105 / 110
第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。
小さな手がかり。
しおりを挟む
「中の安全を聖騎士から確認後すぐに枢機卿が中へ……それからしばらくして激しい音がしました。不測の事態だと即判断した護衛が小屋に勢いよく突入したのに合わせて私たちも続きました。狭い小屋の中で何かが燃えていました。燃えている対象に枢機卿が魔法をいくつも行使していました。水魔法や氷魔法だったかと思います。ですがいくら魔法で鎮火させようとしても対象の火が弱まることなく全てが燃え尽くされてしまいました」
随分と昔のことではあったが、あの時の枢機卿の異様な姿だけは鮮明に覚えている。
半狂乱とでもいうのか、言葉にならない何かを大声で叫び続けていた。
全てが燃え尽きたあと、枢機卿はガックリとその場で膝をつきしばらく動かなかった。
「燃えたか……その対象とは何だったのか分かっているのか?」
眉間に皺を寄せ訊いていたシュヴァリエが問いかけた。
「……何だったのでしょうか。燃えていた場所は寝台のようだったので人であったのかも――しれません。検分しようにも全て灰になってしまい……その灰は聖騎士が回収していましたが、私たちに何であったかは伝えられることはありませんでした」
「灰を回収か」
シュヴァリエはアレスに視線を向ける。
アレスは同意するように頷くと「他に何か覚えていることはないか、例えば……灰の他に回収していたものや、枢機卿が半狂乱で叫んでいた内容とか」と問いかける。
「言葉を発していたのか不明ですね……やめろやめてくれと叫んでいたような気がします。騒がしかったのではっきりと聴き取れていた訳ではなく、なんとなくそのように言っていたかもしれない、ですが」
「ふむ……」
理性が抜けて半狂乱になっていたのであれば、隠していた何かを吐いてくれた可能性があったかもしれないと期待したが、それはなかったようだ。
「陛下、発言の許可を頂戴出来ますでしょうか」
その時、ハーリス・メルローの隣で寸分の隙なく直立不動で並び立ち、あの場で共にに居た同期であるハーリスへの問答が一区切りするのを窺っていた。
一区切りしたと判断した女性騎士ミシェン・フェートリルは挙手をし発言の許可を請う。
「発言を許可する」
シュヴァリエがミシェンを見つめ許可を与える。
ミシェンは己の心の底まで全てを見透すかのようなパパラチアサファイアの瞳に見つめられて、握りしめたままの手が微かに震えた。
それは高揚か怯えなのかは判別出来ないが、何か背筋がゾクリとする。
長年培ってきたと自負している鋼の自制心で表向きの平静を保ち、お手本のような美しい騎士の礼を取ると口を開いた。
「有難うございます。私が記憶する限り「種族」と「私のものだ」と断片ではありますが、不明瞭でありますが、恐らくそのように言っていたのではないかと。それともう一点、完全に燃え尽くされ火の消えた後に残った灰ですが、一瞬色がおかしく見えたような気がしました。ほんの一瞬のことでしたので、見間違えたのかと思ったのを覚えています。私が記憶する限りは以上です」
「一瞬の色変わり? 種族……」
アレスは顎に手を宛て独り言のように呟いた。
「報告書にそれを記載したか?」
「はい。やり取りのすべてを記載しました」
「私もすべてを記載致しました」
あの場に居た騎士ふたりは新人であったこともあり忖度を一切することなくそのまますべてを記載して提出したようだった。
それを訊いたアレスが口を開く。
「おかしいですね。その日の報告書を私は事前に確認していましたが、今訊いた内容はひとつも記されていない。で、あるならば提出された報告書を改竄したものがいるということ。勿論、二人が示し合わせて偽証したのでなければ、ですがね」
「……偽りを申したのか?」
アレスの発言にシュヴァリエの瞳に物騒な光が宿る。
問いかけに対する回答次第では生死に関わると察せられた。
「我が真の忠誠は皇帝陛下にこの命尽きるその瞬間まで捧げております。陛下に偽りを申すなど、我が身を切り刻まれ四肢切断されようとも有り得ぬことです!」
「右に同じく。我が生涯の献身と忠誠を陛下に誓っております。」
「種族」の言葉が出たことでアレスとシュヴァリエには二人が偽りなど申していないことは分かっていた。
ただ、少し揺さぶってみたら何か出るかもしれないと思っただけであったが―――
騎士の真面目で実直な忠誠心を捧げられただけであった。
「偽りないのであればよい。疑って悪かった」
シュヴァリエは二人に微笑む。
シュヴァリエにとって戦場を共に駆けた騎士たちは、臣下でありながら仲間という意識が強い。
絶世の美貌で微笑みかけられた二人は、先程とはまた違う生死に関わる慟哭を体感したのだった。
随分と昔のことではあったが、あの時の枢機卿の異様な姿だけは鮮明に覚えている。
半狂乱とでもいうのか、言葉にならない何かを大声で叫び続けていた。
全てが燃え尽きたあと、枢機卿はガックリとその場で膝をつきしばらく動かなかった。
「燃えたか……その対象とは何だったのか分かっているのか?」
眉間に皺を寄せ訊いていたシュヴァリエが問いかけた。
「……何だったのでしょうか。燃えていた場所は寝台のようだったので人であったのかも――しれません。検分しようにも全て灰になってしまい……その灰は聖騎士が回収していましたが、私たちに何であったかは伝えられることはありませんでした」
「灰を回収か」
シュヴァリエはアレスに視線を向ける。
アレスは同意するように頷くと「他に何か覚えていることはないか、例えば……灰の他に回収していたものや、枢機卿が半狂乱で叫んでいた内容とか」と問いかける。
「言葉を発していたのか不明ですね……やめろやめてくれと叫んでいたような気がします。騒がしかったのではっきりと聴き取れていた訳ではなく、なんとなくそのように言っていたかもしれない、ですが」
「ふむ……」
理性が抜けて半狂乱になっていたのであれば、隠していた何かを吐いてくれた可能性があったかもしれないと期待したが、それはなかったようだ。
「陛下、発言の許可を頂戴出来ますでしょうか」
その時、ハーリス・メルローの隣で寸分の隙なく直立不動で並び立ち、あの場で共にに居た同期であるハーリスへの問答が一区切りするのを窺っていた。
一区切りしたと判断した女性騎士ミシェン・フェートリルは挙手をし発言の許可を請う。
「発言を許可する」
シュヴァリエがミシェンを見つめ許可を与える。
ミシェンは己の心の底まで全てを見透すかのようなパパラチアサファイアの瞳に見つめられて、握りしめたままの手が微かに震えた。
それは高揚か怯えなのかは判別出来ないが、何か背筋がゾクリとする。
長年培ってきたと自負している鋼の自制心で表向きの平静を保ち、お手本のような美しい騎士の礼を取ると口を開いた。
「有難うございます。私が記憶する限り「種族」と「私のものだ」と断片ではありますが、不明瞭でありますが、恐らくそのように言っていたのではないかと。それともう一点、完全に燃え尽くされ火の消えた後に残った灰ですが、一瞬色がおかしく見えたような気がしました。ほんの一瞬のことでしたので、見間違えたのかと思ったのを覚えています。私が記憶する限りは以上です」
「一瞬の色変わり? 種族……」
アレスは顎に手を宛て独り言のように呟いた。
「報告書にそれを記載したか?」
「はい。やり取りのすべてを記載しました」
「私もすべてを記載致しました」
あの場に居た騎士ふたりは新人であったこともあり忖度を一切することなくそのまますべてを記載して提出したようだった。
それを訊いたアレスが口を開く。
「おかしいですね。その日の報告書を私は事前に確認していましたが、今訊いた内容はひとつも記されていない。で、あるならば提出された報告書を改竄したものがいるということ。勿論、二人が示し合わせて偽証したのでなければ、ですがね」
「……偽りを申したのか?」
アレスの発言にシュヴァリエの瞳に物騒な光が宿る。
問いかけに対する回答次第では生死に関わると察せられた。
「我が真の忠誠は皇帝陛下にこの命尽きるその瞬間まで捧げております。陛下に偽りを申すなど、我が身を切り刻まれ四肢切断されようとも有り得ぬことです!」
「右に同じく。我が生涯の献身と忠誠を陛下に誓っております。」
「種族」の言葉が出たことでアレスとシュヴァリエには二人が偽りなど申していないことは分かっていた。
ただ、少し揺さぶってみたら何か出るかもしれないと思っただけであったが―――
騎士の真面目で実直な忠誠心を捧げられただけであった。
「偽りないのであればよい。疑って悪かった」
シュヴァリエは二人に微笑む。
シュヴァリエにとって戦場を共に駆けた騎士たちは、臣下でありながら仲間という意識が強い。
絶世の美貌で微笑みかけられた二人は、先程とはまた違う生死に関わる慟哭を体感したのだった。
792
あなたにおすすめの小説
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妖精隠し
棗
恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。
4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。
彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
攻略なんてしませんから!
梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです!
【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/
閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。
此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。
*攻略なんてしませんから!別ルート始めました。
【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる