転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

iBuKi

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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

不可能を超えて、もはや神の御業レベル。 in 影二人

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「ローデヴェイク准将が、そう仰ったのですか?」

 薄茶色の真っすぐな髪を肩で切り揃え愛らしさよりは端正な顔立ち、細身だが上背があり何処もかしこも引き締まった筋肉質な肢体。肉食獣を彷彿とするのは常に音を立てずに移動しているせいもあるかもしれない。
 そして、少し釣り目で黄みの強いオレンジ色の瞳。
 その猫のような瞳で、今、オレは侮蔑を隠そうともされず睨まれている。

(オレ、一応、キミの、上司、なんですけどねぇ~)

 この計画の責任者であり、目の前で侮蔑を浮かべる部下の上司でもある翡翠の心中で呟かれる言葉。

 こいつのコードネームは「シトリン」
 オレらのコードネームは宝石や鉱物などから選ばれている。
 名付け親は閣下である。
 閣下とは、ローデヴェイク准将であり、母性を拗らせた……ゲフンゲフン、その名は禁句だったな。
 影の任務を請け負うようになってから、生まれた時から呼ばれていた名は諜報機関に属する者には必要とされなく、今では親か兄弟か程度にしか呼ばれる事がない。
 任務の秘匿性の強さから社交は一切してないし、実家に戻る時すら長い前髪を下ろし鼻の頭辺りまで隠すし、街に出掛ける時もソレは常に一緒だ。
 街の場合はそこに黒縁の伊達眼鏡付きをかけて徹底しているつもり。
 こんなんだから、彼女を作るなんて夢のまた夢で、勿論オレも居ない。
 誤解しないで貰いたいが、彼女が居た時もある。
 決して年齢イコール彼女いない歴ではない!
 ただ……恋愛というには微妙な熱さではあったかもしれないが。
 影に配属される前まで付き合ってたよな? たぶん? 
 といった程度の、薄い関係性の相手、いやいや知人じゃなくて彼女だったから!
 顔を晒せばそこそこモテる方よ? オレ。


 オレは誰に脳内で言い訳をしているのだろう。


 話は戻り、コードネーム「シトリン」は、オレからのあの少女へのこれからの説明を受け、本当に閣下が言ってた事なのかと胡散臭いと思われてる訳です。

「子息令嬢レベルを何とか伯爵令嬢レベルまで行けるか微妙なラインですけど。
 公爵家……もしくは皇族並とは冗談にしても悪質です。
 期間も最短でとは無茶ぶりが酷い。」

 話しながら無茶振りに怒りが増していくのか、それとも、あの少女との遣り取りを思い出すのか、物騒なオーラを立ち昇らせるシトリン。

「あーー、いや、閣下も陛下に頼まれてるらしくてな。
 ほら、今の段階ではまだ動かれていないけど、これから姫様を狙うかもしれない勢力が出てくるのは知ってるだろう? その中で一番執着しそうなのが治外法権を持つ教会の現枢機卿というのは情報共有されてるハズだから知ってるよな?」

「はい。アンブロジーン枢機卿ですよね。娘が酷く愚かで我らが姫様に大変な無礼を働いたとか。」

「ああ、あの娘はオレ達影の敵認定済みだからな。今思い出しても―――話を戻すか。その枢機卿が姫様に注目する前に平民少女に注目させようとしてる訳よ。
 何処かから姫様の諸事情が露見した時に、姫様ではなく平民に注目がいくようにしたいのだそうだ。」

「それでは、公爵令嬢並の所作を身に付けさせろというのは? 伯爵令嬢でも十分かと思われるのですが?」

「より姫様に近づける為って事らしい。」

「あの容姿レベルで姫様に近づける等、不可能を越えて神の御業レベルですが。」

「ははっ、オレもそう思う。」

 翡翠は、はぁ……っと大きなため息をつく。

「陛下にお考えがおありになられるのだろう。オレらに出来るのはあの平民を限界のその先まで引っ張り上げて、もはや拷問レベルに扱くしかない。」

 いつも飄々としていて、上官らしくない気易い態度で接してきて、誰にでも人懐っこい笑顔を浮かべてみせる。あの翡翠が冷酷な笑みを浮かべていた。

 シトリンは背にぞくりとしたものが這いあがった気がした。
 翡翠の本質はソレなのではないかと。

 実力は上官らしく群を抜いてあるのに、普段の飄々とした態度が周囲の油断を誘い警戒心を解かせるのだ。

「ローデヴェイク准将は大変優秀な方だ。全くの勝算なく仰られた訳ではないのだろうし……あの方の為にも、何より姫様の為に締め上げてでもどうにかしますよ。」

 シトリンはアンナを尊敬しており、クラウディアの事は崇拝している。

 影達はクラウディアの為なら不可能を可能にしてみせる、出来る子集団なのである。

「やってみせる。ではなくて「やる」しかないんだけどね? 勿論、影総出で仕上げるから、いつでも言ってくれ。」

「承知しました。では早速、皆を集めてスケジュールの組み直しをしましょう。」

「ああ、そうだな。影達全員が揃ったら、特大のやる気スイッチを連打される事間違いなしの報告がある。シトリンも楽しみにしてるといいよ」

「はい。」
 真面目な顔でシトリンは頷いた。
 期待する気持ちを表すように口角が僅かに上がっている。
 その隠せぬ期待を発見した翡翠は、シトリンにも可愛いトコはあるんだよな、とニンマリとしたのだった。
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