93 / 110
第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。
帰城と発熱。
しおりを挟むホーデンハイム伯爵領を予定していた滞在期間を切り上げて、急遽皇都へ帰還する事になった。
もっと推しについて盛り上がれそうだったのに残念だ。
推しの姿絵は手に入れられなかったけど、私はヴァイデンライヒ騎士団はイケメン揃いだと思っているので、どなたであっても喜べる自信があった。
だから、あわよくば姿絵を頂きたかった……けど。
邪な考えでいると神様に邪魔でもされてるのかっていうタイミングで、突然、皇都へ帰る宣言されてしまった。
それで伯爵家の方々や使用人の方々も慌ただしくなり、勿論こちら側も帰城の準備に追われて(私は何ひとつさせて貰ってないけど、周りが忙しい中で姿絵の話なんて持ち出せる雰囲気でもなかった)ねだるタイミングすら無かった――――
これは、もういよいよ、お忍で市井計画発動せねばならないかもしれない。
自分で動かず人頼りばかりしてるから一枚も手に入らないんだ、きっと。
皇都に戻ったら上手いタイミングを見計らう事にしよう。
アンナに相談したいけど、相談したら絶対行けなくなる気がする。
皇都に戻って来て、三日程が過ぎた。
ホーデンハイム伯爵領から皇都への帰りは全て貴族向けの宿に宿泊して移動していたので、宿泊施設は豪華ではあるものの何処も似たり寄ったりの宿だったので、少し物足りなかった。
おまけに、帰りは海沿いを通る予定であった当初のルートではなく、別ルートに変更されたらしくて、海産物とは無縁のルート。
行きで食べた美味しいカルパッチョ、また食べたかった……。
馬車内は静か過ぎたの一言に尽きた。
ちょっかいかけられるのも困らせられるけど、静か過ぎるのも寂しいものという。
何とも複雑な気持ち。
シュヴァリエは自分が座っている座席の空いた場所に箱が置かれていて、その中にこれでもかと書類が詰め込まれてた。
仕事量がえげつない……。
それをずっと読んで、何かを書いてた。
物凄い集中してたので、静かにおとなしく存在を消すようにしてたけど。
宿での食事でさえ共に出来なくなる程に忙しいなんて。
翌日の移動時は、もっと邪魔しないようにしようと気を遣うよね。
それで「私、別の馬車に乗ろうか?」と提案したくなるよね。
「は?」と言った時のシュヴァリエの顔が怖かったので「いいえ、一緒に乗ります。乗らせて下さい。」って言っちゃうよね。魔王だったもん。
凄い気を使いまくった帰りだったので、帰城して自分の離宮に到着したらどっと疲れが出ちゃって……。
熱が出て風邪をひいたという。
三日目の今、やっとスープやパン粥以外の物が食べられるようになった。
喉は痛いし、鼻が詰まって鼻声になるし、熱が高くて体が熱いし。
シュヴァリエは大騒ぎするし。
まぁそれは想定内なんですけど、机を私の寝室に入れてそこで仕事しようとしないで下さいっていう。
アンナが「姫様は安静が一番大切なんですから、静かに寝させてあげてください」って必死に止めて、私も「ぐっすり寝たいから」と後押しして、何とか諦めて貰った。
あ、マルセル様とレイラン様も「姫様のご様子に伺える時間はどうにか作りますから、陛下しか出来ない仕事をして下さい」と言ってくれてたのもあったのかも。
ゲームの世界だからか、異世界だからか、前世の世界での十三歳とは思えないチートキャラである。
能力的なのはもう完全無欠のスーパーチートキャラであり、時折サイコパスの気質があるよね? と突っ込みたくなる言動が見受けられるくらい。
見た目もスーパーチートで大天使様仕様の美少年様だ。
ただ、前世の十三歳と比べたらもう既に十八歳くらいの身体付きをしていると思う。
私が東洋人しか実物見た事がないからか、そう感じるのかもしれないけど。
私だって、見た目は九歳とは思えない程に成長している。
精神年齢が高い(ハズ)から、それを考慮するとしっくりきます。多分。
何が言いたいかというと、見た目が十八歳くらいの兄が取り乱すと私がイメージする年齢相応の十三歳になって、それがちょっと可愛くていいなぁって話です。
お仕事中なのに、一時間に一回くらい顔を見に来るのは止めて頂きたいけど、
その時の心配そうな顔が、何だか幼げな雰囲気で。
いつもの意地悪な態度も、皇帝様っぽくしてる所作も雰囲気も全てなくなって。
ただ妹を心配している優しい兄なのが嬉しい。
五分程度しかお見舞い時間を与えられていない事に不満を漏らしてたけど、多分、執務室からの移動時間がそこそこあるから五分が限界だと思うよ……とは言えなかった。
心配そうな顔で毎回「大丈夫か?」って言われるのが、くすぐったかったから。
三日目の今日は随分と元気になったので、見舞いに来る回数は三時間に一度になった。
心配かけたお詫びに何かあげようと、アンナに体を起こして貰って、ベッドの上でチクチク刺繍をしている。
大きな刺繍はアンナに禁止されてしまったので、いつものハンカチに刺繍していた。
今回刺しているのは、魚にした。
ホーデンハイム伯爵領に行く時に食べた魚のカルパッチョを思い出して貰えるようにと思って。
三時間に一度部屋に来るので、来る時間が迫ったらそっと枕の下に隠している。
カルパッチョの事を思い出して、城の食事にも出してくれという、あわよくば的なのがあったりするけどね!
アンナはクラウディアがニコニコしながら刺繍を刺す元気な姿に内心ホッとした。
クラウディアに何かあれば、魔王の誕生待ったなしである。
それだけでなく、アンナ自身も悪魔になってしまうかもしれない。
私の配下の影の者たちも……。
そう考えると、たかが風邪と侮れず厳戒態勢を敷き徹底して看病に明け暮れた三日間であった。
この三日間はまともに寝れていないが、そんなもの姫様が元気になるのであればいくらでも報われる。
何の刺繍を刺しているのだろうとクラウディアに近づき手元を覗く。
青い糸が仕様されているが、なんだろう。
蛇……? なのか?
何故、蛇……?
陛下に差し上げると言っていたが、陛下は実は蛇好きとかだろうか。
アンナは内心で首を傾げつつ、クラウディアが刺繍する姿を見守った。
175
あなたにおすすめの小説
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妖精隠し
棗
恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。
4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。
彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
攻略なんてしませんから!
梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです!
【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/
閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。
此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。
*攻略なんてしませんから!別ルート始めました。
【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる