転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

iBuKi

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第二章 皇帝はシスターコンプレックス。

誰得のノーマルエンド。

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 乙女ゲーム『too much love ~溺愛されて~』において、非常に高難度のシークレットキャラである“隣国の皇帝シュヴァリエ”
 ぞっとする程に麗しく女性よりも美しい美貌に対して、猫型肉食獣のようにしなやかさと強靭さを兼ねる引き締まった肉体、その肉体から繰り出される剣技と膨大な魔力をもって最上級の攻撃魔法を自在に操る人外級の強さ、性格以外は全てにおいてパーフェクトの男だった。
 フワフワした乙女ゲームよりも、少年向けRPGゲームのラスボスとして登場した方がしっくりするような存在である。


 そんなラスボス感が漂う若くして皇帝であるシュヴァリエが、ソニエール王国へ留学生として身分を隠し王立学院へとやってくる。

(えっ、皇帝のお仕事は…? というのは、ご都合主義満載の乙女ゲームなので忘れて頂きたい。)

 最終学年へ編入した留学生であるシュヴァリエ。
 それは異例中の異例で、その留学生であるシュヴァリエに周りは色めき立つ。
 まして匂い立つような色香を持った美貌は、上も下も学年関係なく女子生徒は魅了しされたようにウットリと見つめた。
 一部の男子生徒も惚けたようにシュヴァリエを見つめている姿が確認され、男女問わず魅了されていると密やかに噂される程。

 渦中の当人は騒がれれば騒がれる程に冷ややかさが増し、接点を持ちたいと擦り寄る者を酷く冷たい目で睥睨し威嚇した。

 大国ヴァイデンライヒの皇帝が、隣国とはいえ重要国でもないソニエールへ何の目的を持って留学したのは不明ではある。

 目的は謎ではあるが、学園へと意外と真面目に通うシュヴァリエ。
 毎日その姿を見る女生徒の中には、シュヴァリエが許容する一定の距離感を守らない貴族令嬢がチラホラと出てきた。
 それは末端の下位貴族に多く見られ、シュヴァリエが帝国の皇帝としての身分を明かしていない事もあり馴れ馴れしく触れようとする者が後を立たなかった。
 それを笑ってスルー出来る程にシュヴァリエは性格良くない。
 伸ばされた手を容赦なく叩き降ろし、その令嬢の家と学園へ、厳重な抗議文が送られた。
 生徒に身分は隠しているが、学園には一応知らされている。
 ゲームには冷たい態度と対応をした的に語られていたが、きっと送られた学園は恐怖に震えたことだろう。
 貴族令嬢の家へも、何故か学園から謹慎処分と厳重な抗議が届いた為、二度とシュヴァリエに近づく事も視線を向ける事もなかっただろう。

 …まぁ、ゲーム内ではそこまで詳しくは語られていない。


 私からすると、苛烈な制裁を受けなかっただけマシ。ここがヴァイデンライヒ帝国ではなく、ソニエールだった事で令嬢達は非常に運が良かったねと思う。



 誰とも交流を持たず、近付く者を冷たくあしらい時には厳重に抗議される様は、目立つ存在であったシュヴァリエだからこそ瞬く間に噂となって、事実と認識された。

 そんなシュヴァリエとは、身分差関係なく誰にでも平等に接するヒロインも交流しづらい。

 何の接点もない日々が幾日も過ぎたある日、ヒロインと急接近する事件が起こる。

 原因の説明もなかったが、シュヴァリエが魔力を暴走させる事件が起こる。
 膨大な魔力を持つシュヴァリエが起こす暴走は当然のこと凄まじく。
 このままでは学園ごと吹き飛ぶのではないかと皆が恐怖に震え、何も出来ずにただ脅え蹲ってその悲惨な最期を待つだけの状態の時。

 魔力暴走を引き起こしたシュヴァリエに、ヒロインは体に傷を負いながらも近づいていった。
 そして、ヒロインだけが持つ特性で(ここら辺が記憶が曖昧)助ける事が出来て…?

 それから急激に距離が近付くシュヴァリエとヒロイン。
 魔力暴走で静養する事を余儀なくされたシュヴァリエの元へお見舞いに訪れたりする。
(その時、お見舞いに持って来た林檎をウサギさんの形に切ってシュヴァリエに渡すヒロインに、初めてシュヴァリエが微笑みを向けるんだよね。)

 以前と比べ周囲が驚くほどにシュヴァリエの表情は柔らかい。
 心を許す相手に向ける無防備な笑顔を向けられるヒロインは、頬を真っ赤にさせてシュヴァリエにせつない思いを抱く。

 誰よりも近い距離、学園でも共に過ごす時間は増えるばかり。
 お互いの距離がかなり近づいた気がして嬉しいヒロイン。
 このまま順調にハッピーエンドを迎えそうな雰囲気を醸し出す二人。

