゃねぇか」
「……そうか、分かった。お前には熱々のコーヒーを頭からかけてやろう」
「冗談だって」
クラスの出し物も決まり、あとは一ヶ月半後に迫る文化祭に向けてそれぞれ役割を与えられる。
今日は必要な決め事も終わったので解散となった。早速、レイの元に女子たちが集まる。きっと話題はパーティーのことだろう。
リックはレイの邪魔にならないよう、ノエルと共にそっとその場から退散した。
含みのある視線に気付いたレイが、真っ直ぐノエルを見据える。二人は暫く無言で見つめ合っていた。そのただならぬ空気感に、リックが割って入ろうと口を開く。だが、声をかけるよりも先に教室の扉が開いた。
「みなさん、お久しぶりです。此処から貴方がたの顔つきを見るに……、全員元気そうですね。誰ひとり欠けることなく登校してきたこと、嬉しく思います。早速ですが、このクラスの提出物管理は私が務めますので、呼ばれた生徒から前へ持って来てください」
教室に入ってきたのは、金髪の髪をベレッタで纏めた社会科の女性教師だった。レイが編入して来たとき、リックにローブを渡すように指示した先生である。
この学校には担任という概念がないため、学期始まりのホームルームや課題の収集などは、そのときそのときで教師が変わる。今日は社会科の先生のようで、教室がピリついた緊張感に包まれていた。厳しいと評判の先生だからだ。
名前を呼ばれた者から順番に課題を教卓の上に提出し、それと引き換えにプリントを渡される。この時期に渡されるプリントと言えばひとつだ。このあと、すぐホームルームになるのだが、そこで議題に上がる内容でもある。
生徒が次々と呼ばれ、リック、ノエル、最後にレイが呼ばれ、それぞれ同じ内容が書かれたプリントを渡された。レイは初めてだろうから、プリントの文字を読み、首を傾げている。
「今年も、十月三十一日はウェルズ校を挙げての文化祭です。クラスごとに出し物の申請を行ってください。また、部活ごとに出し物をする場合も忘れず今月末までに申請を出すこと。また、最後の仮装パーティーへの参加は自由としますが、特別事情がない限りは参加すること。それでは、あとはクラス内でよく話し合うように」
女性教師は必要なことを話すだけ話すと、提出物をカゴいっぱいに詰めて教室を出ていった。今日のビッグイベントは課題の提出と、文化祭に向けての話し合いだ。すぐに教室がざわつき、そこかしこで出し物を何にするかの話し合いが始まった。
「文化祭……というのは、なんだ?」
「あぁ、レイは初めてだったよな。この学校には毎年、ハロウィンの日に文化祭があるんだ」
「ウェルズの二大イベントのうちのひとつだよ」
「二大……? ということは、もうひとつあるのか」
「もうひとつは冬のプロムだよ。クリスマス・イブに毎年、プロムがあるんだ」
「実質、仮装パーティーのときもプロムとほぼ同じだけどね」
ハロウィンの夜も生徒が思い思いに仮装をして、ダンスパーティーに参加する。クリスマス・イブのプロムはもっとフォーマルなもので、こちらはほぼ全員強制参加だ。
本来、プロムは学年の最後に卒業イベントを兼ねて行うもの。だが、学年末だと進学や就職などで忙しいため、この学校では年内にプロムをやってしまう。就職組、外部進学組、内部進学組の三クラスが揃うタイミングが年内しかないからだ。
特に、就職組や外部進学組は行き先が決まると、卒業を待たずに退寮する者も多い。おまけに、年明けは登校日数も減るため、諸々の事情から毎年ハロウィンの文化祭とクリスマス・イブにダンスパーティーが開かれていた。
「その、プロムっていうのはなんだ?」
「そこからかよ……。プロムっていうのは、俗に言うダンスパーティーだ」
「うちのプロムはちょっと変わってて、男女のカップルじゃないと参加できない、みたいな決まりはないよ。ただし、ダンスを申し込むときは花を渡す」
「花……?」
「もう少ししたら各寮部屋に配られるんだけどよ。赤い薔薇の造花を踊りたいヤツに渡すんだ。で、受け取ってもらえたらダンスに参加できるって感じ」
「きっとレイくん、いろんな人から花を渡されるんじゃない?」
レイが女生徒から大量に赤い薔薇の造花を渡されるところを騒々して、リックはうげぇと顔を顰める。
レイは顔だけはいいから、ノエルの言う通りたくさん誘われるだろう。
基本的にプロムの会場内に入るのは自由だ。そこが普通のプロムとは違う。ただし、ダンスに参加するためには花を贈り合う必要がある。そして、ダンスに誘うのはよっぽどのことがない限り男女のペアであることが多い。というより、同性のペアで踊っているところを見たことがない。最後の最後にバカ騒ぎしながら会場の端を占拠して、友達同士で自由に踊っているようなグループもあるが、基本的に薔薇の花を渡すのは男女間であることが暗黙のルールだ。
だからというわけではないが、この時期になると熾烈な争いが繰り広げられる。今年はレイがいるため、誰の花を受け取るのか、また誰に花を渡すのかで一悶着あるだろう。
性格クソ野郎かつ人ですらないこの男が異性にモテているところを見るのは、正直気に食わなかった。
「あまり興味がないな」
「まぁまぁ、きっと楽しいよ」
「それはノエルだからだろ……。お前、めちゃくちゃ渡されてたじゃん」
「そうだったっけ?」
「とぼけんなよ」
ノエルはこれでもモテる方だ。一方のリックは踊ってるノエルを眺めるポジションで、終始料理をつまみながら、壁の花を決め込んでいたが。
「リックも渡されてなかった?」
「あー……まぁ、何本か渡されたけど、余ったからって言われたぞ?」
「それ……絶対、ガチなヤツだと思うけどね」
ノエルが呆れ交じりのため息をつく。
リックはあまり女子と交流しない。だが、成績もよく、スポーツも割とできる方だ。見目も整っていないわけではない。しかしながら、普段から異性と交流しない分、取っ付きにくさがあるのか、面と向かって寄ってくる女子はいなかった。そのため、リック自身はモテていないと思っている節がある。
そう冷静にノエルは分析するも、それを本人に言うつもりはなかった。
「ま、そのときが来たら考えりゃいい。問題は仮装用の衣装集めと、クラスの出し物だな」
「今年はどうなるだろうねぇ」
一応、クラス委員長なるものが存在している。委員長は、ある程度、場が温まったところで教卓の前に出ると、生徒から意見を聞き出していた。
カフェ、お化け屋敷、映画の上映会、などの意見を黒板に書き連ね、最後は多数決を取ることになる。今年はあっさりとカフェに決まった。
レイがいるから、とびきり綺麗な衣装を着せて、執事喫茶にしようという魂胆らしい。当の本人はカフェすらも興味がないのか、なんでもいいと了承していた。
「そんなあっさり決めていいのかよ?」
「別に。なんでもいい」
「あっそ。つーか、お前が給仕するとこ、想像つかねぇ」
「なんだと?」
「だって、ずっと仏頂面じゃねぇか」
「……そうか、分かった。お前には熱々のコーヒーを頭からかけてやろう」
「冗談だって」
クラスの出し物も決まり、あとは一ヶ月半後に迫る文化祭に向けてそれぞれ役割を与えられる。
今日は必要な決め事も終わったので解散となった。早速、レイの元に女子たちが集まる。きっと話題はパーティーのことだろう。
リックはレイの邪魔にならないよう、ノエルと共にそっとその場から退散した。
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