転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

iBuKi

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第二章 皇帝はシスターコンプレックス。

羞恥で人は死ねませんか?

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 暗闇の中で灯りをパッと点けるように意識が醒めた。
 寝不足とは違う倦怠感を感じる体を身じろぎする。
 開く事がやけに億劫な重い瞼を持ち上げ見上げた目線の先は、天蓋ベッドの天井。

 うん、コレが今の私の現実。
 日本に住んで生活していた私は前世の私で、今の私は前世でプレイしていたゲームの中の人になっちゃってる。
 ――しかもモブ。
 それもめちゃ怖い渾名の兄付き。

 眠気なんだろうか? 思考が霞むようなボンヤリとしたものが残る頭で、夢の中で見たシュヴァリエを思い出す。

 夢だったと思うけれど、強制的に見させられたやけにリアルなアレコレは、これから起こる未来なのかもしれない?

 余り楽しそうでもないヒロインのノーマルエンド、そして、貴族令嬢の処刑…
 夢で見させられたにしてはとてもリアリティがあった。

 そういえば、ゲームの絵面だったなヒロインとのノーマルエンドの映像は。

 そして貴族令嬢のはリアルな映像だった。

 玉座に座り、物凄く冷たい目で周りを睥睨する姿は、血塗れ皇帝に相応しい覇気みたいなものを見てるだけの私でも感じる姿だった。

 あんなに冷たくて怖い表情してるのに、令嬢はよく「私と寝て下さい」と言えたよね…
 強心臓過ぎでしょ…逆にお似合いなんじゃないの?あの姿のシュヴァリエなら。
 隣のお父さんあんなに震えて…心臓発作でも起こすんじゃないかと思った。

 もし、シュヴァリエがあんなになるなら、国外逃亡一択だわ。
 分かって貰おうとか、シュヴァリエを家族愛の力でとか思わない。
 無理、あんな怖い顔。
 あんな表情して冷たい事言われたら、泣く。絶対泣く。

 処刑を決めた時のあの顔、今思い出してもこわっ! 怖すぎるっ!
 どこからどう見ても、アレは魔王だった。魔王に相応しい血の通ってるのが不思議な程に冷たい顔をしていた。

 凄い綺麗なんだけど、全く表情が無いと綺麗な分だけ人外感が増してた。
 …あんなんが十五歳だなんて絶対信じないわ。

 ハーッと溜息をついてコロンと寝返りをうつ。

 ――乙女ゲームの世界なのに、その世界に私が転生してるだなんて…。

 ふっつーに信じられない。
 じゃあ前世でプレイしていたゲームは何なんだ。
 制作した会社もあったし、制作秘話的なスタッフインタビューも読んだ。
 作られた物であるのに、その世界に生まれるとかある…? 
 訊いたこともないし、恐らくない。
 小説とか、漫画とか、ゲームとか…制作物で最近人気な設定とはいえ、現実に起こるとか…有り得ないよね?

 頭では否定したいけれど、現実が認めろと知らしめてくる。

 私が転生したこの世界は、
 乙女ゲーム『too much love ~溺愛されて~』の世界で多分間違いない。

 アンナから隣国の名前は聞いていた。
 私がこの国の説明をアンナに教えて貰ってる時に出てきた国名だ。

 国名見て何で思い出さなかったんだ?とは思うけど。
 前世でコンプリートしたゲームの世界なんて有り得ない!という思い込みが記憶に蓋してたのかも。

 だって、だってさ? 世界すら違うとこで発売されていたゲームの世界が、登場人物の名前そのまんまで現実にあるなんておかしいよね?

 おかしいけれど…調べてみればキャラ名も国名もそのまんまだし、シュヴァリエが十歳で皇帝に即位するのも同じだ。
 その事は、似た様な世界ではないという証。

 後でしっかりと調べるつもりだけど、隣国の王子様の名前もきっとゲームと同じな気がする。
 間違いなく、ここは『too much love ~溺愛されて~』の世界だと思えてならない。


 ハァァァァ…

 長い長い溜息が出る。


 ゲームの舞台は隣国だし、シークレットキャラは隣国の皇帝とか…

 そして、最も大事で重要な事を、夢の中のシュヴァリエはヒロインに打ち明けていた。

 妹 が 殺 さ れ た 事。

 私が意識を失う前にアンナは言っていた――――

「ヴァイデンライヒ帝国、次期皇帝陛下の、シュヴァリエ・ヴァイデンライヒ様、ですね。
 ええ、間違いなく、姫様の兄君ですよ。」

 ――――と。



 言ってたね………アンナ………

 思わず遠い目になる。


 そもそも妹が殺されたっていうのは、トップシークレットで、シュヴァリエ自身が打ち明けなければ判明しない。
 ヒロインの事を信頼して初めて真実を語るのだ。

 いつ死んだかの描写は、シュヴァリエが留学を決める時の回想シーンで出てきた筈。
 色のない白黒の映像の中、シュヴァリエのモノローグで語られていた。

 …あれは何と書いてあったのか。

「シュヴァリエは留学を決めた。
 ずっと気になっていた国だった。
 特に最近は酷く気になる。
 妹が留学する予定の国だった。
 それだけの国が何故こんなに気にかかる?

 妹の最期のあの瞬間を何度も何度も思い出す。
 もう二年経つというのに、シュヴァリエはそこから動けない。
 戻れるなら全て差し出しても構わないのに、時は戻らない。
 あの時あの瞬間の後悔を幾度嘆いた事だろう。
 妹はもうこの世界の何処にも居ない。
 逢いたいと思っても二度と逢えない。
 死んでしまった。消えてしまった。
 その時、己も死んでしまったのだと思う。
 何も感じない。
 何も。
 私は愚帝になるのか。
 もう何も望んでないというのに。」


 そらんじてみればスルスルと淀みなく出てきた言葉達。
 私の脳どこかから交信でもしてた?と疑いたくなるくらい。

 ――――留学の二年前。
 シュヴァリエは十八歳で隣国へ行くという事は、十六歳で…?

 5歳下である私は十一歳で死ぬの!?

 ええ…めっちゃ若い……
 私、今五才だから、後六年しか生きられない。
 誰が殺しに来るのよぉ……うぅ……


 涙が出そうになり、ぐっと眉間に力を入れた。
 泣いてる場合じゃないわ、黙って殺されるもんですか。


 この世界には魔法がある!私は皇族だからきっと魔力も多いはず!
 だって最強シュヴァリエの異母兄妹なのだから、父が一緒なら私にも魔法の才能は少しでもある筈。
 気合いと共に何もかもポジティブ思考で考えていく。


 まぁでも…実際のところ、兄とはいえシュヴァリエは最強魔王だから比べる対象にはならない。

 それでも、魔法騎士並に強かったら、為す術もなく殺される事はないだろう。
 やり方次第では相手を戦闘不能状態くらいには持っていけそうだ。
 十一歳の子供に暗殺に長けた者が来るわけだから、運も味方しないと無理かもしれないが。

 暗殺に長けたという所で昏い思考になりそうな自分に気付き、ブンブンと左右に頭を振る。

 すぐ暗くなっちゃだめだ。シナリオ通りに進むとするならば、未来の自分の行方は分かっているのだから。
 そして、それは、今、の事ではないのだ。
 そうよ、まだ六年あるんだわ!
 その間にめちゃめちゃ鍛えるのよ、魔法を。


 やってやるのよクラウディア、暗殺者に目に物見せてやるんだから!!!



 いつの間にかベッドの上で立ち上がり、右手に拳を作り突き上げていた。

 ――――興奮しちゃった。はずかしっ

 振り上げた拳を下ろし、何となく周りを見回した。

 1人掛けのソファに気怠げに座り、肘当てに肘をついてこちらを見るシュヴァリエが居る。
 パパラチアサファイアの瞳が見開かれていた。
 珍種の生き物を見てしまった。とでも語る様だ。


 ――――今の見てました……よね?

 頬が全身が燃える様に熱くなる。意味不明の汗がダラダラと額に浮かぶ。

 ――――何で居るの………。

 羞恥で人って死ねないのかな…。
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