 ―――そこで語られるシュヴァリエの過去。

 シュヴァリエにはずっと大切に共に成長した最愛の妹が居て、その妹が亡くなった事。
 殺した相手は●●だという事を打ち明けられる。

 驚き恐怖するヒロイン。
 しかしヒロインはもうシュヴァリエを愛し始めていた為、その恐怖に打ち勝つ。
 過去は過去だと。今は今なのだと。

 そこで分岐が訪れ、シュヴァリエがある真実を知ればバッドエンド。
 その真実を知ったヒロインが誰に漏らす事もなく、シュヴァリエに知られる事のないままに闇に葬る事が出来れば、ノーマルエンド。

 そう…このシークレットキャラ、ハッピーエンドがない。
 溺愛が無いのだ。溺愛されるゲームなのに。
 誰得………と、プレイしながら思ったものだった。

 ノーマルエンドを達成出来たヒロインは、ヴァイデンライヒ帝国皇帝シュヴァリエの側室となった。
 そこは正室じゃないの!? と思ったが、これもノーマルだからかもしれないと、もやっとはしつつも納得した。
 大輪の花のような幸せそうな笑顔で隣に立つシュヴァリエに寄り添い婚姻の儀の後、帝国民にお披露目されるヒロインに、酷く冷めた目でぼんやりと遠くを見る様な眼差しのシュヴァリエとのスチル……

 マジで誰得なの……というエンド。

 やっぱり、妹を殺された時に感情を無くしたのかもなー…

 と思った所で、体中から血の気が引いた。

 ――――あれ? そいえば私、そのシュヴァリエの妹だったんですけどーーー!!

 ゲームの中で語られる事の無かった、帝国の皇帝としてのシュヴァリエ。


 煌めく白金の髪と色素の薄い白い肌、完璧な対比を誇る美貌、引き締まったスラリとした体躯を持つシュヴァリエは、
 年齡性別関係無く魅了された。
 しかし、どんなに胸を焦がし望もうとも、誰ひとりとして近付く事は許されない。
 シュヴァリエは人嫌いで有名であった。
 残酷で冷徹な性格のシュヴァリエは、己に近付く人間には容赦がなかった。

 歴代最高の魔力量を誇り、その手から放たれる強大な魔法は1万の兵を屠る事が可能な程強力だという。
 剣技でシュヴァリエに敵う者も帝国にはおらず、
 世界最高峰の武力を誇る帝国の騎士で太刀打ち出来なければ、それは実質世界最強なのであった。

 シュヴァリエの美貌に目が眩み、どんなに色が滲んだ目を向けようとも、世界最強の男に近づける筈もない。
 女にも男にも興味は無く、皇帝としての政務と戦地へ赴くばかり。
 貴族からは恐れと崇拝の念を持たれ、民からは慕われた。

 シュヴァリエの施政の帝国は格段に裕福になり栄え、かつての栄華を取り戻した。
 更に栄えようと発展しているこの国、間違いなくシュヴァリエが居てこそであろう。
 戦地を駆け、国を守護し、民を飢えから守る。
 慕われない訳がない。
 冷酷で残虐な皇帝と他国から言われようとも、ただの妬み嫉みだと一蹴する。
 シュヴァリエは、我が国の守護神の如き皇帝であると口々に話した。



 ――――とある令嬢が起こした事件がある。
 シュヴァリエの年齡が15を迎えた、皇帝の生誕の宴が開かれた祝賀の夜。
 華麗な花々が夜会を彩り、豪華絢爛の宴。

 溢れんばかりの数の花々が皇帝の目に留まる事を望み、期待するように頬を染めながら貞淑さを装いつつも、焦がす程の熱い火を宿し燻った秋波を向ける。
 いつもの事ながらシュヴァリエは花々に目線すら向けない為、誰もが動く事も出来ず互いに互いを牽制しながら様子を伺っている事しか出来ない状態の中―――

 自分の魅力を過信した令嬢が父親を伴いシュヴァリエに近づいた。
 皇帝への挨拶は一通り済まされており、これは重臣であるが故の特別な恩恵といった所であった。
 帝国への貢献度が高い重臣は、挨拶後も皇帝の傍へ侍り会話をする事を、歓迎こそしていないが、シュヴァリエは許していたのである。


 誕生の喜びと祝福を告げ、厳しく教育された最上級のカテーシーを披露する。
 隣で忠誠を示す様に深く首を垂れたままの父に並ぶ。
「陛下、発言の許可を願えますか?」と尋ね「許可する」のやり取りの後、
 父親が「有難く存じます。今宵は―――」とシュヴァリエの生誕を喜ぶ祝辞を挨拶時よりも長めに述べ、帝国の繁栄の喜びで締めくくった。
 父親は重臣らしい態度で皇帝との会話を恙なく終えた。

 そして、そのまま静かに去るかと思われた。

 父親の隣でシュヴァリエへ蕩けるような熱い視線を向けていた令嬢は、シュヴァリエへの発言の許可を貰わぬままに、突如こう言った。
 許可を得ず発言をした令嬢を隣に居る父親が慌てて制すも、時すでに遅し。
 皇帝と自分の娘と何度も視線を往復させながら、神に祈る。

「僭越ながら陛下…宜しいでしょうか。
 わたくし、幼き頃よりずっと…帝国の太陽である高貴な御身を持つ陛下の事を…
 特別にお慕いしておりました。
 今宵、陛下も成人を恙なく迎えられたこの素晴らしい良き日。
 一日千秋の思いで待ち続けたこの瞬間、眩しい太陽に焼かれながらも、焦がれ続け慕い続けた忠実なる臣に、どうか一夜のお情けを下さいませんか。」

 言葉は随分へりくだっているものの、言ってる内容は「成人したのだから身体の関係になりたい」である。

 シュヴァリエの人となりを知っていなかったとしても、皇族に夜会であり皆の目がある場での発言としては、不敬どころの話ではない。

 皇帝の生誕を祝うこの場で、皇帝のお気に入りとして日頃から傍に侍り望まれているような前置きがある訳でもないのに、父親が重臣であるという事をかさにきて図々しくも寵を強請ったのだ。

 絶対権力を持つ、人間嫌いで有名な皇帝に。

「お、おまえ……っ」

 令嬢の隣で恐怖に震えた父親が、娘を咎めようと声を上げる。

 それをシュヴァリエは片手で制し、

「連れて行け」

 と、背後に立つ騎士に淡々と指示した。

 愚かな人間は、現状把握能力も劣るらしい。
 己の念願の思いが聞き届けられたと思ったのだろう。
 令嬢は歓喜の声をあげ喜々として騎士に着いて行く。

 父親は去っていく娘を唖然として見送り、力なくその場に跪いた。

 絶対零度の射抜く様な眼差しでそれを眺めながらシュヴァリエは述べた。

「あの女はもう居ないものと思え。明日にはこの世には……わかるな?」

 何かを悟り、ガタガタと震え青い顔をした父親へと告げる。

 シュヴァリエのパパラチアサファイアの瞳がギラリと光った。

 ――――翌日、令嬢は処刑された。


 身も凍る話だが、民は「皇帝に無礼を働いたのだから処刑も妥当」となる。

 悪政に蹂躙された反動で盲目的に信望されている。

 愚かな令嬢の愚かな行動は、美しい皇帝へ色めき立った令嬢達への良い牽制となった。

 ――――何のエピソードなのコレ。
 ゲームにこんなシーンありませんでしたけど!?
 いやー、翌日に処刑。うん、怖すぎ。
 牢屋に一日過ごして貰って反省を促させ、翌日父親に迎えに来て貰うくらいで良かったのではないだろうか。
 それでも、あれだけの観衆がいる中での失態は貴族令嬢としては終わっただろうけど、領地で静養をするという名の元に厳重に軟禁して騒ぎが落ち着いた頃辺りに、望んでくれる危篤な方がいればどこかの後妻にでも入れるとか、無理なら修道院にでも行って頂くとか。
 処刑はやり過ぎだったんじゃないですかね? シュヴァリエさん。

 ―――それにしても、このエピソードこれから起こる事なんだろうか…。
 ええー、怖い怖すぎる。
 名前なんだったっけ…発言してたよね? 思い出せないけど挨拶時でも多分してたよね?
 名前が思い出せるなら、シュヴァリエの十五歳の生誕の夜会でその令嬢を止める事が出来ないかな!?
 処刑なんてめっちゃ後味悪い事シュヴァリエさんにされても嫌だしね!?

 …はぁ、それにしてもまだ目が覚めないのかしら。
 何の力が働いて私はこんな黒歴史を見させられてるの…。

 ロリコンの変態が寝室に侵入して来た!と思ってたら、兄のシュヴァリエだし。
 そこから意識が無くなったのか、あの騒動をアンナたちがどう納めたのか、私はどうなったか、今の所わかんないし。
 ―――まぁ、私が意識があった所で、あの大騒動の中をどうにか出来る腕もないんだけども。

 さっきから、ずっと大きな画面でシュヴァリエのゲーム映像を強制的に見させられてる様な感じなんだけど。

 これ、夢の中だよね…?

 ……視界が暗くなる寸前、シュヴァリエと目がしっかりと合ったのだけ覚えてる。
 綺麗な目を真ん丸にして驚いてたっけ。
 口までポカンと開いてたような…ふふっ。

 と、思いだし笑いを漏らした所で、夢の中であろう視界がグワングワンと眩暈を起こしたように揺れた後にまた暗転し、夢の中でも意識を失った。

 ――――アレ? 夢の中なのに意識失うのーー!?

 今度は何が起こるんだと不安を感じながら、暗闇に意識を呑み込まれた。
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