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第三章 クラウディアの魔力
専属護衛騎士達、全員要ります…?
しおりを挟むクラウディアは姿見の前でわざと鼻に皺を寄せてみた。
(The麗しのお姫様って感じの仕上がりになったなぁ。クラウディアの容姿だけはモブの癖に超絶スペックよね。母親が傾国の美姫だなんて呼ばれて容姿だけで側室になったような人だしな。それに似てればモブでもこんな仕上がりになるのかな。)
容姿が綺麗なのは助かる。
何を着てもそれなりに似合うから選びたい放題だし、綺麗な姿はやっぱり嬉しくなるし楽しい。
それに、兄があの美貌のシュヴァリエだもん、隣に並んで霞むのは寂しいもんね。
美しい仲良し兄妹なんて言われたいし。
美しい兄と平凡な妹なんて、いじける未来しか思い浮かばないじゃないか。
クラウディアは鼻に皺を寄せたって、頬を膨らませたって、すっごく可愛い。
くるりと目を回して見せたって――――
「姫様…?」
アンナからちょっと冷たい空気が漂ってきたので、表情を慌てて引き締めた。
―――今日はリアスとディルが隣国へと帰国する日。
当初、攻略対象者だから妙に緊張しちゃったり、何が起こるか分からないから関わり合いになりたくないなんて思って、なんかゴメンね。
お茶会で仲良くなって、その後の晩餐でも一緒に話せて昼間に出来なかった事も出来たし、気安いニックネームで呼び合ったのが良かったのかな?
まるで長年の友人のように気楽に会話出来た。
二人とも男の子だけど美少年だから中性的で、緊張しなかったのもあるかも。
盛り上がった気持ちそのままに、
「明日のお昼、私が凄くおススメしたいお菓子を用意するから、私のお茶会に来て下さる?」ってちょっと外交っぽい事をしてみた。
二人ともふわっと微笑むと「仰せのままにお姫様。」って参加してくれる事になって、うわー王子様二人も招待したお茶会なんてテンションあがるぅー! と喜びと緊張が半々くらいになりながら、アンナに準備の手伝いをお願いした。
「姫様、仲良くなられたとはいえ他国の王族を二人もお招きしてのお茶会。粗相のないように少し予習しましょうか」とか言われるかと思ってたけど―――
「お披露目の時と、晩餐と……さらに明日の姫様個人的なお茶会……流石に危険ではないでしょうか、姫様。」と真剣な顔で中止にしましょうと提案された。
なぜ……? スイーツ片手に和やかなお茶会を予定しているけれど、何かあるの…?
アンナに訊いても、アンナは「姫様、世の中には知らない方が幸せな事があるのですよ」って言われて教えてくれなかった。
理由が分からないなら、別に開催してもいいでしょ。と、強行したお茶会は、
物々しい数の護衛が左右に配置された室内での、苦行のようなお茶会になった。
リアスとディルの顔色も心なしか青褪めてたし…何で急にこんな物騒な感じなのか謎過ぎる。
おススメのお菓子も特別お気に入りのお茶も、何だか味がしなかったよ。
こんな環境下でゆっくりするのも辛いし、護衛達の距離が近いし、早い解散になっちゃったもん。
二人に悪い事しちゃったな。
それにしても、私専属の護衛騎士達――
あれあの場に全員居たんじゃないの?
時間と曜日で誰と誰が今日は護衛に付くとか、スケジュール組まれてたはずだし、専属とはいっても、私の護衛以外にも仕事ある筈だけど。
あんなに勢ぞろいで大丈夫だったのか、とっても心配。
そして迎えた本日――――
寂しくなっちゃうな…せっかく仲良くなれたのに。
お見送りだけだからそこまで着飾らなくてもいいよって遠慮したのに、
「帝国の掌中の珠である皇女殿下として恥ずかしくない装いが大切なのです。権威には責任が伴います。相応しい装いと振る舞いは皇族として大切ですよ。さぁ姫様おとなしくしていて下さいね」
アンナと三人娘にギラギラした笑顔で囲まれて、朝食後に最初に連れ込まれた浴室で「湯あみなんて必要なの…?」と及び腰になりつつ尋ねたけど、
全てスルーされた後、徹底的に磨き上げられ、そして、今、全身鏡の前で最終チェックをされている。
「まるで地上に舞い降りた天使のようですわ、姫様!」
モニカが私の髪を仕上げとばかりにブラッシングして艶を出し、うっとりと呟いた。
「天使というより、世界で一番美しい花の妖精みたいですわ!」
スザンヌがキリっとした顔で断言する。
「まぁ! 二人ともそんな姫様の美しさの足元にも及ばない対象物と一緒にしないで頂きたいわ。姫様は唯一無二、どれにも例えようがない程の美姫なのですよ!」
金の巻き毛を弾ませてバーバラが二人を窘めるように話す。
着飾るたびに褒めてくれるのは嬉しいけど、今日は何か変だよ?
「あ、ありがとう。」
白いシフォンのドレスは薄い布地を花びらのように幾重にも重ねる事で、フワフワとボリュームが出て、ドレス自体が一輪の花を彷彿とさせる仕様だ。
裾と袖口にあるピンク色の部分が先に向かうごとに淡いピンクから濃いピンクへとグラデーションになっていて、とても可愛らしいドレスだ
胸元には大輪の花の刺繍が左胸側を起点に斜めに施されている。
その刺繍も手が込んでいて、左胸の起点は淡いピンクの刺繍糸で、少しずつ濃淡をつけて右腰まで斜めに施されている。
繊細で緻密な刺繍はとても綺麗で、私の好みドストライクのドレスにテンションも上がってきた。
「そろそろお時間です、姫様」
アンナの声掛けに振り返ると、クラウディアはピシリと硬直した。
「アンナ……?」
アンナの背後に立つのは、昨日のお茶会の悪夢再びの光景。
「護衛はそんなに要るのかな……物々し過ぎない?」
また全員召集してませんか!? 美形眼福ひゃっほー!とは思うけど、それにしてもこの数…。
お見送りってそんなに物騒なの!?
「これでも少ないくらいです、姫様」
アンナが静かな声で答えてくれる。
「陛下と相談した結果、もう少し増やす事も考えています。」
「ええー!? 私、もしかして命でも狙われてるの!? いや、ほら皇女だから大なり小なりは狙われてるかもしれないけどさ……」
驚きに口調が乱れるクラウディア。
「姫様、口調が乱れております。宜しくありませんよ。」
速攻でアンナに注意を受ける。
「あ…、えー…っと、わたくしの護衛の数が多すぎませんこと?」
指導された通りのお澄まし顔を慌てて作り、改めて言い直す。
いつものアンナなら、ここまでは厳しくない。
三人娘も、護衛達も、私の砕けた口調には慣れたものだし。
今から他国の王族の帰国をお見送りする場に行く事を踏まえて、今から淑女の仮面被っとけって事かな―――?
「姫様付きとしてお仕えして早七年―――姫様の全てを管理把握してきた私としたことが、大変なミスを犯してしまいました。少し考えれば分かる事を気付きませんで。不甲斐なくて不甲斐なくて悔しくて涙も出ません。本来であれば、ヴァイデンライヒの光とも呼べる尊き御身の姫様には、これの倍の人数をご用意するべきでした。わたくしの持ちうる全ての権限を使って厳密な調査と審査を重ね、そして尚、陛下の厳しくねちっこい尋問をスルー出来た者だけを、すぐにでもご用意できるよう鋭意努力しますので、今はこの人数でご容赦下さい。」
(―――ねちっこい尋問…? それって拷問とかじゃないですよね…?血濡れではなくて無敗の皇帝だったよね?)
アンナの話し方も何か恭しすぎるし、護衛も物々しい数だし、さらに増やすつもりらしいし…。
どうなってるんだ! 何がおこってるのか誰も何も教えてくれないから、妄想力で補っちゃうよ!?
護衛増えたのは三人娘の婚活の為とか、更に増やすのはアンナが今の護衛人数では自分の相手に不足と思って、もっといい相手探しているとか!
いいんですか!? こんな適当にこと私に思われてて!
とまぁ脳内ではキャンキャン言うけど、口には一言も出来ないわけで…
「アンナ……何か今日は堅苦し過ぎない? 今までそんな堅苦しい話し方してこなかったじゃない…寂しい。いつものような話し方でいいよ?」
「なりません姫様、不肖アンナ、しばし贖罪の時として己を戒めているのです。」
(アンナって女官だよね…? 女性騎士じゃないよね?)
いつもなら、慈愛に満ちた柔和な微笑みを浮かべれば、聖女のような雰囲気のアンナ。
今のアンナは眼光鋭く、瞳の奥にメラメラと燃える炎のような決意を灯し、アンナの後ろに控える近衛騎士団に交じっていても遜色ない程に精悍で凛々しい顔付きをしている。
たった一日でガラリと変貌したアンナ。
お茶会での聖女様とのゴタゴタがアンナの何かを刺激してしまったのだろうか…。
母のようにも姉のようにも慕っているアンナの態度の変化に、クラウディアは戸惑った。
(アンナぁぁ!? ホントに何があったのーー!?)
護衛騎士がクラウディアを囲むように全方位に立ち、三人娘が艶やかに微笑み「「「いってらっしゃいませ、姫様」」」と移動を促されてる今、アンナに訊く事も出来ない。
(二人っきりになって訊くしかないか―――)
アンナと心の距離が出来た訳ではないと思うのに、それでも、出来てしまったように感じて、そわそわして仕方ないのだ。
クラウディアは、先導する護衛騎士のエリアス・ラシュレーの背中を見つめながら、指定された場所まで歩みを進めるのであった。
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